PFC回路はACライン電源とメイン電源の間に挿入され、ACラインからの正弦波電流を吸収して安定した直流電圧を供給します。この中間ステージは一般にはブースト・コンバータで、インダクタはシステムで最も容積が大きく、高価なコンポーネントの1つです。コストやサイズに敏感なアプリケーションでは、サイズを小型化する必要があります。例えば、LCD-TVは最も薄いパネルでは、高さが8mmを超えない低プロフィールのコンポーネントが必要です。
スイッチング周波数を検討することによって、インダクタのサイズが決まります。ここでは、電源バジェットにおいて電力密度を高め、インダクタ重量を減らすのに役立つ周波数クランプを示します。このメリットを一般メイン電源から190Wを消費するように設計された、最大厚さ13mmのLCD-TV用電源で説明します。
インダクタ・デザインの検討事項
臨界導通モード(CrM)は、境界(ボーダーライン)、または過渡導通モードとも呼ばれ、低-中電力アプリケーションではきわめて一般的な動作モードです。CrM PFCステージは、市販されている多くのコントローラICを使用して容易に設計でき、約250Wまでのアプリケーション向けの比較的効率の高いソリューションです。
図1に、CrMでの動作概略を示します。インダクタ電流が所定のレベル(IL,pk)を超えるまでMOSFETはオン状態になっています。 (IL,pk)を超えると、MOSFETはオープンし、ブースト・ダイオードがインダクタ電流を引き出して、バルク・コンデンサを充電し始めます。このフェーズでは、インダクタ電流はゼロになるまで減少します。インダクタ電流がゼロになると、新しいサイクルを開始できます。
フロント・ステージのEMIフィルタは実際、高周波つまりインダクタ電流の交流成分の大部分を除去します。この結果、ACラインから吸収される電流は(IL,pk/2)、つまりインダクタ電流をスイッチング期間で平均した値になります。実際のところ、インダクタ電流はピーク時に瞬時ACライン電流の2倍に達します。
上記に説明したとおり、インダクタ・ピーク電流によってACライン電流の大きさと吸収される電力が直接決まります。この電流値は負荷と入力電圧にのみ依存し、インダクタ値(L)は電流値には影響を与えません。Lは、インダクタ電流とそれによって変化するスイッチング周波数の上昇傾斜および下降傾斜にのみ影響します。より具体的に言うと、スイッチング期間は、電流がゼロから所定レベルまで上昇し、そのピーク・レベルからゼロまで減少するのに要する総時間です。明らかに、サイクル持続時間は、ACラインの瞬時電圧と大きさ、電力要求とLなど、いくつかのパラメータによって変化します。例えば、電流サイクルは全出力時には長く、軽負荷時には短くなります。さらに具体的には、次の等式から周波数表現式(fn)が得られます。
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ここで、
- Vin,rms はACライン実効電圧
- Vout はPFCステージ出力電圧
- Pin,avg Iは平均入力電力
この式はスイッチング周波数が、次の項目で構成されることを示しています。
動作点の移動によってのみ変化する1つの項(Vin,rms2/2・L・Pin,avg)(負荷およびACライン入力電圧の大きさ)
瞬時ACライン電圧(正弦波)への周波数依存に起因する変調率{1-(√2・Vin,rms・sin(ωt)/Vout)}
図2に、スイッチング周波数変動対ACライン瞬時電圧ACライン振幅、および対電力を示します。
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図2 CrM動作におけるスイッチング周波数の変動。図は、スイッチング周波数変動対ACライン実効電圧(上)、対入力電力(中)、および対正弦波(下)を表します。周波数は、広がりを強調するために正規化された形で表してあります。計算は、ワイドメイン200-Wアプリケーションに対して実行しました。下のグラフは、230Vrms、出力電圧400Vに対するものです |
スイッチング周波数変動はCrM動作の主な欠点の1つです。この特性のために、以下のような不便が生じます。
- 周波数範囲が非常に広くなる可能性ある(EMI、干渉)
- スイッチング損失が増大する(コア損失、MOSFET損失)
このため、インダクタは効率とEMIの理由から、重負荷レベルで周波数が高くなりすぎないことを目標として設計されています。インダクタが大きいほどEMIフィルタリングが容易で、スイッチング周波数が低いほど効率が良くなります。
残念ながら、L値が大きいほどインダクタ・サイズが大きくなり、コストが上昇することにも留意する必要があります。