さて、このNOR Flashを置き換えると期待されているのがPCM(Phase Change Memory:相変化メモリ)である。初日の基調講演でいきなりこの話が登場した(Photo41)ことで、俄然注目を集めることになった。特にRattner氏がサンプルのウェハを展示したことで、かなり現実味を帯びた話である事が裏付けられたとも言える。

Photo41:この直前には、Silicon Diskの話をしており、そこにこのスライドが続いたことで、PCMを使ったSilicon Diskという方向に誘導するものと言える。

Photo42:このウェハのサイズから見ると、量産Fabを使ったものではなく、R&Dチームの実験用Fabを使ったものと推測される。

IntelはこのPMCには結構長く関わっている。2001年7月にはOvonyxと共同でOUM(Ovonyx Unified Memory)をベースにPMCを開発しているという発表を行っており、その時点でもRead 100ns未満/Writeで100ns程度、書き換え寿命が10^12回程度という特性を持っていた。この時点での発表は、カルコゲン化物とヒーターを組み合わせ、加熱すると相変化が発生する事を利用する仕組みで、DVD-RAMなどと同じという話であった(このあたりの仕組みは、こちらにも詳しい)。

この当時、Intelは同時にPolymer Memoryと呼ばれるものも同時に研究していた。これはポリマー(高分子材料)を縦横の信号線で挟み込み、電界を掛けると組成が変わるという性質を利用したメモリで、ポリマー層を最大8層まで積み重ねる事が可能であり、かつ他のメモリと異なって1ビット毎に読み出しのトランジスタを設ける必要が無いといった特徴を兼ね備えていた。また電界を掛けなければデータが保存されるため不揮発性であるものの、アクセス速度はReadがμsecのオーダー、Writeはフラッシュメモリより高速な程度ということで、低速ストレージ向けという扱いだった。ただ2004年頃までにはこのPolymer Memoryの研究は中止されたそうで、その後はOUMをベースにしたPCM一本槍となった模様だ(Photo43)。使っている材料はGe2Sb2Te5で、実はDVD-RAMと全く同じである(Photo44)。

Photo43:試験管をひっくり返した形のものがヒーター。熱を加えると、多結晶状態からアモルファス状態に遷移する。これにより抵抗値が変化するので、これを読み取る仕組み。

Photo44:DVD-RAMの場合、一瞬だけ強力にレーザーを当てると、材料が加熱後に室温状態で凍結され、アモルファス相となる。このアモルファス相にゆっくりレーザーをあてると、再結晶化するという仕組みだ。DVD-RAMに使うGe2Sb2Te5の場合、相変化に要する時間は20ns程度と短いため、消費電力もそれほど多くない。OUVにこれらのパラメータがそのまま使えるとは思わないが、基本的な仕組みは同一であると思われる。

先に2001年7月に発表と書いたが、実際の開発は2000年の2月から始まっており、2003年にはSTMicroelectronicsも開発に参加している。なので、Intelだけに限っていっても、もう7年越しのプロジェクトな訳だ(Photo45)。ちなみに製品の特徴は発表前ということで明らかにされないが、PCMは全般的に良い特性を持っているとしている(Photo46)。基調講演でも触れられていたが、既に量産化に近い状態にあり、90nmプロセスを使ってまずは128Mbit NOR Flashの代替を目指すとしている(Photo47)。

Photo45:2000年に共同開発を始める前は、Ovonyxが単独で開発していた訳で、その意味ではもう10年近い歴史があることになる。ちなみに今年2月、Ovonyxの副社長にIntelのStefan K. Lai氏が就任したとしている。ただまだ同氏はIntelにおいてVice President, Technology and Manufacturing Group Director, California Technology and Manufacturingのポジションにあるから、兼任の形でOvonyxとのパイプを強化する役割を果たしているものと思われる。

Photo46:以前の話と比べ、だいぶ速度は上がったようだ。ただ以前は寿命が10^12回だったのが、Photo41では100万回(10^6)以上まで減っているところを見ると、やはり両者はトレードオフの関係があったのかもしれない。

Photo47:このウェハは8inchのものだから、ST Microelectronicsとの90nmでの共同開発の産物なのかもしれない。

今のところ有益な情報はこの程度であるが、PCMが今後量産と微細化が上手く行くようなら、今のFlash Memoryのマーケットが大きく変わる可能性がある。実のところElpida/Samsung/Qimondaといったベンダーは既にOvonyxとライセンス契約を結んでおり、Flash Memoryとはまた異なった勢力が出来上がる可能性があるからだ。こうした事を含めて、この先の不揮発性メモリのマーケットの動向が楽しみである。