デジタルテクノロジーがあらゆる業務で活用されるようになり、業務効率の改善や生産性の向上が図られている現代。ビジネスの最前線ともいえる営業分野においても「SalesTech」(セールステック)というキーワードが熱くなっている。そのSalesTechのひとつとして、特に注目されているのが"継続的な営業活性化"を実現する「セールス・イネーブルメント」だ。本連載では、セールス・イネーブルメントの概要や価値、実際の導入効果について3回にわたって解説。第1回目は、SalesTech/セールス・イネーブルメントとは何かについて確認していく。

SalesTechは営業部門の課題解決をデジタル技術で支援するための仕組み

ITの急速な進化はビジネスの世界を大きく変化させた。モバイルやクラウド、AI、IoTといった先進技術が活用されることで、新たな商品やサービスが矢継ぎ早に登場し、時間や場所にとらわれないワークスタイル、いわゆる"働き方改革"も推進され始めている。あらゆる業種の企業において、デジタルテクノロジーの有効活用は重要なミッションとなっているのが現状。少子高齢化による就労人口の減少といった社会的な問題もあり、少ない人材で利益を確保するための仕組みづくりが求められている。どの企業も優秀な営業担当者を採用したいと思っているが、現在の状況において人材確保は極めて困難で、いまいる営業担当者のスキルアップによって業績向上を目指す必要がある。

そんな営業分野の最前線で、SalesTech/セールス・イネーブルメントというキーワードが注目され始めている。SalesTechとは、広義では『営業活動をテクノロジーの力で効率化し、成果を最大化するための新たな手法・活動・技術』のことを指す(出典:ITR White Paper「営業課題の解決に向けた SalesTechの考察」)。SFA(営業支援)ツールやCRM(顧客管理)ツールを含んだ、"営業活動への科学的アプローチ"を実践するための取り組みを総称したもので、金融業における「FinTech」や農業における「AgriTech」などの営業バージョンといえる。

ITRが2018年6月に実施した「営業力の強化・レベルアップに向けたSalesTech活用ニーズ調査」によると、SFA/CRMの導入により、案件・顧客管理や商談情報の見える化には効果が現れたという回答が多かった反面、提案力の強化や営業スキルの標準化という営業力の向上面に関してはあまり効果がないという傾向が見てとれる。SalesTechには、こうしたSFA/CRMで対応できない領域に対応するための取り組みも含まれている。

  • SFA/CRMの導入効果

営業分野におけるIT化の流れは、文書作成・表計算・プレゼンテーションといったオフィスアプリや、SFAツールが登場し、業務のデジタル化が進んだ90年代半ばの黎明期から、モバイルやクラウドの業務利用が当たり前のものとなった普及期を経て、さまざまな分野でテクノロジーの活用が浸透した拡大期へと突入している。この現在進行中の"拡大期"を象徴するキーワードとして定義されたのがSalesTechとなる。

営業担当人材の不足から、優秀な営業担当の持つ属人化したノウハウの共有や、いまだ努力・根性論が主流の非効率的な人材育成(トレーニング)まで、営業部門の抱える課題を、データに基づいたデジタルなアプローチ、すなわち"営業の科学"で解決できることが、多くの企業の興味を引き続ける要因となっている。前述したITRの調査での「営業活動における課題」という設問に対する回答では、「営業担当者ごとの売上げの差が大きい」「営業担当者の育成に時間がかかる」「営業人員が不足している」が課題項目として上位を占めており、多くの企業が同じ悩みを抱えていることがうかがえる。

  • 営業活動における課題

セールス・イネーブルメントによりSFA/CRMで解決できない領域を改善

そして、このSalesTechの一部で、SFAやCRMで解決しきれなかった営業担当者の能力向上と平準化を実現するための取り組みとして注目されているのが「セールス・イネーブルメント」だ。セールス・イネーブルメントとは、継続的に営業成果を出すための取り組み、それを実現するツールや推進する部署、プロジェクトなどのすべてを含んだ概念で、『セールスコンテンツの拡充』と『トレーニングの実施』という2つの要素で営業活動の現場を支援し、生産性向上と効率化を実現する。もちろん、これらの営業活動を支える施策は、従来、企業の営業支援/営業企画部門や人事部門などが行ってきたものだが、セールス・イネーブルメントの取り組みでは、これまでバラバラに進められてきた施策をトータルで管理するのがポイントとなる。

単にセールスコンテンツを拡充するだけではなく、どのコンテンツがどれだけ使われているか、誰がどのようなタイミングで使っているのかといった情報を収集。トレーニングも単に実施するのではなく、営業担当者がどこまでトレーニングを実施して、その内容をどれだけ理解しているかを可視化する。その結果、セールスコンテンツの拡充やトレーニングが、担当者ごとにどれだけ営業成果に反映できているかを判別でき、それぞれの貢献度が分析可能。優秀な営業担当がどんなコンテンツをどう使っているのかという、属人化されていたノウハウもデータの分析により共有できるようになる。さらにそのノウハウをセールスコンテンツやトレーニングに反映することで、現場の営業力を高める具体的な施策となる。

セールス・イネーブルメントは、営業現場における流れから、業務を効率化するツールや提案に必要なセールスコンテンツ、さらに営業ノウハウ取得のための現場トレーニングまで、営業活動におけるさまざまな要素を一元管理し、継続して取り組みを反復することで効果を高めていく。SalesTechに含まれる領域の中でも、現代の営業部門が抱えている課題の根幹に関わる部分を解決できることから世界的なトレンドとなりつつあり、米国のベンチャーにおける領域(コンテンツの作成・保存・共有領域を加算したもので教育領域は含んでいない)の調達額は46億ドルもの規模に達しているという調査結果もあり、SalesTechの他の領域に比較しても大きいことがわかる。

  • 改善が必要な営業領域と資金調達額トップ3のSalesTechツール領域

このように、営業分野におけるIT化推進の鍵となるSalesTechと、その中に含まれる、継続的に営業成果を出すための取り組みであるセールス・イネーブルメントは、これからの時代のビジネスを勝ち抜くためには見逃せない存在といえる。とはいえ前述したITRの調査では、SalesTechの認知度はそれほど高いとはいえず、セールス・イネーブルメントに関しては回答者の8割がどういうものか知らないと答えるなど、本格的な普及はこれからとなる。

本稿で「セールス・イネーブルメントの効果はわかったが、自分の営業現場がどのように改善されるのか見えてこない」「セールス・イネーブルメントを導入・推進するとしたら、どの部署が行うのか」というような疑問を持った方も少なくないだろう。そこで第2回目では、"営業の現場"における課題に対するセールス・イネーブルメントの価値と、成功するためのポイントについて確認していきたい。

第2回
営業現場でセールス・イネーブルメントが求められる理由

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