愛媛銀行が Microsoft 365 を基盤とした次期コラボレーション基盤を構築し、新しい働き方や生産性の向上で成果を上げています。システムの自社運営を基本としてきた同行にとって、クラウドサービスの利用は不安や懸念がつきまとうものでした。特に、金融庁のガイドラインや金融情報システムセンター(FISC)の安全対策基準へどう準拠するかは大きな課題だったといいます。そんななか大きな力となったのが「西瀬戸パートナーシップ」で業務提携する山口フィナンシャルグループの経験とノウハウでした。地方金融機関にとって、Microsoft 365 の採用がどのような価値をもたらすのか、取り組みのポイントを聞きました。

【導入パートナ―】
株式会社データ・キュービック株式会社山口フィナンシャルグループ

瀬戸内の発展や地域 DX の推進に向けて「西瀬戸パートナーシップ協定」をスタート

愛媛県松山市に本店を置き、四国四県を中心に岡山県、広島県、大分県、大阪府、東京都の各拠点で金融サービスを展開する愛媛銀行(愛称:ひめぎん)。1915 年の創業時から地域の人々と地域経済を支え、1989 年に普通銀行に転換後も「ふるさとの発展に役立つ銀行」「たくましく発展する銀行」「働きがいのある銀行」を経営理念に掲げ、地域の人々の生活と経済を支えています。

IT やデジタル技術の活用にも積極的で、個人向けインターネットバンキング「With You Net」や法人インターネットバンキングの提供、社内のさまざまな事務システムの活用において、システムの自社運営を基本とし、地域ならではの課題や社内外のニーズに応えてきました。

地域の社会や経済は、人口減少や高齢化、中小企業の後継者不足、マイナス金利の長期化、デジタル技術の発展にともなう新しい金融サービスの増加など、大きく環境が変わってきています。地域金融機関に対してもこれまでと異なる新たな価値の提供や持続的な成長戦略が求められるようになっています。

そんななか、愛媛銀行では 2020 年 1 月、山口県、広島県、北九州市を地盤とする山口フィナンシャルグループと「西瀬戸パートナーシップ協定」を結び、瀬戸内の主要産業である海事産業・製造業、近年発展著しい観光産業を中心に、お互いの強みやノウハウを有効活用する取り組みをスタートさせます。

西瀬戸パートナーシップ協定では、西瀬戸地域の振興や取引先の相互紹介・交流促進支援、付加価値の高い金融サービスの提供、お客さまサービスの質の向上、人材交流などを図っていますが、そこで重要な役割を果たしているのがコミュニケーションやコラボレーションのためのツールです。愛媛銀行 事務システム部 真鍋 宏樹 氏はこう話します。

  • 株式会社愛媛銀行 事務システム部 真鍋 宏樹 氏

    株式会社愛媛銀行 事務システム部 真鍋 宏樹 氏

「異なるシステムやツールを使っていると、コミュニケーションに遅れやズレが発生することが増えてきます。当行では 20 数年にわたってグループウェアを自社運営してきましたが、老朽化の観点から 2022 年 3 月までに基盤を刷新する必要がありました。次期コラボレーション基盤をどうするか悩んでいたとき、山口フィナンシャルグループさんも当行と同じ悩みを抱え乗り越えた経験があることを知ります。導入のノウハウを共有できる強みを活かせることから、Microsoft 365 の全社導入に踏み切ったのです」(真鍋 氏)。

現在では、山口フィナンシャルグループが取り組んできた Microsoft 365 や Microsoft Azure の活用ノウハウを共有しつつ、愛媛銀行における新しいコラボレーション基盤として、Microsoft 365 をフル活用しています。

「セキュリティと信頼性」「カスタマイズした機能」「DX 推進」が移行の課題に

愛媛銀行が旧グループウェアから新しい基盤に移行する際に抱えた課題は大きく 3 つあります。

1 つめは、セキュリティや信頼性です。金融機関としてシステムを構築・運用する際には、金融庁のガイドラインや金融情報システムセンター(以下、FISC)の安全対策基準に準拠することが不可欠です。そのため、旧グループウェアは社外インターネットに接続できないオンプレミス環境で運用することでセキュリティと信頼性を担保してきました。

「旧グループウェアは愛媛銀行の行員やひめぎんグループ社員など約 1800 名が日常的に利用していた基盤です。システム障害で業務が止まることは許されず、金融業界の基準を満たす必要がありました。移行先としてはクラウドサービスの利用も視野に入っていたのですが、クラウドを利用するグループウェアの多くは、インターネットに直接接続する必要があり、基準を満たさない懸念がありました。また、専用線で閉域網接続することも検討したものの、運用コストや実装の手間が課題になっていました」(真鍋 氏)。

2 つめは、カスタマイズした機能の移行です。お客様サービス部 デジタル戦略室 西村 拓朗 氏はこう話します。

  • 株式会社愛媛銀行 お客様サービス部 デジタル戦略室 西村 拓朗 氏

    株式会社愛媛銀行 お客様サービス部 デジタル戦略室 西村 拓朗 氏

「旧グループウェアはパッケージ製品でしたが、20 年にわたって運用するなかでさまざまな機能を独自に作り込み、業務にあわせて使いやすく拡張してきた経緯があります。それらをどう新しい基盤に移行していくかは大きな課題でした。1 つ 1 つの機能は当行にとって必要なもので、日々使っているものでもあり、使い勝手や品質が大きく変わることは避けたいという事情がありました。一方で、使われない機能や属人化しやすい機能などを減らしていく必要もありました」(西村 氏)。

3 つめは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを推進することです。愛媛銀行では、西瀬戸パートナーシップ協定のもとで、山口フィナンシャルグループとデジタル分野に関する経験とノウハウを共有し、お互いが活かすことで DX に関する取り組みを推進しています。

「DX ではデジタル技術の活用が重要です。旧グループウェアでは、ユーザーやお客様のニーズを受けて、新しい機能や仕組みを取り入れようとしても、すばやく対応することが難しい面がありました。新しい基盤では、クラウドサービスの特徴を生かして、われわれが追加開発しなくても、先進的な機能が素早く提供されることを期待しました」(真鍋 氏)。

こうした課題を解消できるソリューションが Microsoft 365 でした。

過去のノウハウを活用し、導入検討から環境構築までを 6 カ月という短期で実現

Microsoft 365 を採用するにあたり、大きな力となったのが、山口フィナンシャルグループの経験とノウハウです。同グループの取り組みについて、山口フィナンシャルグループ DX戦略部 栗原 智史 氏はこう説明します。

  • 株式会社山口フィナンシャルグループ DX戦略部 栗原 智史 氏

    株式会社山口フィナンシャルグループ DX戦略部 栗原 智史 氏

「2019 年 1 月に Microsoft 365 を導入し、その後、Microsoft Azure を活用したデータ分析基盤を構築するなど、クラウドサービスを積極的に活用してきました。今は、システムアーキテクチャを組み換え、社内変革と DX を加速させようとしているところです。Microsoft 365 の導入では、われわれも愛媛銀行さんと同じような課題に直面しました。その後、課題を乗り越えた経験とノウハウを外部に提供できるよう整備を進めてきました。西瀬戸パートナーシップのなかで、そうした経験とノウハウを提供することで、スムーズに課題が解決することを目指しました」(栗原 氏)。

山口フィナンシャルグループは、社内 DX を推進するとともに、自らの経験を地域企業の DX 推進に役立ててもらうべく、システム構築や DX 支援の専門企業としてデータ・キュービックを設立しています。データ・キュービック 代表取締役社長(当時) 原田 紘幸 氏(現在は親会社の山口フィナンシャルグループ IT統括部長)はこう話します。

  • 株式会社データ・キュービック 代表取締役社長 原田 紘幸 氏

    株式会社データ・キュービック 代表取締役社長(当時) 原田 紘幸 氏

「愛媛銀行さんと同様に、山口フィナンシャルグループでも、オンプレミス環境で運営してきたグループウェアを Microsoft 365 に移行しています。当時から、多くのアドオン開発により属人化が進み、日常的なシステム運用や定期的なリプレース作業も負担になっていました。また、必要なときに必要な分だけリソースを調達したり、新しい機能をすぐに利用したりといったクラウドのメリットも享受できていませんでした。Microsoft 365 移行から 3 年を経るなかで、課題解決の方法論を各種テンプレートやリファレンスモデルのようなかたちでまとめています。移行作業では、それらを活用しました」(原田 氏)。

実際に、Microsoft 365 の導入検討から本番移行までにかかった期間は 9 カ月でした。高い安定性やセキュリティ環境が求められ、数年単位で移行することが一般的な金融機関のシステム移行としては特筆すべきスピードです。

「環境構築までに 6 カ月、営業店や各部への展開、研修などに 3 カ月というスケジュールです。2022 年 3 月末までという期限が決められたなかでの作業にかなりのプレッシャーを感じていたのですが、山口フィナンシャルグループさんとデータ・キュービックさんにもサポートいただきながら、プロジェクトチーム一丸となって、トラブルや遅れなく進めることができました」(真鍋 氏)。

メールや社内ポータル構築で銀行業向けテンプレートやリファレンスモデルを活用

山口フィナンシャルグループとデータ・キュービックが提供したノウハウは、既存環境のアセスメントから、資産の仕分け・棚卸し、移行計画の策定、移行の実作業、各種画面の開発まで多岐にわたります。

「まず、Microsoft Teams(以下、Teams)を試行するためのライセンスを導入し、週一回の定例ミーティングを行い、そこで出た課題を整理しながら、スケジュールを策定していきました。Teams を使うことで、距離が離れていても密接なコミュニケーションができました。移行計画で 1 つポイントになったのは、旧グループウェアが提供していた機能の仕分けです。山口フィナンシャルグループの経験を参考にすべてのシステムを移行するのではなく、必要なものだけを移行し、移行が難しいものは、クラウド上で新規に作り直すようにしました」(原田 氏)。

旧グループウェアの機能のうち、旧環境からの移行を行わず新規に構築したシステムの 1 つがメールです。メールは Microsoft 365 の Outlook に移行し、グループウェアのメールで利用していたもののうち、必要なメッセージについては、行員が個別に移行するための手順を配布して対応しました。また、メールの部署ごとの振り分け機能など個別に作り込んだ部分についても、Microsoft 365 の機能で対応できないものは移行しないことを決めました。これにより、移行の手間を削減するとともに、属人化しがちな手順や仕組みを取り除き、標準的な業務プロセスの構築につながったといいます。

「必要に思われるものでも、実際に移行してみると使わないというケースはよくあります。われわれの経験とノウハウを踏まえて、移行する機能を絞り込んでいくことを提案しました。また、できるだけ、クラウドサービス側で提供する標準機能を利用することで、アップデートがしやすくなり、最新機能の利用がしやすくなることもお伝えしました」(栗原 氏)。

このほか、掲示板機能と一部ファイルサーバ機能については SharePoint と OneDrive に移行し、Web 会議やコラボレーション機能については Teams に移行しました。

「銀行の業務は、Teams のような双方向のやりとりより、メールを使って指示を一方向に通達するコミュニケーションのほうがスムーズな場合が多くあります。そのため、Teams と Outlook をうまく使い分けることを意識して研修を行いました。また、行員が業務を行う際に最初に見る画面として、SharePoint で社内ポータルを開発しました。画面設計は、山口フィナンシャルグループさんで使われているものを参考にして、愛媛銀行に馴染むかたちにアレンジし銀行の業務を遂行しやすいように、見やすく使いやすい構成になっていることがポイントです」(真鍋 氏)。

Microsoft 365 導入が起爆剤となって、ペーパーレス化や情報共有、生産性向上が加速

セキュリティについては、金融庁のガイドラインや FISC の安全対策基準に対応するうえで、特に、情報漏えいリスクとインターネットの接続リスクの 2 点を考慮したといいます。

「情報漏えいリスクについては、デバイス管理の Microsoft Intune と、アカウント管理の Azure Active Directory(AD)の条件付きアクセス機能を用いて、限られた端末やユーザーだけが Microsoft 365 に接続できるようにすることで解消しました。また、インターネット接続リスクについては、閉域網接続の Azure ExpressRoute と、フィルタリングサービスを利用してインターネット分離環境を実現することで対応しました。加えてマイクロソフトのデータセンターが外部監査に対応しているなど、強固な物理セキュリティを備えていることもポイントでした。また、こうした対応策を講じるうえでも山口フィナンシャルグループさんのノウハウを活用させていただきました」(真鍋 氏)。

  • Microsoft 365 接続概要図

    Microsoft 365 接続概要図

愛媛銀行では、Microsoft 365 移行によってさまざまな効果を確認しています。まず、いつでもどこでもさまざまなデバイスから業務システムに安全にアクセスできるようになりました。コロナ禍で出社や外出が制限されるなかでも、これまでと同様に仕事ができているといいます。

「特に、個人が利用できるストレージ容量が増え、Teams を使ったリモート研修や会議資料のペーパーレスでの共有などがスムーズにできるようになりました。働き方が変わるなかで、Microsoft 365 が提供する新しい機能を活用する動きも加速しています。具体的には、従来は Microsoft Excel を使って行っていた集計作業などを自動化ツールの Microsoft Power Automate で自動化したり、Microsoft Excel の共同編集機能を使って、複数人が作業を同時並行で行うなどです。アンケート機能などを提供する Microsoft Forms と Microsoft Power Automate を使って、各種報告と集計を自動化して作業を効率化し、さらに SharePoint 上でグラフとしてビジュアライズして見せるといった取り組みを行う事例も出てきました。1 つのサービスで集計から自動化、見える化までできることに大きなメリットを感じています。実際、この Microsoft 365 導入プロジェクトが起爆剤となって、ペーパーレス化や情報共有、生産性向上が加速していることを実感しています」(西村 氏)。

また、Microsoft Azureの環境にAzure AD Connectサーバーを構築し、オンプレミス環境のアカウント情報をAzure Active Directoryに同期することで、効率的なアカウント管理を実現しました。Microsoft Azureの環境に各種システムの運用基盤を構築していく取り組みは今後も進んでいくようです。

それぞれの行員の気づきや行動が、部署内にひろがり他の部署へ横展開していく事例も増えているといいます。特に、Teams を通じてこれまで多く交流できなかった各部署の担当者がリモート研修の機会を通じて一堂に会し、さまざまなコラボレーションを行うようになっています。「新しい技術を活用して、社内 DX を推進する文化も形成されつつあります」と西村 氏は話します。また、真鍋 氏も「山口フィナンシャルグループさんとデータ・キュービックさんの経験とノウハウを参考にしなければ、これだけの短期間での導入や新しいコラボレーション基盤の構築はできませんでした。今後も、パートナーシップを強化するとともに、われわれのノウハウを地域のお客様や地域 DX の推進に役立てていけたらと思っています」と今後を展望します。

金融機関にとって、セキュリティ、カスタマイズされた既存業務の移行、DX 推進は大きな課題です。愛媛銀行と山口フィナンシャルグループの経験とノウハウがこれからどう広がっていくのか期待が高まります。

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