米Hewlett-Packard (HP)が以前に発表していた同社PC部門の事業売却を含むリストラ計画を再考し始めたという。米Wall Street Journal (オンライン版)が10月11日(現地時間)に報じている

この件は、HPの会計年度で2011年第3四半期にあたる5-7月期の決算報告を8月に行った際、PCやスマートフォンなど同社のコンシューマ事業を統括するPersonal Systems Group (PSG)について、事業部分離(スピンオフ)や事業売却を含むリストラ策を打ち出したことにさかのぼる。このとき、Palm買収で獲得したwebOSのハードウェア事業については即時取り止めを表明していたが、PC事業の行く末については今後1-2年をかけてじっくり検討していくと保留の態度をとっていた。だがWSJの今回の報道では、この事業見直し計画そのものを取り止める可能性が高くなったことを示唆している。

HPの方針が二転三転している理由はいくつかある。1つはPSGスピンオフ計画を発表した前CEOのLeo Apotheker氏が同職就任からわずか1年弱で解雇され、米eBayの元CEOであるMeg Whitman氏がHPのCEOに就任し、Apotheker氏時代に下された決定のいくつかの見直しを進めていることだ。Apotheker氏はもともと独SAPでCEOを務めていた人物であり、スキャンダルでCEO職を追われたMark Hurd氏に代わって2010年9月に同職に就任していた。HPのPC事業はHurd氏の時代にシェアトップとなって全盛期を迎え、さらにPalm買収とwebOS資産の活用でポストPC時代のデバイス戦略を乗り切ろうとしていた経緯がある。だがApotheker氏はエンタープライズ事業を中心とした効率重視の体制を目指していたようで、高収益のプリンタ事業を除けば、ハイエンドサーバやソフトウェアなどの比較的利益率の高い事業に資産を集中させ、PCなどコンシューマ系事業の整理に着手している。その姿は、ちょうどソフトウェアとコンサルティングに事業をシフトさせた2000年前後の米IBMに重なる。

Apotheker氏解任の理由ははっきりとしていないが、役員会との意見の対立が背景にあるのは間違いない。同氏の解任後すぐにWhitman氏がCEOとして指名されていることからもわかるように、Whitman氏のCEO就任の目的の1つは、Apotheker氏によって下された決定のいくつかを見直し、混乱したHPを建て直すことにあるものとみられる(なお、Whitman氏自身は今年1月からHPの役員会のメンバーになっており、Apotheker氏によるPSG事業分離の件について何らかの意志決定に携わっていたと考えられる)。その第1弾が今回のPSG事業戦略の見直しであり、同氏ならびに役員会は現時点で決断していないものの、少なくとも10月末までにWhitman氏が最終決断を下すことになると同紙では説明している。

またPSG戦略見直しのもう1つの理由として挙げられているのが、PC事業のスピンオフによるデメリットだ。PC事業分離でHPのサプライヤからのコンポーネント購入力が落ち、スケールメリットを出せなくなる問題が考えられるという。これがHPのサプライチェーン構築を困難にし、結果として利益率を落とす可能性があるというのがその分析結果だ。とはいえ、この分析もまだ判断の途上にあり、現時点ではPC事業売却が遠のいた可能性があることを示すに過ぎない。いずれにせよ、最終決断は近いうちに正式発表されるだろう。