SanDiskは、OEM向け製品である「SD WORM(Write Once Read Many)」の1GB品を、日本の警察関係機関が3カ月で80万枚採用することを明らかにした。

日本の警察関連機関への80万枚の納入が決まったSD WORMの1GB品

SanDiskのOEM製品マーケティングディレクターであるChristopher Moore氏

SD WORMに警察関係機関が興味を示した理由を、同社OEM製品マーケティングディレクターのChristopher Moore氏は「2つのキーフィーチャーの存在が決め手となった」と語る。1つ目は記録領域に1度だけしか書き込めない、つまり記録を改ざんできないという点。「捜査や取調べ情報はオリジナルデータであるということを担保する必要がある」(同)わけで、容量が空いていれば、そこに継ぎ足していけるが、一度でも書き込んだ領域には上書きすることがない、同メモリ技術が注目されたという。 もう1つがアーカイブメディアとしての記録保存能力。同メモリについては、「独自のメモリ保存技術を用いることで100年間の記録保持を保証している」(同)としており、場合によっては数十年単位で保存しなければならない捜査情報などを破損することなく保存できる点が評価されたという。

一度だけ書き込み可能という点と100年間の記録保持性能が犯罪捜査のための証拠を保存するのに向いていると判断された

また、SD WORMが採用された最大の要因を同氏は、「これまで科学捜査に用いられる写真はフィルムが用いられてきたが、フィルムそのものの入手が困難になってきた上に、現像に出し、それを紙に焼いて出してくるまでに必要のない時間が流れていた。デジタル化することで、こうした本来の捜査に必用のない作業時間を短縮することが可能となる」と説明する。

そもそも同社がSD WORMを世に出したのは2008年。当時は128MB品を提供していた。1GB品が製品化されたのが2010年1月で、その際、同社だけではなく、さまざまな機器ベンダ、およびカスタマと組む形でエコシステムを形成し、検証作業を行ってきた。その成果が、今回の警察関連機関の大量導入などに結びついたわけだが、実際にSD WORMを活用するためにはデジタルカメラやICレコーダ側のファームウェアをSD WORM対応のものに書き換える必要がある。すでにニコンや富士フイルム、オリンパスといったメーカーがSD WORM対応のデジタル一眼レフやコンパクトデジタルカメラ、ICレコーダを発表しており、「こうした機器メーカーの協力なくしては、SD WORMのエコシステムを構築できなかった」(同)という。

仮にSD WORM非対応のデジカメで使おうと思っても、ROMとして認識するのみで、書き込むことが出来ない状態となっている。ファームウェアを書き換えれば、SD WORMとして認識され、その時点でその機器に応じたフォーマットが選択され、使用することが可能になるという。

こうした1度だけ書き込みが可能という特長は、何も犯罪捜査の分野だけでなく、さまざまな用途での活用が見込まれている。例えば、日本では建設現場などが想定されるという。建設現場では、その都度ごとに、工程を写真に収めていく必用がある。後になって、それが正しいものであったかどうかをチェックするためには、書き換えが出来ないほうが好ましいこととなる。また、海外では政府機関などがPOSやキャッシュレジスタの電子レシートの記録媒体としての活用を期待している。これにより、各店舗で発生した領収書などの保管が可能となり、より正確な税金の徴収などが可能になるためだ。

SD WORMの適用が期待される分野(民生品にも適用分野はあるはずでは?との質問に対しては、まずはこうした業務用から普及を目指し、その先の話としての可能性との回答をもらった)

ちなみに余談となるが、SanDiskは2005年、1998年の創業以来、3D OTP技術の開発を行い、書き込みを1度だけ行えるフラッシュメモリ「3-D Memory」を安価に提供することを目指していたMatrix Semiconductorを買収している。今回Moore氏に聞いた話が、どこかMatrixが狙っていたものに近い感じを受けたため、「Matrixの技術がここに使われているのか」と質問したところ、Moore氏は「私自身が長年、同社に居たことは確かだが、技術については非公開だ」との答えを貰った。

ただし、今回の一度だけ書き込み+100年保持というソリューションを実現した技術としては、「SanDiskが有するメモリ技術の活用はもちろん、コントローラも独自設計のものを活用。コントローラ側でデータをロックするなどの技術を活用できるように、設計から製造まで一貫して行うことで高い性能とデータ保持期間の保証ができるようになっている」との説明があった。

SD WORMの基本構造。SanDiskが同社の技術をつぎ込んで設計から製造まで一貫してコントローラ、メモリ双方を製造、パッケージングして始めて、100年記録保持と性能の両立が可能になったことを強調していた

「我々がワクワクしているのは、SD WORMを活用することで何が今後起きるのか、まったく予想がついていないからだ」とMoore氏は笑顔で語ってくれた。確かに機器ベンダなどでSD WORMを何に活用しよう、という話はあるようだが、カスタマ側はそれ以上に、例えば携帯電話にマイクロSDカードが用いられ、さまざまなデータの保存に活用されるようになったように、ベンダなどが予想していなかった活用方法を考え出し、新たな市場を生み出してきた。「SanDiskの目標は人々のライフスタイルを変えること」(同)であり、SD WORMが本格普及すれば、今のところ行っている代理店経由のOEMによる販売のみならず、小売店で販売する可能性も将来はあるかもしれないと含みを持たせる。

最後に同氏は、SD WORMの普及に向け日本以外の政府機関などとも話を進めているとしながら、「SD WORMは対応機器メーカーの協力があって始めて実現されるソリューション。そういった意味では、そうしたメーカーが多い日本は重要な市場だ」(同)としたほか、「政府などの行政機関がこうした新しい機器を検証する場合、非常に長い時間がかかるのは通例だ。今回、日本の行政機関がいち早くこうした新しいものに価値を見出し、導入を決定したことは日本として誇ってよいものだ」(同)と日本という市場のベンダ側、ユーザ側ともに重要な存在であることを強調してくれた。