今作で初めて「スプリンターセル」シリーズに挑戦しようとしている人も多いと思うので、まずはシリーズのこれまでの流れを簡単に解説しておこう。 サムは、アメリカ合衆国の国家機密情報の漏洩防止と国際テロリズムに対抗する諜報活動を行うための特殊組織「サード・エシュロン (Third Echelon)」に所属するエージェントだ。「サードエシュロン」は、2003年にアメリカ合衆国が国家安全保障局(NSA)の独立下部組織として設立した……という設定になっている。
「サードエシュロン」は、非合法な諜報活動を行うため、任務の失敗は許されず、また任務遂行中であることをいかなる部外者にも悟られてはならないという鉄則があり、そのためにほぼすべての実務が単独で行われる。この実行エージェント自身がSplinter(独立した)Cell(秘密支部)と呼ばれることから、その名が付けられたと言われている。そして、サムはこのスプリンターセルの中でもトップ中のトップという存在だ。
第一作『スプリンターセル』でのサムの任務は旧ソ連のグルジア共和国に誕生した独裁政権の反米行動に関する"調査"であった。その調査の過程で明らかになるグルジア大統領の恐るべき計画の阻止にサムが挑む。
第二作『スプリンターセル パンドラ・トゥモロー』は、イラク戦争後のイスラム諸国で高まる反米感情の政局をリアルに描く。イスラム教信仰が盛んなインドネシアで、アメリカ大使館の襲撃事件が勃発。サムは、この襲撃犯が残した「パンドラ・トゥモロー」の暗号の秘密を追うことになる。
第三作『スプリンターセル カオス・セオリー』では、日本、中国、韓国、北朝鮮の四国間系が最悪になった"if"の未来世界が描かれる。憲法第9条の縛りによる自国による軍事介入が出来ない日本は米国に支援を求め、これに応じた「サードエシュロン」はサムを派遣する。
そして、今作の前作に相当するのが第四作『スプリンターセル 二重スパイ』。これまでの「スプリンターセル」シリーズは一作一作が独立した作品であったが、今作の『コンヴィクション』は、この『二重スパイ』の直接的な続編になっているのが特徴だ。『二重スパイ』冒頭で、愛娘サラの死を知ったサムは、失うものが何もなくなったとして、自暴自棄気味に危険な任務へと参加する。それは国際テロ組織JBA(ジョン・ブラウンズ・アーミー)に潜り込み、この組織を中から破壊する二重スパイ任務であった。
この四作目は、悪の組織(JBA)にどこまで荷担して信用を得るか、正義(サードエシュロン)の意志をどこまで保っていくか……をゲーム内の行動で示していくというRPG的な要素があったことから難易度はかなり高めであった。また、前述したサラの死はもちろんのこと、シリーズ通しての司令官であるアーヴィン・ランバートの処刑をサム自ら行わなければならないというショッキングなシーンも描かれるため、ストーリー展開はかなり重苦しいものになっていた。
そして衝撃的な第四作目のラストでは、サムが表舞台から姿を消したことが語られる。このシリーズ完結をも思わせるラストは物議を醸し、ファンにはこれまでなかったほどの続編(第五作)への期待を募らせる結果となった。
なお、第四作の解説に多少のネタバレを含んだのはワケがある。なにしろ、今作『コンヴィクション』は、その前提を理解していないと十二分にストーリーが楽しめないからだ。 今作をクリアした筆者から言わせてもらうと、第四作『二重スパイ』の徹底した抑圧気味の世界観とストーリーは、まさに第五作『コンヴィクション』でのカタルシスを演出するための序章であったように思う。
■『スプリンターセル コンヴィクション』プレイムービー