高橋恒雄氏の基調講演

Photo12:なぜかWorld WideのExectiveのページから抜け落ちているが、日本の社長兼World WideのSenior Vice Presidentという役職に変わりはないそうで。ちなみに高橋氏の上司に当たるのは、Chief Sales & Mktg OfficerのHenri Richard氏。ご存知の方もおられようが、昨年9月まではAMDでほぼ同じポジションに居たお方だ。

続いてフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの高橋恒雄社長(Photo12)が登壇して、もう少し具体的な基調講演が始まった。

先ほどBeyer氏の講演で触れられた3つのテーマは日本においても全く変化はないが、ただこのテーマに沿ってどんなソリューションを提供するか、という辺りの色づけが米国と異なることになる。まずGoing Greenに関しては、エネルギー消費量増大に加えて、原油や資源の価格高騰が著しい昨今では、単にエネルギー消費電力だけではなく、資源の節約も重要な観点となる。

ここで取り上げたい話は自動車。自動車は現在のFreescaleの売り上げの1/3近くを占める重要な分野であり、ここに対する取り組みは欠かせない。昨年はこの趣旨に則り、内部のハーネス(電気配線)の簡略化のソリューションが示された。従来だと車内の電気配線の制御にはリレーやヒューズを使っており、このためエンジン部のそばに巨大なリレーボックスが用意され、ここから車内にくまなく配線が張り巡らされるという仕組みであった。

Photo13:テーマそのものは当然ながら本国と同一。ただ力の入れ方などは当然国によって変わってくる事になる。

Photo14:昨年の基調講演では、地球温暖化防止の観点からのエネルギーの節約が主なテーマだったが、今年は資源高騰も重要なテーマになってきている。

これがFreescaleのeSwitchと呼ばれる素子を使うことで、リレーの様に一カ所にまとめる必要がなくなり、トータルでハーネスを30Kg以上節約できるというものだ。これは銅配線の節約(=コスト削減)となるし、重量削減により燃費の改善も期待できるという訳だ。

今年はハーネスほどのインパクトは無いものの、新しいエアバッグ用のバスが紹介された(Photo15)。エアバッグ用のバスとしてはDSIとPSI5の2種類が存在しており、Freescaleはどちらにも携わっているが(Photo16)、今回紹介するのはDSIの方である。

Photo15:現時点でエアバッグ用のバスは事実上DSIしかなく、このため国内でもエアバッグ用バスを搭載しているベンダはほぼ全量Freescaleのシステムを利用しているとか。

Photo16:これは本国の方のプレゼンテーション(AA110 "PSI5 and DSI Communication Protocols in Airbag Satellites: Key Features and Comparison")からの抜粋である。すでにDSI用の製品は多数あるが、PSI5はこれからの規格なので、あるいみ公平な比較は難しい。一応FreescaleもPSI5用のコントローラ兼センサーI/FとPSI5対応加速度センサの製品概要は公開しているが、まだ開発中ということで提供次期などは明らかにされていない。

このDSIバスの第2世代は、信号の高速化や信号の載せ方の工夫などで

  • 1本のバスに接続できるエアバッグ用センサの数を増やした(=より少ない配線でエアバッグセンサをカバーできる)
  • 信号そのものがノイズに強くなり、また外部に出すノイズも減ったため、信号線のシールドが不要になった

といった工夫により、第1世代よりもより軽量化が図れるようになった(Photo17)。実際基調講演では、第1世代と第2世代のDSIを動かし、車載ラジオに載るノイズを聞き比べるという形で、ノイズ成分の低下(により、配線のシールドが不要化)が図れる事を示した(Photo18)。このDSIと、昨年紹介したeSwitchを全面的に採用した場合、例えば1000万台の車ではCO2と資源を大幅に削減できる事が紹介された。

Photo17:理論上は1本のバスに全てのセンサをディジーチェーンで繋げることも可能だが、センサの反応時間を規定内に受け取るためには、現実問題として3~4個/バスが上限という話。理論上は信号速度を750Kbpsまで引き上げれば実質的にも15個のスレーブが接続できるが、今度は消費電力増加やノイズ対策/配線そのものなどの強化が必要になるから、このあたりが現時点におけるベストバランスということなのだろう。

Photo18:会場ではスペクトルアナライザを使って受信側の波形を見ながら、実際に受信した音を流してその効果が紹介された。実際にはクロックにスペクトル拡散を使うことで、第1世代でもノイズをかなり減らせるが、第2世代+スペクトル拡散の組み合わせはさらに効果的にノイズを減らせた。

Photo19:エアバッグについては、数字そのものは地味だが、このところエアバッグの数は増える一方であり、したがって将来エアバッグが増えたときにもさして重量や配線を増やさずに済む、というヘッドルームの確保と考えるのが妥当かもしれない。