ネットビジネス拡大のための新たな法的枠組みを提言する「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」は12日、東京都千代田区で臨時総会とシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、デジタル・コンテンツ利用に関する権利を集中し、許諾権を法定事業者に与えるなどとした案について、日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏なども交え議論した。

デジタル・コンテンツ利用促進協議会は、2008年9月に設立。会長に東京大学名誉教授・弁護士の中山信弘氏、副会長に角川グループホールディングス代表取締役会長の角川歴彦氏、自民党参議院議員の世耕弘成氏、スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏が就任。

12日開かれた臨時総会では、同協議会の議論を超党派にすべく、新たに、民主党衆議院議員の近藤洋介氏、公明党参議院議員の西田実仁氏を副会長に選出した。

その後、同協議会副会長の角川歴彦氏が、基調講演を行った。

角川氏「ネット上のeSellとeRentalの実現が重要」

角川氏は、現在のコンテンツを巡る状況について「2008年は既存のマスメディアが成熟、後退期に入った年だった。20世紀に生まれたテレビ・映画などが大きく動いた」と説明。「角川グループも雑誌などは大変な状況になり、こちらも大きな変動があった」とした上で、「私の立場・私の主張」として以下の3点を挙げた。

  1. パッケージ収入に代わる、第3の収入の柱を映像事業者として育成する

  2. インターネットの闇の世界で氾濫する海賊版を駆逐する

  3. インターネットの無法の世界に、著作権法を実効性のある有用な法として機能させる

基調講演を行った角川グループホールディングス代表取締役会長の角川歴彦氏

1については、「劇場流通、パッケージ流通に次ぐ第3次流通として、デジタル・ネットワーク流通を活発化させ、いかにネット上のeSellとeRentalを実現していくかが重要となる」と強調。

さらに、インターネットによる動画配信のメリットとして、(1)潜在的市場の開拓、(2)ロングテールビジネスの活性化、(3)在庫の減少によるコスト削減、(4)環境への配慮、を挙げた。

また、YouTubeにおいて角川グループが進めている、違法アニメにも著者の了解を得られれば広告を付ける「違法アニメの収益化」の試みなども紹介。海賊版の取り締まりの必要性も訴えた。

角川氏は「劇場流通、パッケージ流通に次ぐ第3次流通として、デジタル・ネットワーク流通を活発化させ、いかにネット上のeSellとeRentalを実現していくかが重要」と話した

権利集中化など「会長・副会長私案」について議論

角川氏の講演後、デジタル・コンテンツの利用促進について議論するシンポジウムを実施。パネリストとして、同協議会会長の中山信弘氏、同協議会副会長の和田洋一氏、JASRAC常務理事の菅原瑞夫氏、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授の金正勲氏の4人が参加。弁護士の岩倉正和氏がモデレーターを務めた。

「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」会長で東京大学名誉教授・弁護士の中山信弘氏

デジタル・コンテンツ利用促進協議会では、2009年1月9日に「会長・副会長私案」としてデジタル・コンテンツの利用促進を目的とした提言案を発表。

同提言案では、デジタル・コンテンツが流通し利用されるため、「製作されたデジタル・コンテンツに係る権利の集中化が望ましい」との認識を明示。

具体策として、(1)対象となるデジタル・コンテンツの利用に関する権利の集中化、(2)権利情報の明確化、(3)対象コンテンツの適正な利用と原権利者への適正な還元に向けた仕組み、(4)フェアユース規定の導入、を提言している。

提言案では、1の権利の集中化の対象となるコンテンツについては、原則として、「原権利者(※2)の許諾を得て録画、録音、放送された、映画、音楽、放送のコンテンツ」とし、権利を集中するための要件としては、原権利者から特別の意思表示がない限り、権利集中を可能とすることを提案。

※2 「原権利者」=原作の著作者や、製作に関与する著作者・著作隣接権者ら。

さらに、少数の原権利者の反対や所在不明によって対象コンテンツの利用が阻害されるのを回避するため、ネットでの利用に反対する原権利者らが占める割合によって、権利集中できるか否かを決定する仕組みを提言している。

シンポジウムではまず、この1の権利集中化に関する提言について、デジタル・コンテンツ流通の現状認識と併せて議論が行われた。