現在PCは1日に100万台以上が出荷されており、全世界で15億台のPCが使用されている。新興市場のめざましい成長がPC市場の伸びをけん引している形だが、一方で米国や日本など成熟した市場ではタブレットやスマートフォンにユーザーの関心が移りつつある。こうした動きがいずれ、いまPCが成長している市場に波及しても不思議ではない。IDF 2011 2日目の基調講演を担当したPCクライアントグループのバイスプレジデントMooly Eden氏は、PCがこれまでの成長を維持するためには新たな進化が必要であると語り、登場間近なUltrabook製品を紹介、Windows 8搭載機やIvy Bridge搭載機などのプレビューを披露した。
PCは順応性の高いデバイスであり、過去20年の間にいくつかの変化を遂げることで良好な成長を維持してきた。例えば1995年にはPentium MMXとCD-ROMドライブの登場によってPCがマルチメディア機器として使われるようになり、ビジネスからコンシューマに市場を広げた。2003年にはCentrinoがモバイルコンピューティングを開拓し、その後のノートPCの爆発的な成長を起こした。もし、こうした過去の変化がなかったら、PCはいまのような市場を確保できているだろうか。答えは「否」である。タブレット/スマートフォン時代を迎えた今、PCにはスマートデバイス・ユーザーに受け入れられる進化が求められている。それに対するIntelの回答が、同社が提唱する新世代の薄型軽量ノート「Ultrabook」である。
今日のPCユーザーは、コンテンツを作り、消費し、そして共有する。ユーザーは3点すべてをPCに求めている。しかし既存のPCの多くは、これら3点を十分に満たすものではない。要因の1つとして、Eden氏は過去の開発プロセスを挙げた。Intelの技術者がエンジニアの観点からプロセッサを設計し、プロセッサに合わせて作られたOSやアプリケーションがユーザー体験を決定する。これでは開発の過程の途中までユーザーが見えていないため、コンシューマ市場に関しては製品のユーザー体験とユーザーの要望にずれが生じてしまう。「今日もっとも大きな市場はエンタープライズではなくコンシューマであり、プロダクティビティではなくユーザー体験が問われる」とEden氏。そこでIntelは「コンシューマが何を求めているか?」を最初に考え、それを満たすのに必要なプロセッサ/ハードウエアに取り組んだ。その成果となるUltrabookは、スリム・軽量でセキュリティに優れ、接続性、各種メディアを存分に楽しめる性能、長時間駆動を兼ね備える。「作る」「消費する」「共有する」のバランスのよいユーザー体験を提供する製品になる。
Ultrabookの第一弾製品に搭載されるSandy Bridgeは、すでに7500万ユニットが出荷されており、これはIntel製品の過去最速ペース |
ユーザー体験を満たし、かつ性能・機能も向上させる開発体制にシフト |
今年のホリデーシーズン向けとなるUltrabookの第一弾製品は、Sandy Bridgeを搭載する。さらに2012年前半にはIvy Bridge搭載製品が登場する。微細化とマイクロアーキテクチャの刷新を1年ごとに行うIntelのTick-Tockモデルにおいて、Ivy Bridgeは22nmプロセスに微細化されるプロセッサ、つまりTickの年の製品になるが、Eden氏は「単なるTickではなく、Tickプラスだ」とした。電力管理が改善され、例えば従来のアーキテクチャでは割り込み要求が、スリープ状態であっても常にコア0に送られたが、Ivy BridgeのPower Aware Interrupt Routingは動作しているコアにルートする。またSandy Bridgeで高く評価されたグラフィックス機能が大幅に強化され、基調講演では20個の1080p動画ストリームを同時に再生するデモが行われた。
ユーザー体験ではきびきびとした動きも問われる。UltrabookではTurboモードによって超低電圧版のプロセッサがレスポンスよく動作する。例えば、TDP35ワットの標準電圧版のプロセッサを備えたノートPCと、TDP17ワットの超低電圧版のプロセッサを搭載したUltrabookでTurboモードを使って同じ作業を行った場合、パフォーマンスが必要な場面でUltrabookは標準電圧版のプロセッサに近いクロックで動作するという。
このほか休止状態からUltrabookを5秒以内に復帰させる「Rapid Start」、スリープ状態でも接続が維持され各種アップデートを受け取れる「Smart Connect Technology」などのデモが行われた。セキュリティに話題が移ると、McAfeeの共同社長であるTodd Gebhart氏が登壇し、Ultrabook向けのアンチセフト・ソリューションをIntelと共同開発することを発表した。Ultrabookを紛失したときに、データロック、データワイプ、ロケーショントラッキングなどを可能にする。2012年にOEMを通じて提供される予定だ。
Ultrabookを向上させるのはIvy Bridgeだけではない。Microsoftが2012年のリリースを目指すWindows 8も、その1つだ。Windows EcosystemグループのBrett Carpenter氏が、開発者カンファレンスBUILDで披露したWindows 8タブレットを持って登場。さらに壇上に置かれていたWindows 8で動作するAcer Aspire S3 Ultrabookを2秒程度でスリープから復帰させ、Metroスタイルのユーザーインターフェイスやアプリケーション開発モデルをIDF会場の開発者に説明した。
Windows 8タブレットを持って現れたMicrosoftのCarpenter氏に「悪いけど、今はUltrabookセッションなんだよ」とEden氏 |
Acer Aspire S3 UltrabookでWindows 8のUIをデモ |
最後に取り上げられたのは、Ivy Bridgeの次の世代、22nmプロセスでマイクロアーキテクチャが変わるHaswellだ。前日のPaul Otellini氏の基調講演で紹介されたシステム規模の効率性強化以上の情報公開はなかったものの、代わりに実働デモを公開した。