1990年に公開されたハリウッド映画『ゴースト ニューヨークの幻』が、日本を舞台に『ゴースト もういちど抱きしめたい』として生まれ変わり、2010年11月13日より公開される。この作品を監督した大谷太郎監督に話を訊いた。

ドラマの演出家から映画監督に

大谷太郎
1967年生まれ。早稲田大学卒。1990年に日本テレビ入社。情報番組に配属後、ドラマ制作部門で数々のテレビドラマを演出。主な演出作品に『世紀末の詩』(1998年)、『伝説の教師』(2000年)、『バンビ~ノ!』(2007年)、『銭ゲバ』(2009年)などがある。『ゴースト もういちど抱きしめたい』(2010年)が映画監督デビュー作

――『ゴースト もういちど抱きしめたい』は懐かしい作品のアジア版として作られていますが、どうしてこの作品を新たに製作することになったのでしょう。

大谷太郎(以下、大谷)「本作のプロデュ一サーの一瀬さんがアメリカのパラマウント本社を訪れたとき、『ゴースト』のポスターが壁に貼ってあるのを目にして"こんな映画を今の日本で作りたい"とプレゼンしたことで、この企画がスタートしたと聞いています」

――一瀬氏は『リング』や『呪怨』などのJホラーをアメリカに輸出した人という印象があるので、この作品を手掛けたのは意外でした。

大谷」「一瀬さん自身はホラー映画を多く手掛けていますが、プロデューサーとして非常に柔軟な方なので、特に違和感はなかったです」

――どのような経緯で監督することになったのですか?

大谷「日テレの社内に映画部があるんですが、ヒマだったので顔を出したとき『今ちょうど監督探してたんだけど、コレやってみない?』と話があったんです。あの日、ヒマに任せて映画部を訪れていなかったら、実現していなかった映画です(笑)」

――大谷監督はドラマの演出をしていた頃から、映画監督志望だったのでしょうか?

大谷「いつかは映画を監督したいと強く思っていました」

『ゴースト もういちど抱きしめたい』

会社を経営している星野七海(松嶋菜々子)は、陶芸家を目指す韓国人青年 キム・ジュノ(ソン・スンホン)と出会い恋に落ちる。ふたりは幸せな結婚生活を送るが、ある事件に巻き込まれ七海が命を落としてしまうのだった……。
(c) 2010「ゴ-スト」製作委員会

――本作をオリジナルと比較すると男女の設定が逆転しているなど、様々な相違点がありますね。

大谷「今の東京でアジア版『ゴースト』を撮ると考えたとき、死んだ男性がゴーストとなって女性のそばにいて見守るというオリジナルの設定よりも、女性が男性を見守るというほうが自然な気がしたので、設定を変更しました」

――描写も台詞も「古きよき80年代アメリカ映画」といいますか、現代のお話なのに現代的でない感じがしました。そこは意識したのでしょうか?

大谷「そうですね。ふたりのいる空間をファンタジックなものにしたいと思って作った部分はあります。リアリティという部分で考えると、家ひとつとってみても、陶芸家の家の裏庭に窯があるというのは都内ではなかなかありえない。しかし、美術を担当した矢内京子さんから『リアルではなくても、こういう家に住んでいる男性のほうが女性から見て素敵だし、ラブストーリーの設定としていいのでは』という意見があったんです。それを聞いたとき、女性がそう感じるならそれは正しいことなんだと思い、細かな部分まで女性の感覚を活かしていくことに決めました」

――確かに女性の視点を強く意識した恋愛映画ですね。

大谷「女性に観てもらいたいという想いは、強くありました。僕の持論に、主人公の肩の上に観客がいるというのがあるんです。この作品は主役が女性ですし、主人公の肩の上には女性のお客さんがいて、『このひと素敵だな』、『こんな恋がしたいな』、『こういう家に住んでみたいな』と主人公と同じように感じてもらえるような、女性が憧れる部分を大事にしました」

困難な事を選択したほうが物を創る力がつく

――大谷監督は今後どのような作品を作っていきたいのでしょうか?

大谷「日本的な作品を作りたいですね。この映画の音楽をパリで録音した時、編集を終えた映像に合わせてオーケストラに演奏してもらったんです。その時、音楽を聴きながら映像を観ていたら、不意に全てが日本的だったんだと実感しました。パリで見たからよけいに、日本の街角で恋している男女の姿がもの凄く新鮮に感じられたんです。ハリウッド的な大掛かりな作品よりも、日本を舞台にした日本らしい作品をしっかり作ったほうが、世界に出てもアピールできるのではないかと、その時僕は思ったんです。現代の東京を描いた作品にしても、時代劇にしても、日本をしっかりと描いた作品を僕は創りたいです」

――大谷監督は、情報番組からドラマ演出を経て映画を監督されたわけですが、クリエイターであるために、常に心掛けていた事はあるのでしょうか?

大谷「遠くのものに手を出すということですね。例えば、机に同じグラスがふたつあったとして、近いほうを手に取るのは簡単だけど、あえて遠いグラスを取るようにする……。そういったことを僕は創作の場面で心掛けていました。近いほうを選ぶと、なにか物を創る筋力が落ちるような気がするんです。自分にとって、『大変だな、困難だな』という方を常に選択するようにしていたんです。常に遠くの物に手を出すようにしていましたね」

――最後に、この作品に関してメッセージをお願いいたします。

大谷「今、目の前にいる人に気持ちを伝えることが、いかに奇跡的で大切な事か、この作品を監督しながら感じました。それが、観客の皆さんに一番伝えたいことです。目の前の人に自分の気持ちを言えることが幸せなんだと、作品を観た人にも感じて欲しいですね」

『ゴースト もういちど抱きしめたい』は11月13日より全国ロードショー

撮影:石井健