規模拡大から利益志向型への転換が必要
中国の情報通信政策を統括する信息産業部のトップ、王旭東部長がかつて掲げた「情報産業大国から情報産業強国への転換」をいかにして実現していけるか-。半導体業界の専門家は、こうした国家目標の実現のためには、規模の拡大から利益志向型へ業界上げての業態転換が不可欠とみている。受注、アウトソーシング志向から独自技術開発力の底上げによる市場志向への転換、と言い換えてもよい。情報産業についていえば、ソフトウェア産業と半導体産業を発展させることがキーポイントだ。
中国における半導体産業の国際競争力は、以下の4点が必要とされている。すなわち、(1)業界全体で今後の発展の方向性を共通認識すること、(2)特許技術や規格に関する体系を構築すること、(3)強大な製品化システムを構築すること、(4)世界の半導体産業でトップランナーを目指すだけの力を備えること、である。
中国では、国家が税収などの政策面で半導体業界に一層の優遇措置をとり、開発機能をもつ特定の企業に絞って育成すべき、との議論も出てきている。また、「産学研」の結合をより緊密にし、いわゆる産学連携から技術シーズを育て上げ、半導体産業の発展を加速すべきという意見も根強い。
自主開発能力強化により"製造センター"からの脱却図る
業界アナリストの多くは、現状の「単なる製造センター」という立場から脱却するには、自前のチップ開発企業が自主研究開発と自主生産を行いうる、独立した産業チェーンを形成しなければならないと考えている。言うなれば、これこそ中国半導体産業の「活路」なのだ。
現在、中国には世界の大手半導体メーカーと肩を並べられるほどの開発企業はない。だがそれにもかかわらず、中国の半導体企業は近年確かに一定の進歩を遂げたといえる。「方舟」「龍芯」「北大衆志」などのCPUチップ、さらにはDSP(Digital Signal Processor)やモバイルチップの開発に成功し、国内半導体のIPコア技術の標準化作業も動き出した。
当面は、中国で第2世代となる電子身分証明書(インテリジェントIDカード)のプロジェクトが、自主研究開発に取り組むチップ企業をはじめとする中国半導体業界にとって発展のチャンスとなりそうだ。研究開発からウェハ拡散、組立・テストまでの工程が、ほとんど自前でできるからである。
第2世代電子身分証明書の市場規模は優に200億元(約3,080億円)を超えるとみられ、これにはチップ、カードリーダおよびデータバンクシステムという3つの領域が含まれる。このうち、チップの市場規模は約70億~80億元(約1,070億~1,232億円)はある。
いまのところ、華虹NEC、大唐微電子技術、清華同方、北京中電華大電子設計の大手半導体4社がチップ開発に携わり、チップ生産を華虹NEC、中芯国際集成電路製造(以下、中芯国際)、珠海東信和平智能卡などの各社が行う予定だ。このように、多くの企業が関わる第2世代電子身分証明書プロジェクトは、中国のチップ開発企業の研究開発能力の引き上げに貢献し、国際競争力増強につながることが期待されている。