打上げシステム全体の革新を狙った次期固体ロケット
イプシロンのさらにその先へ
今後の発展については、いくつかの方向性が考えられている。
まずは自律性・機動性の強化。前述のように、飛行時の異常判断も自律的に行うことで、地上設備をコンパクトにする。テレメトリの受信もあるので、アンテナを完全に無くせられるわけではないが、それだけならテレビの中継車くらいの設備で十分とのことだ。もちろん、すぐには難しいだろうが、森田氏は「こうしないと毎日打上げるようなシステムには対応できない。大変かもしれないが、ぜひ取り組みたい」と意欲を見せる。
もう1つの道は、打上げ能力の強化だ。次期固体ロケットの打上げ能力はM-Vよりも下がってしまったが、例えば第1段を改良することで、M-V以上の性能を狙う。
そして興味深いのが、製造設備のコンパクト化、搭載系のコンパクト化についてだ。
M-Vロケットの推進薬には、酸化剤の過塩素酸アンモニウム(粉末)、燃料のポリブタジエン(樹脂)に助燃剤としてアルミ粉末が加えられているが、非可逆の熱硬化で固められるために、ミキサーで攪拌してからモーターケースに充填するまで、一気に行う必要がある。そのため、大型のミキサーが必要になるが、たまにしか使わないので、稼働効率は極めて悪い。
非可逆でなくて、可逆的なプロセスであれば、少しずつ推進薬を作って貯めておけるので、製造設備を小型化できる。チョコレートを想像してもらえれば分かりやすい。推進薬は一旦、バー状に固めておき、打上げの直前に溶かしてモーターケースに充填する。うまく計画すれば、稼働率も100%近くにできるだろう。
実現のカギとなるのは、非可逆性の元となっている燃料の樹脂である。熱を加えれば溶けて、冷えれば固まる性質のものがあれば、こういった低融点(50℃くらいが望ましいとのこと)推進薬を実現できる。いくつかの候補があり、現在は小規模ながら燃焼試験も行っている模様だ。エンジンに点火してすぐにドロッと溶けないか心配になるが、気化する表面が断熱材のようになるので、そういったことはないそうだ。
この低融点推進薬は、まず観測ロケットでの適用が考えられているとのこと。現在、JAXAではS-310/520などの観測ロケットがあるが、推進薬が高いために数億円オーダーのコストになってしまっており、低コスト化が期待できる。こういった小型ロケットで運用性などを実証した後、大きなロケットに適用する意向だ。
搭載系では、機器のワイヤレス化を図る。例えば点火系をワイヤレス化できれば、導爆線が不要になり、小型・軽量化が期待できる。またどこに置いてもよくなるので、レイアウトの自由度が増すというメリットもある。すでに、ボードレベルでの試験は完了しており、新年度以降は、燃焼試験での実証もしていく予定だ。ちなみにワイヤレスの規格については、ZigBeeが考えられているとのこと。
射点設備(管制)、射場設備(アンテナ)、製造設備、搭載系のコンパクト化を進め、ロケットを身軽に、打上げを簡単なものにする。森田氏は「イプシロンロケットがその最初の一歩になる。しっかり研究を進めていきたい」と述べ、講演を締めくくった。