4つの分野

さて、こうしたイノベーションがどんな具合に変革をもたらすか、に関してDavis氏は

  • 産業用機器
  • デジタルサイネージ
  • アミューズメント
  • 車載インフォテイメント

の4つの分野の例を挙げ紹介した。まず産業用機器というのは、例えばPLC(Programmable Logic Controller)とかCNC(Computerized Numerically Controlled)などをターゲットにしている。従来だとこうした機器には1つずつCPUというか制御コントローラが入り、各々が接続されるというイメージであるが、これをもっと統合できる(Photo11)という主張である。例えば現在のIntelでは、最大4コアのCPUが提供されているが、これとVirtualizationを組み合わせれば、1CPUのシステム×4と同様に扱う事が可能になる、というものだ。実例として示したのが、RockBotである(Photo13)。今回の場合、4つのCPUコアが完全に独立して稼動し、RockBotを実現している(Photo14,15)。こうした、まったく異なる処理を同時に並行で実行でき、かつシステムの集約化が図れるというのがここでのメッセージだった。

Photo11:マルチコアや仮想化を使うことで、これらを集約しやすくなる、というのが同氏の主張

Photo12:HTを使えるCore i7とかXeonならば見かけ上最大8個となるが、今度はリアルタイム性能に懸念が出てくるから、今回は敢えてHTの話をせずに実コアのみで話を完結させたようだ

Photo13:これは、アメリカでは非常にポピュラーなGuitar Hero。要するにDDR(Dance Dance Revolution)のギター版である。画面にあわせてギターもどきのスイッチを操作するというもの。ネタ的にはこれと一緒である

Photo14:Photo13で、画面の前に置かれているのがカメラである。Core 1はこのカメラ経由で画像を取り込んでいる。取り込んだ画像を分析し、どのタイミングでどのボタンを押すべきかを決定しているのがCore 2、ここでの決定をもとに、ギター(もどき)に取り付けられたメカニカルアームを制御してボタンを押す作業を行っているのがCore 3。Core 4は普通にWindowsが動き、Guitar Heroを実行しているわけだ

Photo15:こちらはプレイ画面。DDR系の音ゲー同様に、手前のラインにうまくパッドが載ったタイミングでボタンを押すとクリアなわけで、これをTVカメラで解析して行っているわけだ。左がRockBot、右が操作員のプレイ状況

次のテーマはデジタルサイネージである。今回のETでも、多くの企業がこれに対応した展示を行っていたが、今後はサイネージに求められる機能がより高くなると説明(Photo16)、そしてIntelではこれに対してスケーラブルなソリューションを提供できる(Photo17)事を示した。具体例として、Photo18の様な"ディスプレイ+カメラ"という簡単な構成で構築した電子広告板をデモした。このカメラでリアルタイムに画像を取り込んで分析、カメラの前にいるのが男性か、女性か、それとも不特定かにあわせて表示する広告を変更するといったデモがまず行われた。次にいわゆるインタラクティブなDirectory(案内板)のデモであるが、こちらは目的別の案内板を構築した例である。3つ目はちょっと面白く、演台の上にセットしたカメラ(Photo20)を使い、動態分析を行った(Photo21)例である。こうした動きに合わせて広告を変えるとか分析をするといった事が、これからのデジタルサイネージには必要とされるとしており、IAを使うことでこうしたことが簡単に出来る、という主張であった。

Photo16:要するに、これまでは単に動画が表示できるだけだったのが、もっとインタラクティブ性や分析機能などを盛り込んだり、リモートからのアクセスビリティを付加する、という方向性がこれからのトレンドになると説明

Photo17:広告の規模に応じて、スケーラブルに性能を上げてゆける、と説明したが、「同じプログラムをそのまま使える」ってのは現実問題として意味があるのか? は疑問である

Photo18:画面右上が取り込んだ画像で、左上はその画像分析の結果である。現在は不特定ということで、"Mixed Targeted Ad"が表示されている。下側は、こうして分析した人数や男女の比率などの分析結果が表示される

Photo19:ここでは"Classic Book"を選択すると、それを扱っているショップを示すという例だったが、将来的には自由文の検索などと組み合わせる事も可能だろう

Photo20:そう言われるまで、こんなところにカメラがあることそのものに気がつかなかった

Photo21:カメラで取り込んだ画像を元に動き検出を行い、動きがある場所をハイライト、特に動きが激しい場所を枠で囲っている

3つ目がアミューズメントである(Photo22)。今までは独自規格と小さなLCD程度で済んでいたのが、これからはより高機能な表示能力や処理性能が必要とされる方向に向かうとしている。実のところ、Intelは昔からこうしたマーケットに向けてソリューションを提供してきていたが、一番ネックになるのはグラフィック能力であった。もちろんPC向けの統合チップセットに使っているGPUコアをそのまま転用すれば、それなりの性能はあるのだが、組み込みに使うには絶望的に消費電力が大きすぎるのはやはり難しいものがある。Core 2とかXeonクラスならば、そもそもActive Coolingが必須だからまだしも、Passive CoolingだけでいけるAtomと組み合わせると、結局Active Coolingが必要になってしまい、何のためにAtomを採用したのか判らなくなる。これに対する解決策が、アクセルとの協業である(Photo23)。ここでアクセルの代表取締役社長である佐々木譲氏が登壇。同社のAG10(Photo25)が、動画圧縮/伸張エンジンが2D/3D表示、同時4画面表示など、Embedded向けに向いた機能を搭載していることを紹介した。

Photo22:これは要するにパチンコやスロットが、より煌びやかな表示とか凝ったメディア再生能力を必要とするという傾向に対応したもの

Photo23:基調講演前の説明会でこのあたりをDavis氏にぶつけたところ、「確かに将来的にはIntelのグラフィックも同等のレベルまでいくかもしれないが、今の時点でアクセルのグラフィックコアは(我々の持つものより)高い性能を持っており、これを使うのが得策である」という見解であった

Photo24:右側がアクセル代表取締役社長の佐々木譲氏。同社はパチンコ向けなどのグラフィックLSIを製造・販売するファブレスメーカーである

Photo25:こちらはアクセルのブースに展示されたダックスが製造するもので、Atomを搭載した汎用ボードにAG10のビデオカード(上側)を接続したもの。AG10はオンパッケージで64MBのVRAMを搭載するため、3チップのMCMになっているのが判る。

Photo26:まぁダッシュボードは今のところごく一部の高級車のみだし、安全性を考えてカーナビ類とは連携しつつも別システムにするのが現時点での構成だが、将来的にはこれが一体化しても不思議ではない(というか、その方向に向かいつつある)

最後が自動車向けである。もっと正確に言えば、自動車のInfortaiment向けとなる。以前はInfortaimentといえば、オーディオ類から始まり、昨今はカーナビとかリアシート向けのメディアプレーヤあたりまでを含めたものを指すが、今後はネットワーク接続(一部のカーナビ類はすでにこれを実現している)やより高機能性、さらには運転席のダッシュボードまで含めたものになりつつある(Photo26)。こうした用途に使いやすくするため、車載向けのAtomプロセッサを提供するという話(Photo27)と、車載Infotainmentシステムの標準化を行うGENIVI Allianceに、日本の企業5社が新たに参加した(Photo28)話が発表された。

Photo27:製品そのものは従来のAtomと一緒だが、広い動作温度範囲や長期間供給保障、安全性に関わる規格への準拠などを追加したものとなる

Photo28:GENIVI Allianceは同Webサイトによれば現在Founderが(Intelを含む)9社、Core Memberが12社、Associate Memberが14社となっている。このうちALPINEと三菱自動車がCore Member、ロームはAssociate Memberであり、日産自動車とPioneerはまだWebサイトに反映されていないのでポジションが不明である

以上で具体的な4つの分野の説明を終わり、Embeddedが第4段階にあるInternetを促進する、と締めくくって同氏の講演は終わった。

Photo29:組込機器が第4段階のインターネットを加速していく