「私は、単に元々映画好きの映画バカだったんです」と語る曽利監督

デジタル技術によって映画制作は変化を遂げた

今回の映画でデジタル映像を使う意義とはなんであったのか、曽利監督は以下のように語った。

「今、時代劇を撮るにしてもデジタルの力があって初めてできることが実はたくさんあるんです。この映画の撮影期間は約60日間だったのですが、これはかなり短い期間だと思います。これだけアクションを入れて撮った作品としては確実に短いです。なぜ短期間でできたかというと、やはりデジタルの力だというところもあります。デジタル技術によって映画制作が変わってきているということを私は非常に感じています」

日本の映像表現力をあげたい

VFXやCGなどのデジタル映像を使うメリットとはどういったところにあると曽利監督は考えていたのであろうか。

「例えば、今100億円かけた映画を日本で作るのは無理です。なぜなら100億円使って映画を作った人が日本にはいないからです。経験者がいないのにいきなり100億円を使って映画を作れと言われても無理です。そういう意味で、ステップアップしていかなければなりません。しかし、いきなり今すぐステップアップできるわけではない。だけれども例えば、『ベクシル-2077日本鎖国-』を実写映画として今、日本で撮影できるわけないですが、CGであればそんなにお金を掛けなくても映像表現としてはできてしまいます。役者がいなくても自分で表現できるわけですから。それは面白いことだと思うんです。そしてCGであればなんでもできてしまうので言い訳もできません。そういった状況下で自分の表現力を試してみるのは面白いことだと思います。私は『APPLESEED』や『ベクシル-2077日本鎖国-』を通して、そういう表現力を試している部分もあります。こうやって、日本の表現力を上げていきたいというのもありますし、チャレンジしていきたいのです。もしかしたらその先に実写のSF大作があるかもしれません」

(C)2008 映画 「ICHI」 製作委員会

今後は実写の映画がやりたい

また曽利監督は、今後どのような映画を作っていきたいかという質問に対して以下のように想いを語った。

「デジタルの力というものに仕事としてずいぶん携わってきたので、色々な意味でテクニックもつきましたし、デジタルの力を知ってしまいました。だからデジタルを使って映画が作れるなんて、こんな幸せなことはないと思っています。そんな想いが『APPLESEED』や『ベクシル-2077日本鎖国-』といったフルCGで描いた作品の制作につながったという部分もあります。ただ実写の映画も大好きなので、今後は実写の映画をやりたいですね。今回は時代劇だったのですが、次はSF作品をやっているかもしれないし、『ICHI』とは全然違う現代劇を撮っているかもしれません。今後のことは今、考えてるところです」

特別講義の最後に、デジタルハリウッドの生徒からの質疑応答や、勝ち抜いた10名へ曽利監督が直筆サインを贈るジャンケン大会などが行われた

映画『ICHI』は一切デジタルカメラを使わず、全てフィルムで撮影したという。それは「フィルム映像の質感に、ある種のクオリティとスタイルがあるからだ」と曽利監督は語った。しかし撮影後に、その映像を全てデジタル映像に置き換え、デジタルで加工と編集を行い、作品を仕上げていったという。このようなデジタル技術の使い方ができるのも、デジタルの力に魅了された曽利文彦監督ならではのアイディアであったと言えるのかもしれない。デジタル技術について熱く語る監督の目はとても輝いていた。CGクリエイターや、映画監督を目指すデジタルハリウッド大学の生徒たちにとって、デジタル技術を駆使して様々な映像を作り出す監督の姿は、大きな励みとなったであろう。

ICHI

一人旅を続ける盲目の市(綾瀬はるか)は、襲い掛かってきたチンピラたちを刀の抜けない侍・藤平十馬(大沢たかお)の前で斬り殺す。そんな彼女は、かつて幕府指南役に推挙されるほどの侍だった万鬼(中村獅童)と戦うことになるのだった……
(C)2008 映画 「ICHI」 製作委員会