京都大学 大学院 工学研究科 助教の田中一生氏

助成金受領者を代表して、3名による研究内容の紹介と挨拶も行われた。京都大学 大学院 工学研究科 助教の田中一生氏が手掛ける研究テーマは「刺激応答性分子集積ナノワイヤーの開発」で、同氏は「一言で表わすと有機分子で電子回路を作る研究を行っています」と語る。有機物を用いた電子素子のメリットは、レアメタルと比べて低コスト、薄型かつ軽量化が可能、コンピュータで精密な分子設計が行えるデザイン性の良さ、環境への負荷が小さいことなどが挙げられる。そこで田中氏は、高い導電性を示すTTF(テトラチアフルバレン)ナノワイヤーの薄膜に刺激応答性を付与した分子素子の構築を実施。作動原理の解明は上記のメリットに加えて、化学電池や発電などに応用でき、エネルギー問題の解決にも貢献するという。田中氏は最後に「種となる研究が数多くあるのに対して、資金面から実際に社会で活用できるレベルに到達するのは難しいものがありました。今回の助成金は非常にありがたく、今後も全力で研究を進めていきたいと思います」と語った。

山口大学 大学院 理工学研究科 教授の江鐘偉氏

山口大学 大学院 理工学研究科 教授の江鐘偉氏は「循環器疾病早期発見のための在宅ならびに訪問看護用ウェアラブル心肺情報計測解析システムの開発」というテーマで研究に取り組んでいる。現在、心臓疾患の検査方法としては心電図や超音波検査、X線検査などが挙げられる。特に心電図は心臓疾患に対する最も簡便な装置で、心筋症や不整脈、心室肥大といった検査に有効だ。しかし一方で、弁膜症や心疾患の初期症状に多くみられる心雑音の検出が難しいため、江氏は昔から使われている聴診器に着目した。聴診器で採取する心音には心電図で確認できない詳細な情報が含まれており、同時に呼吸音の計測も可能。さらに、先進の医療機器と比べて在宅など設備が整っていない場所でも使いやすいというメリットがある。一方で聴診技術は高い熟練度を要することから、メカトロニクス技術と最新のIT、コンピュータ診断支援技術を総合的に活用。高音質な聴診器プローブの開発、聴診部位の調整や装着性に優れたウェアラブル聴診ウェアの設計開発、虚血性心疾患の自動識別や肺炎による肺雑音の判定が自動的に行えるデータ解析と診断技術の開発などを実施する。江氏は「いただいた助成金をこうした研究で活用し、安心と健康な社会を作るために貢献していきたいと思います」と語った。

桐蔭横浜大学 スポーツ健康政策学部 講師の松谷満氏

桐蔭横浜大学 スポーツ健康政策学部 講師の松谷満氏は「ローカルパーティーの現代社会論 - 個人化社会における政治の再構築をめぐる困難」をテーマに研究を行っている。松谷氏は「国家全体の政治はもちろんですが、特に地方の政治が大きく変動しています」と語る。例えば、新潟県巻町の原子力発電所建設をはじめとして近年多く行われるようになった住民投票、無党派であることを旗印にした候補者が圧倒的な強さで当選している状況などが挙げられた。有権者のアンケートおよびインタビュー調査で分かったのは、社会が複雑化・多様化する中で、有権者の意向をこれまでの政党が十分に反映できなくなっていること。政党では流動的な社会に対応できず、有権者も政党を信頼できなくなっているわけだ。そこで松谷氏は「21世紀型の新しい政党の形としてローカルパーティー、つまり地域政党に注目しました」と語り、組織に統合されない個人が多数を占めるようになった時代において、市民社会と国家をつなぐ新たな関係をローカルパーティの実証研究で解明するという。

助成金受領者全員による記念撮影の様子