超低消費電力無線の技術

Bluetooth low energy技術には、超低消費電力性能を顕著に示す3つの特徴があります。「スタンバイ時間の最大化」、「高速接続(高速リンクアップ)」、「低ピーク電力での送受信」です。

無線通信を「オン」にする時間が少しでも長ければバッテリ寿命は大幅に短縮されるため、必要な送受信は迅速に行う必要があります。Bluetooth low energy技術で無線通信の時間を最短に抑える秘訣の1つは、他のデバイスを探したり、接続しようとする他のデバイスに自分の存在を知らせたりするための「アドバタイズメント」チャンネルを3つしか利用していないという点です。従来のBluetooth技術では、32チャンネルを使用していました。

Bluetooth low energy技術では、他のデバイスをスキャンするためにスイッチを「オン」にしなければならない時間は0.6~1.2ミリ秒です。従来のBluetooth技術では、32チャンネルをスキャンするのに22.5ミリ秒かかります。Bluetooth low energy技術は、従来のBluetooth技術の10分の1から20分の1の電力で他の無線機を見つけることができるのです。

「アドバタイズメント」チャンネルが3つであるということには、ある程度の妥協も含まれています。無線機が「オン」の時間(つまり電力消費)と非常に混雑した周波数帯における安定性はトレードオフの関係にあります。(「アドバタイズメント」チャネルが少ないことで、選択された周波数の1つが他の電波で利用されており、信号が破壊される可能性が高くなります)。規格設計者は、例えばWi-Fiのデフォルトのチャネルと干渉しない「アドバタイズメント」チャネルを選択するなどして、この均衡をうまく取ることができたと確信しています(図2)。

図2:Bluetooth low energy技術の「アドバタイズメント」チャネルはWi-Fiとの干渉を避けるよう注意深く設定されています

Bluetooth low energy技術では、いったん接続が確立されると、37のデータチャネルの1つに切り替わります。無線機はデータを送信する短時間に、従来のBluetooth技術で開発されたAFH(Adaptive Frequency Hopping)技術を利用して、チャネル間を疑似ランダムパターンで切り替わります(従来のBluetooth技術では79のデータチャネルを使用します)。

Bluetooth low energy技術で無線通信時間を最低限に抑えられるもう1つの理由は、1Mbpsというエアーデータレートを利用しているからです。帯域幅が広いことで、より短時間により多くの情報を送信することが可能です。例えば250kbpsの帯域幅を利用する技術では、同じ量の情報を送信するのに無線機を4倍の時間「オン」にしておく必要があります(つまりバッテリエネルギーの使用量が増加します)。

Bluetooth low energy技術では、最短で3ミリ秒で「リンクアップ」(他のデバイスのスキャン~接続~認証)が完了します。従来のBluetooth技術では、同じような接続サイクルが数百ミリ秒単位で行われます。通信時間が長いということは、バッテリのエネルギーがより多く必要だということです。

また、Bluetooth low energy技術では、従来よりも「緩やか」なRFパラメータの採用と、非常に短いパケットの送信という2つの方法でピーク電力を抑制します。両技術ともGFSK(ガウス周波数偏移変調)を採用していますが、従来のBluetooth技術の変調指数が0.35であるのに対し、Bluetooth low energy技術では0.5です。0.5という指数はGMSK(ガウス最小偏移変調)に近く、無線の電力要件を低減させます(この理由は複雑なため今回の記事の範囲外です)。また、変調指数が低いことには、通信距離の拡大と堅牢性の強化という2つの利点があります。

従来のBluetooth技術は、長いパケット長を利用しています。長いパケットを送信する場合、無線機は、より長い時間にわたり、比較的高い電力状態を保たなければならず、半導体は高熱になります。このため部品の物理的な特性が変化し、無線機を常に再調整しなければ送信周波数が変化してしまう(リンクが切れてしまう)可能性があります。再調整には電力が必要です(さらに閉ループ構造が必要となることで無線機がより複雑になり、デバイスの価格が上がります)。

これに対しBluetooth low energy技術では非常に短いパケットを利用しており、半導体の放熱を低く保てます。このため、Bluetooth low energyの送信機は、電力を消費する再調整や閉ループ構造を必要としません。