乾電池ロボット「エボルタ」のチャレンジ裏話

柳田「馬力というのは1秒間に出せるエネルギー(仕事率)で、瞬発力のようなもの。馬力がいくらすごくても、すぐに倒れるようでは強いロボットとは言いがたい。そう考えると、ウルトラマンの怪獣たちはなぜ向かっていくのか……3分間逃げればいいのに(笑)。ロボットには持久力も大切で、その点、高橋さんはすごいロボットを作っていますよね」

高橋「小さなロボットですが、乾電池2本でキリキリと動き続けるものを作っています。長持ちで強い、というのも最強になり得るかも知れませんよね。ゆっくり動くので逃げ切れるか微妙ですけども(笑)」

そう言いながら高橋氏は、グランドキャニオン挑戦のテレビCMでお馴染み、パナソニック乾電池「EVOLTA」の長もち実証ロボット「エボルタ」くんを披露。実演してみせた。柳田氏も実物を見るのは初めてで、こんなに小さいとは思わなかったとか。

高橋氏はグランドキャニオンを制覇した「エボルタ」を取り出し、ヒモにつかまらせて実際に登らせてみせてくれた

高橋「これで、グランドキャニオンの崖、530mを6時間46分かけて登りきった。動力は単3電池2本。電池交換はアリ? と聞かれるんですけど、残念ながら途中で交換しようがない。上からも下からも見えなくなるので」

ここで客席から「一発で成功したんですか?」という質問が。

高橋「5回失敗しました。部品が疲労で折れたりして途中で止まってしまう。スタッフも50名ほどいて、億単位のお金がかかっていたので、最終日になるとさすがに、やばいな……と。目の前にはちょうどいい崖があるし(笑)……そういう心境にもなってしまったんですが、なんとかギリギリで成功したので、こうして話ができている訳です(笑)」

柳田「"エボルタ"が首をふっているのは、登るのに意味がある?」

高橋「ないです(笑)。正直、省エネですごい距離を上ろうと思えば、こんな風によじ登るのは非常にエネルギー効率が悪い。車輪でシャーッと上って行けば1000mでも2000mでも余裕のはず。そこをあえて擬人化した"電池の精"のようなキャラクターを作って、一所懸命がんばってる姿がCMとして面白い、ということなので、実はいっぱいムダな動きが入っています。電池の"EVOLTA"はギネス世界記録にも認定されていて、単3電池としては従来の2倍近い長持ちというお墨付きがあったが、問題はロボットの耐久性。飛行機にも何万時間飛んだら交換する部品とかがあるように、ロボットでも、歩き過ぎたら股関節が磨り減ってきた、みたいなことが起こる。それで何度か壊れた訳ですが、最終的にはうまく行ってやれやれ……とホッとしたのも束の間、今年も懲りずにやります。今度は三輪車をこいで、ル・マンを24時間走り続けようと」

と、高橋氏はこのトークイベントの約3週後、8月5日に行われて見事成功を収めたル・マン24時間チャレンジについて触れた。

高橋「いろんなチャレンジを来年以降もしていきたい。今回のル・マンも自分が言い出して、今は若干後悔していますが(笑)。クルマが大好きなので、ル・マン24時間レースを観に行きたいと思って企画を出したんですけど連れていってもらえなくて……成功したらパナソニックさんに言おうかな、と思っているんですが(笑)。グランドキャニオンも大自然の雄大なスケールが面白かったんですが、今度も、貸し切りで静寂なサーキットの中を"エボルタ"がキコキコ走っていくのは面白いと思いますよ」

柳田「エネルギー的に言ったら、垂直移動よりまだ水平移動の方が楽なはずですよね。それはぜひとも成功して欲しいですね」

高橋「後で計算して成功しそうかどうか教えてください(笑)。行き当たりばったりで、24時間走れるという根拠もなくル・マンということで自動的に決まったし。電池2本というのも決まっているんですが、センサで前を走るカメラカーを追いかける仕組みなので、マイコンとかを動かすには直列3Vでも足りないぐらい。まぁ、もし柳田さんに無理だと言われたら、僕はチャレンジ前にいなくなります(笑)。パナソニックは全世界的な企業なので、なかなかつらいですね。どこに逃げるか(笑)」

いやはや、冗談まじりに語りつつも、高橋氏にはやはり相当なプレッシャーがあったようだ。逃げずに済んで成功して本当によかった(笑)。チャレンジ当日はスタート1時間ほどで1号機が故障してしまい、2号機による再スタートで24時間完走できたとか。真夏のチャレンジながら、さぞかし肝を冷やしたことだろう。

24時間での走行距離は23.726kmとなり、「遠隔操作された車両ロボットの最長走行距離」としてギネス世界記録に認定されたとのこと。今後、CMなどで"エボルタ号"のチャレンジの様子が見られるのを楽しみに待ちたい。