米Appleがオンライン動画ストリーミングサービスの米Hulu買収に向けた動きを見せていると、米Wall Street Journalが7月22日(現地時間)に報じている。Huluは米国で人気のオンラインサービスの1つで、広告をベースにTVドラマや映画といった人気コンテンツを無料でストリーミング放送している。もしAppleが実際にHulu買収するということになれば、今後iTunesサービスの一部としてこうしたストリーミングサービスがオプションの1つに加わることが予想される。

Huluは日本ではほとんど馴染みのないサービスだが、米国ではNetflixなどと並びポピュラーなサービスの1つとして認知されている。もともとDVDの郵送レンタルと月額固定料金での借り放題サービスで人気を博したNetflixが、近年ではオンライン経由での映画ストリーミングサービスで急速に市場での存在感を増しているように、米国では動画コンテンツのストリーミングが比較的身近なものになっている。実際、NetflixのストリーミングサービスはPCのようなデバイスなしでもTVから直接閲覧できるような仕組みが提供されるなど、AV家電販売における必須機能の1つになりつつある。

これはHuluも同様だ。同種のサービスながらHuluがNetflixと大きく異なるのはそのバックグラウンドで、NBC、Fox、ABC (Disney)といったメディア大手各社が共同出資で運営しているサービスという点にある。

コンテンツホルダー側が直接経営に関わるという点でユニークなHuluだが、一方で収益モデルからみた経営はそれほど順風満帆ではないともいわれている。もともと広告のみでの収益では厳しく、2010年にはHulu Plusと呼ばれる有料サブスクリプションサービスの提供を開始している。また2010年末から今年初めにかけては同社が株式公開(IPO)を目指しているという話が持ち上がっており、将来戦略の見通しが立たないなかで親会社らが手持ち株式の現金化を急いでいるといった批判もあった。だが今回のWall Street Journalの報道によれば、関係者の話として、IPOではなくより高値での現金化が期待できる会社自体の売却を模索しつつあるということのようだ。交渉の経緯は不明だが、Appleとの話し合いはまだ初期の段階で、あくまでオプションの1つに過ぎないのかもしれない。

約760億ドルという膨大な手持ちキャッシュの使い道で株主からプレッシャーを受けているAppleにとって、競合するNetflixに対抗するためにHuluを買収するのは理にかなっているというのが業界関係者の意見だ。現在のiTunesはダウンロード型のサービスが中心で、iCloudや映画レンタルを併用したとしても、その仕組みはストリーミングとは異なる。Netflix方式のHuluを傘下に加えれば、その提供スタイルの幅が広がるというのだ。仮に買収が成立したとして日本市場には当面のところ大きな影響はないと思われるが、Appleと米オンライン業界の動きを知っておくことは将来の同社の戦略を考察するうえで重要な意味を持つかもしれない。