iPadアプリ開発に興味を持っていてこれから参入を考えている人、すでにアプリ開発は行っているがまわりの状況が気になる人、ともにiPadアプリ開発現場の現状を知りたいのではないだろうか。iPadアプリ開発で元がとれるのか、他のプログラマたちの開発コストはどの程度なのか、こうした疑問をテーマにした議論が開発者コミュニティで盛り上がっている。

1本のiPadアプリ開発にかかるコストは25万ドル!?

話題の1つは開発者コミュティサイトのStack Overflowで盛り上がっているもので、「How much does it cost to develop an iPhone application?」というタイトルでiPhoneアプリ開発にまつわるコストを考えるトピックになっている。質問者は例えばTwitterクライアントの1つ「Twitterrific」のようなアプリ開発にはどれだけのコストがかかるかを尋ねているが、これに対してさまざまな開発者が回答を行っている。ここでは特に評価の高い「chockenberry」氏のコメントに着目してみる。

chockenberry氏は、Twitterrificはユーザーアプリ開発とインストールにJailbreakが必須だったiOS 1.x時代から存在し、これまで4つのメジャーバージョンをリリースしていることから、その累積コストは量りかねるとしながらも、iPadアプリ開発一般にかかるおおよそのコストを提示している。

AppleはiPadのリリース時に開発者に対して約60日間の猶予を与えている。それは1月末のiPad発表でiPad開発に対応したiPhone SDKベータ版の配布を開始してから、iPadローンチ時にApp Storeに登録するアプリの締め切りを3月末に設定したことに由来する。ゆえに同氏は、AppleがiPadアプリ開発にかかる期間を60日程度とみていると推測している。一般的なプログラマが集中して開発にかける時間は1日10時間、1週間のうち6日間で、これだけで60時間。60日間≒9週間とすれば、1人のプログラマが開発に費やす時間は540時間となる。この1つのプロジェクトに2人のプログラマが関わったとすると、その全体での開発時間は約1,100時間になるという推計だ。これを時給150ドルで換算すると、トータルのコストは約16万5,000ドル。さらに同氏は、一般的なアプリではコードの再利用が行われるため、既存コードの流用や購入コストなどを加味するとプログラミング関連のコストだけで20万ドル程度に達するという。

さらにアプリ開発には必須なデザインワークやインタフェース設計について、デザイナーが関わるコストも必要だとする。2人のデザイナーが作業に関わったとして、1週間あたりの作業量は最低でも25時間。それに先ほどの9週間をカウントすると225時間となり、時間給の150ドルを合わせると約3万4,000ドルとなる。同氏はさらに、初期のiPad開発ではテストできる実機がなかったことも付け加えている。

さて、これでiPadアプリ開発に必要な最低限のコストが算出されたが、その他テストを含む間接コストを低く見積もって1万6000ドル程度とすれば、すべてのコストの合計は25万ドルということになる。Stack Overflowで他のユーザーが指摘していた、開発に22日間を要したObamaアプリの開発コストが5万~15万ドル程度であること比較すれば、chockenberry氏はこの予想が他の例を大きく逸脱しているものではないとしている。

同氏は、今後アプリ開発に乗り出すデベロッパーへのアドバイスとして、アプリ開発に加えて、サービスを運営するバックエンドのサービスまで構築しようとするのなら、さらに倍以上のコストが必要になると指摘し、もしこうした新規ビジネスに興味があるのならば、最低限でも投資会社から50万ドル程度の資金は引き出さなければならないと述べている。なお、chockenberry氏は自らについて、アプリ開発を行っているある企業の経営者だとコメントしている。

開発コストの回収は苦難の道?

仮に開発が成功し、実際にダウンロード数が順調に伸びたとして、それが実際に資金回収と損益分岐点到達につながるかはまた別の話だ。例えばTwitterrificの場合は無料アプリであり、アプリ開発による資金回収の方法はまた別に考えなければならない。日曜プログラマとして趣味程度の時間を費やして開発を続けるならまだしも、これをビジネス化しようとしたのならば、それなりの戦略を立てなければならない。

以上を踏まえてPadGadgetのサイトでは、Twitterrificを含む、こうしたiPhone/iPadアプリの開発にかかるコストの例をいくつかまとめている。サンプルの1つは人気ニュースリーダーの「FLUD」で、この開発形態がTwitterrificに酷似していると指摘する。FLUDは2名のプログラマが集中開発したアプリで、16名の開発者と1,300万ドルを投資した「Flipboard」や5名のフルタイムワーカーが活動した「Pulse」などに比べ、比較的低コストで済んでいるようだ。だが噂にあるようにFLUDアプリ開発に外注が行われたという話を元にすれば、その開発コストは20万ドル程度だと推測されるという。一方でFLUDは4ドルの価格でこれまで2万のダウンロードを達成しており、その合計売上は8万ドル弱だ。ここからさらにApp Store側の取り分が引かれることになる。

ゲームアプリ開発の場合は、さらに収支が厳しくなることが予想される。なぜならプログラミング以外の部分、例えばデザイン部分のコストが大きく膨らむ可能性が高いからだ。PadGadgetでは「Cut the Rope」というゲームを成功事例の1つとして紹介している。

Cut the RopeはiPhone版が99セント、iPad版が1.99ドルと非常に安価に提供されており、発売から10日かからずに100万以上のダウンロードを達成したという。Cut the RopeのiPad版の登場は10月7日だが、もしこれがAngry Birds級のヒットを達成したのなら、現状の100万~200万ドルの売上のさらに5倍に到達する可能性があるという。問題は開発コストの部分だが、同アプリをリリースしたChillingoは開発を外注しており、今回はロシアに拠点を置くZeptolabが開発を担当しているようだ。その開発コストは20万~50万ドル程度とみられ、現状を見る限りではすでに損益分岐点は突破しているとみられる。少なくとも、このクラスのヒットを達成しなければゲームアプリ開発での資金回収は難しいのかもしれない。