ひと通り「PROTREK」のポイントや開発時の裏話などを聴き、すっかり満足した筆者だが、本番はこれから。牛山さんにアレンジしていただいたコースは、 約2名の登山初心者を考慮して、北八ヶ岳の横岳だ。都内から車で約3時間と気軽に足を運べるうえ、標高2,240mにある坪庭まではロープウェイも用意されていて、登山初心者にはうってつけの山岳である。ロープウェイ乗り場に着き、まずは標高合わせを実行する。
牛山「まずは高度計を合わせます。PROTREKは高度計を備えているわけですが、これは圧力センサーを利用したものです。標高何mであれば何hPaという、国際民間航空機関が定めた国際標準大気と言う数値を利用して、気圧を高度に換算しています。気圧配置が変わったりすると、同じ場所に居ながらも標高が変わってしまいます。ですので、山に登る際は登山口で標高を合わせる必要があるのです」
登山愛好者には常識だろうが、ズブ素人である筆者と担当編集者には、衝撃の事実というヤツだ。いそいそとそれぞれの高度計をセットする。
牛山「いま、この1,774mの地点から、ロープウェイで一気に2,240mまで上がります。そのあと、横岳の山頂まで数字がどういう風に増えていくのかを追って見ていくとおもしろいと思いますよ」
ロープウェイに乗り込んで、高度を表示してみると、みるみると数字が上昇し始める。
牛山「高度計は、通常2分に一度、表示が更新されるのですが、『PRW-1300』『PRW-500』は、登山に特化したモデルですので、5秒に一度、高度表示が更新されるモードを備えています。電池の消耗が激しいので、1時間で時計モードに戻る仕組みになっていますが、アップダウンの激しい場所では有効ですね」
約7分ほどで山頂駅に到着し、目の前に溶岩台地の「坪庭」が広がる。溶岩のわりに緑が多く、ちょっとした散策コースが設けられている。ロープウェイを降りたあと、牛山さんが真っ直ぐに道標に向かった。
牛山「いま、私が推奨しているのは、登山口だけではなくて、登山中も標高がわかる場所で、こまめに高度計を合わせていきましょうということです。正確な高度を知ることで、地図上の等高線と照らし合わせて、自分がココに居るはずだと、わかるようになるのですね。そうすると、コンパスだけで地図を読むのではなくて、三次元的に地図を読むことができるようになるのです」
筆者も担当編集者も、さっそく情報修正をするため高度を表示するが、数字は道標に示された標高通り2,240mを示し、修正の必要はなかった。さすがにプロが愛用するだけのことはある。標高の確認を終えると「坪庭」の途中から横岳の山頂にのびる登山道へ向かう。いよいよ、山頂へアタック開始だ。
牛山さんの軽快な口調と、腕に着けた「PROTREK」を頼りに、登山道へ踏み出す。登山道へ入りすぐ、ルートが若干下り、辺りを木々に囲まれる。この季節は、登山道にロープが張ってあり迷うことはないが、冬には雪でルートが隠されてしまうだろう。そんな場合にも「PROTREK」は威力を発揮する。
牛山「方角を見失わないことも、登山するうえで基本です。『PROTREK』シリーズでは、方位センサーを備えていますが『PRW-1300』では、さらにベアリングメモリーという機能もあります。これは目標となる地点の方角を記録しておく機能で、マーカーを常に12時方向に保つことで、目標まで真っ直ぐに進むことができるのですね。見通しのきかないような場所もちろん、冬山のように方角を見失いやすい時に役に立ちます」
横岳の場合は、初心者向けとあって、しっかりと山頂までのルートが用意され、横道に逸れそうな場所にはロープも張ってあるため、迷ってしまう危険性は少ないものの、登山愛好者には重宝しそうな機能だ。この機能、極端に方向音痴な筆者にとっては少しばかり魅力的だ。使いようによっては、初めての街でも、進む方角を間違える可能性が低くなる。もう迷子王とは呼ばせないのだ!
とはいえ、筆者の威勢が良かったのもここまで。登山道を軽快な足取りで登っていく牛山さんについていくのがやっとの状況で、せっかくの好天に恵まれているにもかかわらず、景色を眺める余裕もない。半分も進まないうちに息が上がる筆者を見かねた牛山さんに鼓舞されながら、休憩所に辿り着く。ごく初心者向けのコースで休憩所まで辿り着けなかったとは、運動不足にもほどがあるというものだ。と、そこで、同行していた担当編集者が、なにやら楽しそうに「PRW-500」を覗きこんでいる。
編集者「川中島さん、山頂まであと80mくらいですよ。しっかりしてください! この時計を見ていると、徐々に山頂に近づいているのが実感できて、モチベーションが上がりますよね」
「PRW-1300」と「PRW-500」には高度差を数値で表示する「高度差計測」機能が搭載されており、抜け目ない担当編集者は坪庭を出発する時にその機能をセットしていたのだ(「PRW-1500」ではグラフでの簡易表示となる)。高度差をリセットした地点からの相対数値だが、自分がどれだけ登ってきたのか、ハッキリと数値で見せられると、やはりヤル気が違う。なるほど、筆者同様に初心者なのに、さして苦しそうな表情も見せず、登っていたのには、そんな秘密があったのかと納得。筆者も負けじと、休憩した山小屋の思い出に計測月日と時刻・高度を記録できる「高度メモリー」の操作をした。
ゆっくりと休み山小屋を出発。ここからは一気に山頂を目指す。実際、高度差計測によって表示される数字が、徐々に変化するのを見ていると"いま確かに登っている"ということを、しっかりと実感できる。本来の意図とは若干違う捉え方にはなるが、初心者にとって「高度差計測」機能は、より楽しく登山を経験できる機能になるだろう。