兄弟の協力によって進化したPhotoshop

--Photoshopの開発の変遷を見ていて、ジョンさんがビジュアルエフェクトなどの現場でPhotoshopが「これは使える」と思い始めたのは、どれぐらいからですか。

ジョン氏:そもそもPhotoshopは、開発が進むと同時にビジュアルエフェクトの現場でも使っていたという感じなんです。もちろん最初の頃は、個人的なプロジェクトの中で使用していました。個人的なプロジェクトの中で使っていきながらも使い勝手のいいところ悪いところを兄にリアクションして、それが製品に反映されているという感じでした。間違いなく現場のニーズが開発に反映されたということが、製品の成功につながっていると思います。ちなみに実際に公開された映画の製作現場で初めてPhotoshopが使われたのは「アビス」ですね。

--「アビス」の頃だとILMも、主流の製作環境はSGIなどのワークステーションだったと思うのですが、その中でPhotoshopのようなパーソナルコンピュータで使用するソフトを導入していくのは大変だったのではないでしょうか。

ジョン氏:その頃のILMは、CGのチームを作ったばかりで、本当に7人ぐらいの小さなチームでした。そのため、こうやらなければいけないというルールもありませんでした。ビジュアルエフェクトの問題を解決する手段であれば、なんでも積極的に取り入れていこうという感じだったので、比較的問題なく現場に導入することができました。それこそ1990年もしくは1991年から2年間ぐらいは、ILMでも合成を担当している部署では、Mac II fxをビジュアルエフェクトに使っており、その上でPhotoshopを走らせていました。「ターミネーター2」「バックドラフト」「ロケッティア」「インビジブル」などの合成にはPhotoshopが使われています。

Photoshop worldで披露されたアビスのパロディ。もちろん中央のオビ=ワン・ケノービに扮した人物はAdobe Systems上級クリエイティブディレクターのラッセル・ブラウン氏である

マット部門に大きな変化をもたらす

--ILMでは、Photoshopはなくてはならないツールとして使われているのでしょうか。

ジョン氏:そうですね。Photoshopは、さまざまな部門で使用されています。特にアート部門でコンセプトアートを作成するために使っていたり、CGで作成したクリーチャーの質感をペイントするために使ったりしています。あとは、マット部門で背景画を作成するのにも利用されていますね。

--Photoshopが使われるようになって一番変わった部門というのはマット部門だと思いますが、大きな画材に絵を描いていた頃から比べて、ペイントアーティストの作り出す背景画のクオリティや彼らのワークスタイルに変化はありますか。

ジョン氏:かなり変わりましたね。特にPhotoshopを使用することによって、実写映像との色合わせが非常に楽になりました。マットペイントは、手書きの背景の一部に実写の映像が合成されるということが非常に多いので、実写とペイント部分の境界の色合わせというのが、いつも難しい作業でした。しかし、Photoshopなどのデジタルペイントを使えるようになったおかげで、非常に自然な色合わせを楽にすることができるようになりました。

--ILMのクリエイターの人たちは、Photoshopを使う場合はパソコンを使って作業しているのでしょうか。

ジョン氏:長い間、MacでPhotoshopを使用していました。途中短い間でしたが、SGIのワークステーションでPhotoshopを使っていたこともあります。その後Linuxが使われるにようなり、クロスオーバーというLinux上でWindowsを走らせるエミュレータソフトを使ってPhotoshopを使っています。現在では、LinuxマシンとWindowsマシンを平行して使用しているアーティストが多いですね。