船舶の長波長電波を送受信

そこで早川氏は、前述の方法とは全く異なる放送波の中波よりも波長の長い長波を利用する電磁波手法を考え出した。これが第2の方法である。これは、遠く離れた2点間に電磁波を飛ばし、その受信波形の振幅と位相を見ようというものだ。この方法はピンポイントで震源地を推定できないが、やや広い範囲での地震は予知できる。

これは、ラジオ電波である中波帯よりも波長が長い3~300kHz程度の長波長帯の電磁波を遠く離れた地点から飛ばし、それを受信するという方法である。長波長通信はもともと船舶の航行に使われてきた長距離を対象とした通信電波である。送信アンテナから発射された電波(電磁波)は地球を囲む大気圏と接する電離層と跳ね返りながら伝搬し、受信機に到達する(図2)。もし電離層に異常が発生し電離層部分が大気圏側に降下してくるなら、伝搬の光路長が短くなるため、その分到達時間は短くなる。

図2 電磁波が伝わる概念図

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、3月5日と6日に大きな電波の異常を検出した。ここでは、米国ワシントン州に設置した送信機からの電波(24.8kHz)を東京都調布市の電通大と、愛知県の春日井市、四国の高知市で、明瞭な異常として受信した。夜間の平均振幅と、その揺らぎ、両者の合成データを観測すると、調布では振幅の標準偏差が極度に減少しており(図3)、1月1日からのデータには見られなかったほどの大きさだった。この大きさはM6以上の警報クラスだという。しかもその度合いは、調布、春日井、高知と離れていくにつれ少なくなっている。

図3 東日本大震災での調布での受信データ

早川氏は3月9日にM7.2の地震がきたため、この前兆だと思ったが、それにしては3日しかないのが気にかかったという。これまでの経験から前兆は5~7日前に来ていた。通常、2σ程度の揺らぎでM4~5というデータを得てきたが、今回の揺らぎは4σと巨大な規模だった。このデータが11日の大地震の前ぶれだとこの後すぐに気が付いた。

同氏の観測網として、国内7地点(上記3点に加え、北海道の幌加内町母子里、千葉の館山市、静岡の清水市、そして京都府舞鶴市)で観測している。電波を送信する地域は、米国以外でオーストラリア西部(19.8kHz)とハワイ(21.4kHz)、国内では標準電波時計用の電波を出している福島氏のJJY局(40kHz)と、宮崎県えびの市(22.2kHz)からの電波を受信する。

今回の震災では、福島のJJYからの電波は北海道の母子里との間では大きな変化は観測されなかった。これは、電波の通り道である回転楕円形のフレネルゾーンからはみ出していたためである。震源地はワシントン州と調布との間のフレネルゾーン内に入っていたため観測できた。

阪神・淡路の震災も前兆を観測

早川氏は阪神・淡路大震災の大震災の時も実は前兆を観測していた。しかし、この時はまだ観測網ができておらず、長崎県対馬にあったオメガ局と呼ばれる電波塔(98年に解体)からの電磁波を千葉県と茨城県の県境にある犬吠岬で受信し、その通り道に震源地があったため観測できた。この時は1日24時間ごとに振幅と位相のデータをとり、日の出と日没ごろに位相が大きく乱れるというデータを1月14日から地震が起きる1月17日まで毎日観測した(図4)。18日になるとまるで何事もなかったように元の平穏なデータに戻った。

図4 阪神・淡路大震災での受信データ

電離層がなぜ乱れるか。地震はプレートの沈み込みに引きずられたり、地殻変動が起きたりするために歪みが溜り、その歪みを緩和するために跳ね返りで起きる。断層がずれる際には摩擦電気が生じる、あるいは地中の岩石に圧力が加わり、圧電効果によって電荷が生じることがある、と早川氏は言う。地面をコンデンサの一方の極、電離層をもう一方の極として大気圏を絶縁体と考えれば、地球をコンデンサの等価回路で表せる。地中の電荷が変われば電離層も大きく影響を受ける。地下の電荷が増えると、電離層にあるその反対の極性の電荷が地上へと迫ってくる。このため電離層が下がると考えられる。

地震が起きると電磁波の様子は、地震が起きるはるか前の平穏な状態に戻るが、これも地震で放電された、と考えれば無理はない。しかも阪神・淡路大震災の時には青いイナズマのような光を見たという人たちが多数いる。この光こそ、地下に溜まった電荷が放電された結果だと考えると理解できる。

早川氏によると、この長波帯の周波数を利用する電磁波手法では、震源が100km以内で、しかもM4以上でないと観測できないとしている。逆に言えば、社会に大きな影響を与える地震は全てカバーできることになる。震源が深すぎると地中の電荷は電離層に及ぼす影響が少なくなる。同氏の説明は電磁気学的に極めてわかりやすい。

今後も地震予知のデータを採るため、測定サービスと情報を提供する会社としてインフォメーションシステムズを2010年に立ち上げた。地震予知情報をミッションクリティカルな顧客に提供する。潜在顧客として、発電所やガス、水道などのインフラ機関、病院や鉄道などを想定している。

表1 早川氏による2010年8~9月における地震予知とその結果の対比表