創作物を自分自身でコントロールする意味

自身がデザインしたグル~ミ~のフィギュアを手に

――現在、森さんの描いたキャラクターたちは、BE@RBRICKを始め様々な形で商品化されていますが、森さん自身はどの程度、製品監修をされているのでしょうか。

森チャック「ヌイグルミ、フィギュア、ステイショナリー、それぞれのアイテムだけでなく、タグやパッケージまでも、全て監修しています。クオリティに納得いかない時は、試作品を何度も作り直していただくこともあります。その部分をおろそかにすると、キャラクターは簡単に消えてしまうと思うんです。キャラクターなんて、企業さんがどんどん新しいキャラクターを投入してきて、常に飽和状態ですから。それに、お金を出して買って下さるお客さまにも失礼ですしね」

――膨大な数の商品を全て監修しているのですか。クリエイターによっては、商品化権をメーカーに与えたら、後はお任せという方も多いと思うのですが。

iPhoneケース、Tシャツ、眼鏡ホルダー、これらの全てのアイテムが「自分の作品」だと森氏は語る
(C)2011 MORI CHACK

森チャック「僕は元のイラストだけでなく、グッズ自体も自分の作品だと思っているので、きっと他のクリエイターさんよりもグッズへのこだわりは強いと思います。量産されてショップに並ぶアイテムは全て僕の作品、『センスの具現化』だという感覚だから、変なものを出したら恥ずかしいんです。なので、自分とスタッフで監修できる以上のアイテム数のお仕事は引き受けないですし、商品のパッケージデザイン等も、一部を除いてほぼ全て自分で担当しています」

――キャラクタービジネスの手法として、定着の次には拡大させていく事を考えると思うのですが、全てをしっかりと出来る範囲内でコントロールするという森さんのやり方は、ある意味インディーズ的ですね。

森チャック「そうかもしれませんね。無理に拡大しようとすると内容が薄くなるだけなので、僕のセンスや世界観を完全に共有できる仲間でないと、商品開発や管理は任せられません。企業には絵心やデザインセンスが備わってないのに、アドビ製品が使えるというだけでデザイナーやってる人なんてざらですから。中にはもちろん凄い人もいますが、それでも結局監修作業はありますしね。だから11年経った今でも目の届く範囲内で、信頼できるスタッフと大切にやっているという感じです。このインディーズ的なスタンスはこれからも大事にしていきたいですね。ミュージシャンもインディーズの頃のほうがカッコイイでしょ(笑)。一般ウケねらって発信すると、どうしてもヌルくなってしまいますし。僕の作風もストリートの頃と比べるとだいぶヌルくなってしまっていますが、今ちょうど良いバランスがとれてるような気がします(笑)」

――漫画家を目指されていた当初から、状況は変われども、森さんは楽しくお仕事を続けてこられているという印象があります。

森チャック「そうですね、振り返ってみるときっかけは全部たまたま。でもそのたまたまが自分の衝動に火を着ける。何かを買いに行って買うのではなく、たまたま欲しい物に遭遇して買ってしまう衝動買いに似ています。いわば『衝動生き』ですね(笑)。楽しくないわけがありません」

――森さんのように、自分でキャラクターを創造して育てていきたいと考えている人も多いと思います。森さんがクリエイターとして、日々心がけている事はありますか。

森チャック「わざわざ言うほどの事でもないのですが、いま目の前に置かれていること、やるべきことに全力を尽くす。『今後の目標はなんですか?』と聞かれて、真面目に考えて現在思いつく未来なんて大した事じゃないんですよ。それなら今やるべきことをしっかりやっていたほうが、今じゃ到底思いつかないようなとんでもない未来がやって来ると思うんですよね。ただ、その『やるべきこと』を判断できる能力が一番肝心。僕にはそれがある程度、備わっていただけかもしれません」

撮影:石井健