権利集中化の方法で賛否噴出

中山氏はまず、デジタル・コンテンツの流通の現状について、「中世の土地と同じで、数多くの権利者の権利が一つのコンテンツに重畳的に積み重なっている」と指摘。「この状態をどう解消したらいいのかについては、単に方法論が違うだけではないか。契約による解決は難しく、このままだと権利者に還元すべき利益も少なくなってしまう」と、法制度による権利集中化の意義を強調した。

スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏

スクウェア・エニックスの和田氏は、「著作権制度は新しいコンテンツ産業が生まれるたび、その都度制度を変えてきたという歴史がある。ネットワーク時代においても、かなり抜本的に著作権制度を考え直さなければならないのではないか」と発言。

「権利の問題について、契約でやろうとしてもあまりにも時間がかかるなら、新しい制度が必要となる。制度的な手法について、真正面から議論していく必要があるのではないか」と、権利集中化などに関する議論の必要性を訴えた。

慶應義塾大学の金氏は、「(デジタル・コンテンツ利用促進協議会などによる)今回の一連の動きは、政策提言を行っていくという上で非常に評価できる。だが、その具体的な方法論については、賛同できかねる」と表明。

慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授の金正勲氏

「権利を集約する先やそのやり方に問題がある。政府が強制実施するのではなく、政府が民間のアクションを促していくべきではないか」と強調。「いかに"映像版JASRAC"のようなものを民間で作り出して、権利処理コストを削減するべきかが課題となる」と述べた。

JASRACの菅原氏は、「今回の提言案は、(著作権者らの権利の)強制収用という感がある。合理性・緊急性がないのではないか」と反対の意思を表明。「デジタル・コンテンツの流通が進んでないのは、ビジネススキームがはっきりしていないからだ」と、持論を展開した。

その上で、「もうかるということであれば、コンテンツホルダーは(ネットビジネスに)こぞって参入してくるはず。一緒に市場を作っていくにはどうしたらいいかという点について、ベターなところから議論をしてほしい」と話した。

「利益が出ないと誰もやらない」

議論はさらに、提言案が権利集中化先と定める「法定事業者」についての議論に移っていった。提言案では、法定事業者について、「権利関係をできるだけ簡明にするという観点からすれば、一つの対象コンテンツにつきできる限り一人の法定事業者を特定すべき」とし、この権利があれば、ネット上にコンテンツを流通させることができるとしている。

日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏

この点について金氏は、現在のJASRACの機能について、(1)権利を集約してその情報をデータベース化、(2)権利の活用、(3)収益の徴収、(4)権利者への利益分配、の4つの機能があると指摘。

「提言案における法定事業者は1の機能しか持たず、利益が得られないので誰もやりたがらない」とし、「言葉は悪いが、新しい利権を作り出す必要がある。権利の保持だけでなく、ライセンシングによって利益を得ることができる映像版JASRACのようなものを政府が作り出していくべき」とあらためて主張した。

菅原氏は、「情報の集中と許諾権の集中は違う」と述べた上で、「情報の集中には非営利型の仕組みが適している」とし、JASRACらが進めている、楽曲の権利者情報を集中して管理する「著作権情報集中処理機構」の例を述べた。

その後、デジタル・コンテンツ利用を促進するためのコンテンツIDなどの必要性について話し合われた。

シンポジウムの最後に、モデレーターの岩倉氏は、「法制度を設けるべきかどうかの議論はあるが、一つの工夫としてコンテンツの権利の集中化があるということについては、合意がなされたのではないか」と述べ、議論を総括した。

3月10日には著作権法の改正案が国会に提出されたが、中山氏は、「(現状の問題を解決する)画期的なものではない」としている。中山氏は「革新的なものは議員立法でやるしかない」とも述べており、3人の国会議員を副会長としたデジタル・コンテンツ利用促進協議会での議論が今後も注目される。