KDDI 執行役員 技術渉外室長、WiMAX Forum Board Memberの冲中秀夫氏

mobidec2007の基調講演に、KDDIの執行役員技術渉外室長でWiMAX Forumのボードメンバーを務める冲中秀夫氏が登壇した。「WiMAXが拓くモバイルブロードバンド時代がやって来る」と題し、WiMAXとは何か、WiMAXで何ができるか、WiMAXの海外での展開計画などについて解説した。

無線ブロードバンドサービスのために、新たに2.5GHz帯の周波数を開放しようと総務省が図っているが、事業免許の申請をした4社のうち3社が、モバイルWiMAXの採用を提案している。申請内容を巡ってこれら4社による公開討論会も開かれるなど、この分野への関心が高くなっている。

日本の通信産業では、携帯電話が第2世代(2G)から第3世代(3G)へと進化し、通話と簡単なデータサービスだけだったのが、インターネットとの連携サービスや、動画、高音質の楽曲などが飛び交うようになり、マルチメディアのモバイル化が進行した。一方、固定通信はブロードバンド化が進み、かつてのアナログモデム、ISDNの時代を経て、ADSL、光ファイバーの普及へと向かっている。ここで「固定系インターネットの『サクサク感』と同時に、いつでもどこでも移動しながらでも使いたいとのニーズ」(冲中氏)が出てきた。その解として「WiMAXが本命となってきた」(同)

WiMAX、特にモバイルWiMAXと呼ばれる規格は、時速120kmで移動する際にも継続的な接続が可能で、通信速度は最大で数十Mbpsになるとされる。冲中氏は「モバイルWiMAXは携帯電話の代替として考案されてきたというような誤解があるが、電話サービスに利用するのに最適化されているわけではない。携帯電話に置き換わる存在ではなく、3Gを補完するものであって、大容量・高速の通信を比較的安価に提供するものだが、移動性は携帯電話よりは劣る」と語る。

WiMAXはまず「PC用のデータカードでの利用に始まり、そこからゲーム機、カメラ、というように情報家電などに伝播していき、別の市場へと拡大していく」と冲中氏はみている。「WiMAXはまだこれからの技術であり、普及段階にきてはいない。重要なのはいかに安くできるかだろう。さまざまな分野のプレイヤーが参加でき、相互に助け合えるような環境が望ましい。標準をオープン化することが必要」(冲中氏)になる。

WiMAXの標準化団体であるWiMAX Forumには全世界から523社が参加しており、さまざまな仕様を策定している。重要なのは、ここで決められる標準の下で、機器ベンダーが柔軟に商品を開発できるようにするとともに、グローバルな相互接続性を確保することだ。「日本のA社が出している製品を海外にもっていっても使えるように」(同)しなけらばならない。

WiMAX Forumは今年6月に日本オフィスを設けた。無線ブロードバンドをいつでもどこでも使えるよう、国内でのWiMAX技術とサービスの普及促進を図るのが目的で、代表には東京大学の斉藤忠夫名誉教授が就任している。技術面では、国内の規制とWiMAXがぶつからないよう調整するため、解決策を求め、規制当局に働きかけることなどが中心となる。

世界のWiMAX動向については「いま、65カ国、250以上の事業者が商用化、あるいはトライアルが行われている」(同)状況にある。中でも韓国のKTが2006年6月から開始しているWiBroが有名だが、「依然、大きく普及してはいない」(同)という。冲中氏は「KTは携帯電話との二重投資が影響していたようだが、2008年にはこれまでの投資の効果が出るのではないかと期待している」と話す。

北米ではSprint Nextelが積極的に取り組んでおり「3.9GをCDMA規格ではなく、WiMAXでいこうと決断」(同)し、2007年末に2.5GHz帯を用いてシカゴ、ボルチモア、ワシントンDCでサービスを開始する予定という。「2008年には本格化を目指し、2008年末に50%程度のカバレッジを目標にして、着々と準備している」(同)が、「同社は本業の携帯電話が好調とはいえず、遅れるのではないかとの観測もある」(同)。

また、当初Sprint NextelとモバイルWiMAXを共同展開することを計画(のちに撤回)していたClearwireだが、すでに2004年第3四半期にWiMAXベースの固定無線通信サービスに着手しており、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州などの45都市で提供、2005年10月には欧州にも進出し、アイルランド、ベルギー、デンマークでもサービス展開している。2007年4月末時点で、加入者数は全世界で25万8,000人に上っている。

そのほか、「台湾でも官民が総力をあげ、WiMAX機器の開発を推進している」(同)。

KDDI自体は、京セラ、インテル、JR東日本など共同出資で、ワイヤレスブロードバンド企画を設立し、2.5GHz帯の免許獲得を目指している。冲中氏は「新しい市場を開拓しようという理念をもっている。まず、PCから始め、情報家電に搭載していく環境をつくりたい。情報通信の国際競争力を高めることも重要だ」と主張している。