Nexawebは、米Nexaweb Technologies社によって開発/販売されている、エンタープライズクラスのRIA(Rich Internet Applications)を対象とした開発とデプロイメントのプラットフォームである。特に基幹系業務システムでの実績に定評があり、銀行や証券会社などの金融機関や、電気・ガスなどのインフラ系企業を中心として世界的に広く利用されている。日本における販売や保守は米Nexaweb Technologies社の100%子会社である日本ネクサウェブ株式会社(以下、ネクサウェブ)によって行われており、国内でもすでに120社を超える導入実績を誇っているという。

今回は、同社代表取締役社長の矢形勝志氏、技術本部シニアマネージャー 松木健太郎氏に、エンタープライズ分野におけるRIAの必要性や、それに対するNexawebの魅力などについてお話を伺った。

日本ネクサウェブ 代表取締役社長 矢形勝志氏

日本ネクサウェブ 技術本部 シニアマネージャー 松木健太郎氏

エンタープライズシステムでRIAが必要なのはなぜか

2004年頃より発生したWeb 2.0やRIAの波は、ユーザーの多様なニーズを取り込みながらエンタープライズの世界にも影響を及ぼすようになった。そんな中で、基幹系の業務システムにおいても新しいUI技術を取り込む必要があるとして、ネクサウェブが提唱してきたのが「エンタープライズRIA(またはエンタープライズWeb2.0)」である。これはWeb 2.0のリッチなUIを基幹系の業務システムにも取り入れることで、操作性やユーザビリティを向上させ、高い業務効率や顧客満足度を実現するというものだ。

では、なぜエンタープライズの分野でもリッチなUIが必要となるのだろうか。その理由を松木氏は次のように語っている。

「昨今の基幹系システムにおける課題として、レガシーシステムのWebシステムへの移行があります。メインフレームやクライアント/サーバー形式で構築されていた従来の業務システムを、Webを利用した形に刷新しようということですが、従来のシステムは業務に特化したUIを持っているので、HTMLベースの単純なWebシステムでは満足な操作性を実現することができません。そこで操作性や業務効率を落とさず、さらに新しい価値を付加できる可能性として、RIAが必要とされているわけです」(松木氏)

RIAと言っても、当然ながら単に見た目を派手にできればいいというわけではない。特に基幹系システムの移行においては、リスクやコストをいかに減らすかが非常に重要となる。RIAコンソーシアムによるRIA導入企業に対するアンケート結果によると、デザインや操作性についてはいずれも60%以上が「満足している」と回答しているのに対して、開発/運用コストの低減への期待度については「満足している」とした回答者が約23%と低く、逆に「不満である」としている回答者が約26%と「満足している」を上回る結果となっている。これは新システムのための技術習得のコストやリスクが高いためだと松木氏は指摘する。

「RIAのためのプラットフォームはいくつかありますが、基幹系の技術者にとってはまったく新しい言語やアーキテクチャを必要とするものがほとんどです。したがって新たな技術を習得しなければならず、従来のノウハウが十分に生かせないといった問題があります。またシステムの規模が大きいので開発者の数も多く、必要となる学習コストも膨大になります。その点が大きなリスクとなって、なかなか移行が進まないといった結果になっていると思われます」(松木氏)

移行リスクを抑え、顧客満足度を向上させるNexaweb

このようなエンタープライズ分野におけるRIA導入の課題を解決するためにNexawebが出した解答が、既存システムの技術者にとって使いやすい環境を提供するということである。NexawebはJava EEをベースとしたプラットフォームであり、開発にはJavaを利用する。つまりWebアプリケーションのUI開発、とくにJSPやJSFなどの経験をもつ開発者は今までのノウハウをそのまま生かすことができるというわけだ。JavaのUI開発、と聞くとSwingを思い浮かべる向きもあるかもしれないが、ことWebアプリケーションのUIに関しては、Swingは使われることが少なく、JSP/JSFのほうが圧倒的に需要が高い。

Nexawebの特徴は、サーバー側のプログラムは通常のWebアプリケーションと同様にJSPなどを使って構築することができる点である。ただし出力結果は、Webブラウザにレスポンスを返す代わりにXMLを生成し、クライアント側ではこれをダウンロードしてUIを構成する仕組みになっている。すなわち、Webブラウザと同じアーキテクチャで稼働している。同期通信だけでなく非同期な通信もサポートしており、差分更新によってリアルタイムにUIを変更することが可能なため、応答速度や通信データ量も改善される。

Nexawebのプラットフォーム構成図

このように、Viewの部分の仕組み以外は通常のJavaアプリケーションと同様に開発できるので、従来のノウハウや資産を利用できるのがNexawebの大きな強みである。既存のJavaのフレームワークを組み合わせて利用することも可能なほか、デバッグやパフォーマンスの改善にはJava用のプロファイリングツールなどを利用することができるというメリットもある。その他、基幹系システムで当たり前に必要な機能を標準で備えている点も無視できない強みだ。例えばNexawebはサーバープッシュ型のデータ配信にも対応しているが、これは金融系やモニタリングなどのシステムでは特に必須の機能になっているという。

その一方で派手なアニメーションや動画再生、音楽再生などといった機能は、他のRIAプラットフォームに比べて劣っている点は否めないという。しかし、業務ユースのアプリケーションではこれらが必須になるということはあまりないため、大きな問題にはならないと松木氏は言う。また開発言語がJavaに限定されるという問題もあるが、基幹系システムにおいてはJavaのシェアが圧倒的に高いため、デメリットとして受け取られることはまずないとのことである。

「とにかく一番の課題は、いかにレガシーシステムの機能を損なわずに移行できるかということです。技術的に新しいことや派手なことができるかどうかでなく、システム全体のリスクを考えたトータルの部分が大事なのです。RIAというと"チャレンジング"な部分が注目されがちですが、基幹系システムで重要なのはそれよりも"リスク軽減"です。トラブルは絶対に許されない世界ですから、あくまでもリスクヘッジありきのRIA。このリスクをいかに下げられるかがNexawebの果たす役割だと考えています」(松木氏)

開発ツールとしては「Nexaweb Studio」が提供されているが、これはEclipseをベースとした統合開発環境であり、Java技術者にとっては馴染みのあるものとなっている。もちろん、Nexawebの特徴を活かしたアプリケーション開発のために独自に拡張されており、画面レイアウトのためのはビジュアルエディタや、独自のコンテナやウィジットなどを備える。また、他のEclipseベースの統合開発環境へのプラグインとしても使用可能となっている。

今後の展開としては、Nexawebに特化した新しいフレームワークの提供を計画しているとのこと。これはSpring FrameworkをベースにNexaweb独自のノウハウを投入したもので、画面遷移のコントロールやメニューへの登録をコンフィグレーションだけで簡単に構築できるものだという。今年中を目処に日本でも提供を開始したいとのことである。

ユーザー事例からエンタープライズシステム開発の今後を学ぶ

冒頭でも紹介したように、Nexawebは基幹系システムを中心として国内外で高い導入実績を誇っている。そして矢形氏によれば、顧客の満足度も極めて良好とのことである。それを示す根拠のひとつがリピーター企業の増加だ。Nexawebの導入によって成功した顧客が、別のシステムでも採用するというケースが増えており、現在では導入案件の4割、金額ベースでは6割は既存ユーザによるものだという。また同社によれば、リピート案件のほうが開発規模や導入規模が大きくなるケースが多いそうだ。前述のRIAコンソーシアムによるアンケート結果と比べると、期待度に対する満足度が顕著で興味深い。

ネクサウェブではこのような顧客の基幹系システム開発の成功事例を紹介する「Nexawebユーザー事例カンファレンス」を、来たる6月23日(東京)および25日(大阪)に開催する予定だ。新しいインフラの中でどのように刷新したサービスを提供していくか、その中でNexawebがどのような役割を果たすことができるのかを、関西電力や三菱電機コントロールソフトウェアによる導入事例をもとにしてアピールするとのことである。

「特別講演では本社最高経営責任者のクリス(Chris Heidelberger氏)がクラウドや仮想化などまで踏み込んだレガシーアプリケーションの近代化などについて話します。また事例紹介はエンドユーザーサイドと開発会社サイドの両方の意見を聞くことができる構成になっています。システム刷新の計画を導くきっかけ、ひとつの解として本カンファレンスを利用してほしいと思います」(松木氏)