Microsoftのハードウエア開発者向けカンファレンス「WinHEC」2日目は、今年2月にWindowsプロダクトマネージャーに就任したばかりのMike Nash氏の基調講演で始まった。同氏は、これまでセキュリティ部門のトップとしてWindows Vistaのセキュリティ開発を率いてきた。大きなMicrosoftの中で、グループリーダーとしてWindows Vistaの開発とマーケティングの両サイドに関わっている唯一の存在だという。なぜ同氏がプロダクトマネージャーに選ばれたかというと、Windows Vistaの開発では誰もが安全を確保できるように、シンプルで分かりやすいセキュリティがテーマだったからだ。セキュリティ開発のトップとして、同氏は優れたユーザー体験を追求してきた。その手腕を、今度はマーケティングに生かすことが期待されている。

WindowsプロダクトマネージャーのMike Nash氏

講演のタイトルは「ユーザー体験への投資」だった。初日の基調講演でBill Gates会長がアピールした一般発売から100日間のWindows Vistaの実績をさらに掘り下げるような内容だ。集まったハードウエア開発者に対して、Nash氏は「今年はWindows Vistaのユーザー体験を可能な限り高める年になる」と訴えた。Windows Vistaの利用体験はVistaだけからもたらされるのではない。PC、周辺機器、アプリケーション、サービスなどとの組み合わせであり、開発者の協力が不可欠なのだ。

Vista対応デバイスは190万に到達

Nash氏が担当したセキュリティだけではなく、Windows Vistaは全てにおいて優れたユーザー体験を考慮して開発された。その取り組みの違いは、サードパーティのデバイスやアプリケーションの対応の差にあらわれている。例えば1999年後半のWindows 2000のRTMでは、同梱されたドライバが350個だけだった。2001年のWindows XPのRTMでは10,000個が含まれ、さらに2,000個がWindows Updateで提供された。これらに対して、Windows VistaのRTMでは20,000個が用意され、13,000個がWindows Updateで追加された。合計33,000個だ。その結果、Vista互換のデバイスはRTM時で150万。一般発売時に170万になり、それから100日後には190万に達した。ソフトウエアに目を向けると、すでに「コンシューマ向けのアプリケーションのトップ50のうち、48製品がVistaをサポートしている。コンシューマ向けのセキュリティアプリケーションに絞れば、トップ5すべてが対応している」とNash氏。

Windows Vita対応デバイス数のRTMから現在までの推移

Windows XPに比べると、Vistaの方が同時期により多くのデバイスがWindowsロゴを獲得している

多くの製品がWindows Vistaをサポートしても、ドライバの品質が悪ければ優れたユーザー体験には結びつかない。Microsoftはユーザーからのレポートをサードパーティーのソフトウエアやドライバの開発に反映させるフィードバックの仕組みを用意している。これをパートナー各社が利用することで、時間と共にWindows Vistaを中心とするエコシテムが充実し、ユーザーにより優れた利用体験を提供できる。そのためNash氏は、Certified for Windows VistaやWorks with Windows Vistaをはじめとする、Microsoftのパートナープログラムへの積極的な参加を呼びかけた。

"スーパー"がつかないVistaの出足

今回のWinHECは、Windows Vistaを中心としたエコシステムの拡充がテーマである。ところが現実的には、一般発売から100日を迎えたWindows Vistaの順調な出足のアピールに力が注がれている。一般販売直後で谷間の時期とも言えるが、今年はこれまでのWinHECとは雰囲気が異なる。Microsoftが今後の技術や製品アイディアを示し、ビジネスチャンスを見いだそうとする開発者が目をギラつかせるのが常だったのに、すでに発売済みの製品への協力が求められている。これが意味するところは、Nash氏が述べるように、「利用体験を高めるために、これまでとは違うアプローチをとっている」のかもしれない。だが、会場が今ひとつ盛り上がらないのも事実だ。

少し話がそれるが、2日目の基調講演にはユニークなスピーカーがそろっていた。セキュリティ開発担当からマーケティング担当になったNash氏。Windows Server部門ゼネラルマネージャーのBill Laing氏をはさんで、最後にプラットフォーム&サービス部門を担当するテクニカルフェローのMark Russinovich氏が登場した。同氏は、Sony BGMの音楽CDのコピー防止技術にrootkitに類似した技術が用いられていたのを最初に指摘した人物である。96年に設立したWinternalsが昨年7月にMicrosoftに買収(http://journal.mycom.co.jp/news/2006/07/19/103.html)され、テクニカルフェローとなったのだ。同氏は、Microsoftの大規模なカンファレンスで基調講演のスピーカーを務めることについて、「不思議な気分だ」と言いながら、Microsoftの一員になったことには「本当にエキサイトしている(really excited)」と述べた。が、すぐに「おっと、ここではスーパー・エキサイテッドと言わないと、本当にエキサイトしていることにならないんだ」と続けて、会場を笑わせた。

Microsoftに新風と評判だったMark Russinovich氏の基調講演

WinHECのような開発者向けカンファレンスで「エキサイト」はMicrosoftのスタッフの常套句なのだ。それを誰もが承知している。Russinovich氏の発言は気軽なジョークである。ただ今回も様々なところでMicrosoftのスタッフがエキサイトを連発しているのに、"スーパー"付きの表現を耳にしないのが気になるところだ。