第4回では、サーバーとストレージの接続種類やファイルシステムの有無などについて解説しました。今回はストレージシステムを革新した技術を紹介しながら、ストレージの進化とそれを実現したベンダーについて解説を行います。
ソフトウェアの進化によるストレージ革新
ストレージは、専用ハードウェアを使用したストレージアレイから、汎用のx86サーバーで稼働するソフトウェアを使用したものへコモディティ化したといっていいでしょう。もちろん一夜のうちに進化を遂げたわけではありません。
メインフレーム用のストレージアレイを最初に出荷した「EMC」、画期的なファイルシステムを実現した「NetApp」、バックアップをテープから解放した「Data Domain」、仮想マシンから発想してストレージを仮想化した「VMware」など、多くのベンダーが競い合い切磋琢磨した結果でもあります。またCPUやメモリの高速化と低価格化が進んだことで、専用のハードウェアではなくとも十分に処理速度を上げることができるようになりました。これにより、圧縮や暗号化などの大きな処理能力を要求するアルゴリズムに対しても専用の回路を使う必要がなくなりました。つまり、専用のハードウェアの代わりに、メモリやRAID(Redundant Array of Inexpensive Disk)などを活用した汎用のハードウェアで、エンタープライズレベルのストレージを実現したのです。
それでは、このストレージの進化を促進させた先進的なベンダーを何社か紹介しましょう。
エンタープライズストレージの先駆者 - EMC
最初に登場するのが、エンタープライズストレージ界のパイオニアEMCです。同社は1979年にマサチューセッツで創業し、当初はメモリチップを搭載した拡張メモリボードを開発していましたが、1990年に「Symmetrix」というメインフレーム用のキャッシュディスクアレイを発表。SymmetrixはEnginuityというOSで稼働し、筐体内および遠隔地にデータを複製するリモートレプリケーションなどを実装しました。その後EMCは研究開発や企業買収を積極的に進めた結果、ローエンドからハイエンドまでのプライマリーストレージ、データバックアップやレプリケーションのソリューション、ブロックからファイルなどのさまざまな用途に見合ったハードウェアやソフトウェアを数多く揃えた巨大ストレージ企業となりました。そして2016年にはDellに買収され、Dell Technologyとして更に拡大したラインアップの製品群を提供することになりました。
その製品群の一つとしてあるのが、スケールアウト型のストレージである「Isilon」です。Isilonは、もともと2010年にEMCが買収したベンチャー企業です。コントローラーとアレイを別々に組み合わせストレージとして性能や容量を増加させる際、どうしても管理や設計が複雑化し、日々の運用も面倒になります。こうした不満を打ち消すことができたのは、当時のベンチャー企業の中でIsilonだけでした。今やEMCの一員となったIsilonの製品は、おもに動画配信や大容量ファイルサーバーなどの大量データを読み出すという使用目的で、容易な運用管理と単純にユニットを加えるだけで性能と容量を追加できる点が評価されています。
WAFLでアクセスを高速化 - NetApp
NetAppは1992年にシリコンバレーで創業されたデータストレージのベンチャー企業です。EMCが製品ラインごとにOSやハードウェアを差別化しているのに比べ、NetAppの主力ストレージFASおよびAFFシリーズはすべて「Data ONTAP」というOSで稼働しています。
NetAppが開発したファイルシステム「WAFL(Write Anywhere File Layout)」はハードディスクへ直接アクセスするのではなく、NVRAM(不揮発性メモリ)をキャッシュとして活用し、ランダムアクセスを高速化する仕組みでした。また、実際のデータだけでなくメタデータもストレージ同じ領域に書き込むことで、高速なスナップショットなど様々な利点が生まれました。NASはSANに比べ、安価で容易に管理できることが利点でしたが、様々なプロトコルをサポートすることと同時にOracleなどのデータベースをNAS上に実装できるほどに高速化が進んでいます。これにより、NetAppは「DB on NAS」のパイオニアともいえるでしょう。
また同社は、ストレージを単なるハードディスクのかたまりとして捉えるのではなく、汎用OSやファイルシステムをストレージアレイに搭載することで、ソフトウェアによるストレージの進化を促しました。最近では、フラッシュストレージのSolidFireを買収し、スケールアウト型のオールフラッシュアレイを製品ラインに追加しています。
重複排除のパイオニア ? Data Domain
Data Domainは、2009年にEMCが買収したベンチャー企業です。バックアップに特化したソリューションを開発し、それまではテープ装置によって実現されていたバックアップを革新するために創業されました。
現在のストレージの多くは容量の効率化のため、同じデータブロックをそのまま保存せず、重複したものは排除しディスク容量を減らす重複排除機能が含まれていますが、これを製品化したのはData Domainのバックアップアプライアンスでした。年々増加するデータをいかに保存するかという命題に、当初は媒体が安価であることからテープ装置が利用されていましたが、それを高価なハードディスクであってもデータを圧縮と重複排除によってコスト効率よくバックアップ可能にしたのがData Domainです。これより、増え続けるデータに対して、ハードディスクを大量に用意することなく、ソフトウェアでデータを小さくするソリューションが主流になったといっても過言ではないでしょう。また、データを1箇所にまとめて保管するだけでは、災害時のリカバリー対策として不十分です。この解決策である、バックアップデータを遠隔地にコピーするリモートレプリケーションもData Domainが得意なソリューションです。
EMCとNetAppがData Domainの買収合戦を繰り広げたことから、同社がエンタープライズストレージとして重要なポジションを占めていたことがわかります。
仮想マシンから仮想ストレージへ VMware
最後に紹介するのは、VMwareです。VMwareといえば仮想マシンをプラットフォームとしてつくり上げた仮想化技術の先駆者といわれていますが、ストレージにおいても大きく貢献しました。仮想マシンのOSイメージだけではなく、BIOSの設定やディスクやメモリの設定などを抽象化することで、どこのメーカーのハードウェアでも同じ環境を実行できるようにしたのです。
仮想マシン上で動くアプリケーションも最終的にはストレージを必要としますが、ベアメタルのサーバーとは異なり、開発環境などに利用されるLinuxやWindowsなどの仮想マシンは頻繁に始動と停止を繰り返します。そのため、仮想マシンが要求するストレージに対しても素早くストレージボリュームの割り当てや変更を行う機能が必要となります。VMwareは、SDS (Software Defined Storage)として「VSAN(Virtual SAN)」を提供しています。VSANはx86サーバーとソフトウェアだけで実現されるソフトウェアベースの共有ストレージで、VMwareの仮想化基盤であるVMware vSphereに統合された機能です。VMware vSphere 6.0の基本機能に含まれており、管理やボリュームの割り当てなどが管理ツールと完全に統合されています。このように、VMwareは仮想サーバーの稼働に必要とする物理サーバーの内蔵ディスクを使用して、複数のノード間にまたがる記憶空間を仮想的にひとつのストレージに見せかけることで、お客様へのハードウェア投資負担をできるだけ軽減させることを考えています。仮想マシンとしての使い勝手を追求し、ストレージ界でも同様に実現したVMwareは今後も仮想化の世界をリードしていくでしょう。また、VSANをストレージとして、フラッシュメモリをキャッシュまたは永続的なストレージデバイスとして利用することが前提となっており、ここでもフラッシュメモリが選択肢のひとつとして生かされていることを実感できます。
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ソフトウェアの進化は、メーカー独自のプロプライエタリ・ソフトウェアだけでは終わりません。VMwareなどの商用ソフトウェアに追いつき、追い越そうとするオープンソースソフトウェアが必ず出てきます。シンプロビジョニング、イレイジャーコーディング、マスターを持たない分散ファイルシステムなど多くの新しい機能が商用・オープンソースの両方でしのぎを削っているといえるでしょう。
次回は、仮想化とフラッシュ、それらを上手く扱うためのストレージ技術についてより詳しく解説していきます。
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