デスクトップコンピューターだけでなく、モバイル型コンピューター上での駆動を目指しているWindows 8(開発コード名)だが、直面する問題の一つにバッテリ消費問題がある。消費電力の軽減は駆動時間の延長につながり、より優れたOSであることを示す重要ポイントとなるのは言うまでもない。今週も公式ブログに掲載された情報を元に、Windows 8のバッテリ駆動に関する試みを中心にレポートをお送りする。
バッテリ消費量を軽減するWindows 8
バッテリ消費の問題はスマートフォンやモバイル型コンピューターを活用しているユーザーにとって深刻な問題である。バッテリ消費量の高いサービスを無効にし、過度にプロセッサを乱用するアプリケーションの使用を控えるなどして、バッテリの持ち時間を延ばすために努力しなければならない。
先ごろ話題となったiPhone 4Sのバッテリ消費問題のように、OS側に問題がある場合、ユーザー側で対処するのは難しい(詳しくはこちらの記事を参照。ただし、11月11日時点で同問題は解決済みである)。従来のデスクトップコンピューターだけでなく、モバイル型コンピューターをも包括するWindows 8にも、この問題は付きまとう。
端的に述べると、バッテリ消費量を軽減するためには、無駄な点を見直せばよいことになる。例えばInternet Explorer 9を導入した環境は、リッチな表示能力やパフォーマンス向上を実現したJavaScriptが省電力化と相反するため、タイマー間隔を調整する項目を設けるようになった。ユーザーは同項目を調整することで若干ながら、外出先での駆動時間を延長させることが可能になっている(図01)。
また、Windows 7では全体的なパフォーマンスを向上させるために、イベントサウンドの長さを見直し、マルチタスクの割り込みにそれまでとは異なるタイミングを設けるなど、様々な改良を施した。その結果は読者方々がご存じのとおり。このようにOS本体を含むソフトウェアにチューニングを施すことで、バッテリ消費問題も解決に至ることができるはずである。だが、このチューニング方法はWindows 7の時点で一定の限界に達していた。
そのためMicrosoftは、異なるアプローチでWindows 8におけるバッテリ問題を解決する方法を導き出している。それが、Metroスタイルアプリの動作設計だ。本来マルチタスクとは、複数のプロセスを切り替えて実行できるシステム・OSを指し、これまでのWindows OSでは標準搭載されてきた機能である。我々はバックグラウンド(背面)アプリケーションに任意の処理を行わせながらも、フォアグラウンド(前面)アプリケーションで作業を継続することができたのも同機能のおかげだ。
しかし、このマルチタスク処理は結果として消費電力の増加につながってしまう。そこでMetroスタイルアプリでは非稼働中のアプリケーションをサスペンド(一時停止)することで、消費電力の軽減を実現した(図02)。
ロジック自体は目新しいものではなく、UNIX系OSではシグナルという仕組みで任意のプロセスを一時停止する仕組みは以前から実現しており、Windows OSでもWindows NT 3.1時代の頃からスレッド単位で実行の中断や再開を行うAPIが用意されていたが、ユーザーレベルで操作する場面はほぼ皆無である。起動したアプリケーションは動作するのが当たり前、という当たり前の発想を逆手に取った面白い実装だ。
冗長になるため詳細は省くが、サスペンド中のMetroスタイルアプリが一定ごとに情報を取得しなければならない場合は、前回紹介したWindows Push Notification ServiceとWinRTのロジックを用いて呼び出すことが可能になるという。この仕組みで気になるのはメモリ消費量の増加だが、現時点では詳しく述べられていない。同社は今後のチューニングで解決していくつもりなのだろう。
もう一つの改善は同社開発陣が「Idle hygiene」と呼んでいるアイドル状態の改善だ。バッテリはプロセッサーやストレージなど各種デバイスの稼働で消費するだけに、アイドル状態を見直すことでバッテリ寿命の延長につながるのである。
そこで同社は、OS自身やアプリケーション、サービスなどに代表されるソフトウェアのパフォーマンスを測定するためのWindows Performance Analysisや、ソフトウェアの診断情報を取得するためのEvent Tracingといったツールを使ってWindows 7とWindows 8の比較を試みた。
Windows 7は15ミリ秒のタイミングで100%のアイドル時間を確保しているが、Windows 8は100ミリ秒以上の長いアイドル時間を確保することに成功している。どのような仕組みでアイドル時間を確保したのか説明されていないが、プロセッサーやチップセットのアイドル状態を意識的に活用することで、この結果を導き出したのだと推測する(図03)。
このようにWindows 8では見えない箇所の改良が多く、遠くない将来に公開されるであろうベータ版やRC版で、これらの改良を享受できるようになる。確かにUI面では疑問が残り、Metroスタイルアプリが従来のユーザーにどれだけ有益なのか、もしくは新しい使用スタイルを提供するのか現時点で判断できない。だが、Windows 8を従来のデスクトップ向けOSという観点から見ると、いくつかのアドバンテージがあることを理解できるだろう(図04~05)。
ウィットに富んだMicrosoftのテレビCM
今週のレポートは少々難しい内容だった。ここで息抜きとして米国のテレビで放送されているMicrosoftのCMを紹介しよう。動画はYouTubeのMicrosoft公式チャンネルに掲載されており、誰でも視聴できる。
タイトルは「Microsoft "Homework 2.0" TV Commercial」。日本語に意訳すると"宿題"もしくは"持ち帰り残業"という意味だが、CMの内容は父と息子がリビングと思われるテーブルに並んでいるところから始まり、両者ともコンピューターを操作している最中だ。それぞれ会社の残業と学校の宿題をやっているのだろう(図06)。
父が席を立ち、キッチンへ向かう合間に息子が父のコンピューターをのぞき込むと、そこにはシンプルなグラフが映し出されていた。10代半ばと思われる息子には地味でつまらないものみ見えたのだろう。そこで息子はおもむろに父のコンピューターをいじりだし、背景画像のインサートなど作業をし始めた(図07~08)。
キッチンから戻ってきた父が着席したタイミングで、横からから息子がキーを叩くと、先ほどとは一変したグラフがアニメーション的に再生される。個人的には学生好みの派手な効果に意味があるのか首をかしげてしまうが、確かに最初のグラフに比べれば目を引くのは事実だ。ディスプレイを眺めつつ、息子の仕業だと気付く父は、知らんぷりをする息子をシニカルな微笑みを携えながら横目で見ている(図09~10)。
これで物語りは終了。本動画はMicrosoftが「it’s a great time to be a family」シリーズという広告展開の一環で作成されたCMであり、日本のマイクロソフトも「かぞくがいちばん。」と題したキャンペーンを実施中だ(国内版はリンク先から視聴可能)。
Microsoftのブランドイメージ戦略は、Appleなど他社のIT企業と比較すると後塵を拝しているのが現状だが、ここ数年はWindows OSやOfficeスイートといった主力製品を核に巻き返しを図っている。同社の製品はいずれも"使って楽しくなる"ようなものではないものの、そのユーザー数が示しているように道具としては優秀といっても過言ではない。そこにMicrosoft製品を使うことでの利点や楽しさを描いているCMが、本当の良さを映し出す鏡になるのか。今後放映されるCM展開とそれに続く製品に注目していきたい。
阿久津良和(Cactus)