日本最大手の鉄鋼メーカーである新日鐵住金グループで産業プラントや社会インフラ建設を担う、新日鉄住金エンジニアリング株式会社。同社が現在推し進めるのは、オペレーションも含めた、お客様に最適な設備ソリューションを提供する「エンジニアリング ソリューションの深化」です。
市場からの要求水準が高まる中、ソリューション範囲を拡大して事業価値を高めることは、全世界から高い評価を得ることにつながります。しかし、そのためには、海外成長地域との円滑なコミュニケーションや業務連携をいっそう強化することが求められます。この実現に向けて、同社では、クラウドコンピューティングを活用した情報プラットフォームの標準化に着手。Microsoft AzureとOffice 365を採用した「海外支援用クラウド」を構築しました。
新日鉄住金エンジニアリング株式会社 北九州技術センター |
プロファイル
2006年7月に新日本製鐵株式会社(現:新日鐵住金株式会社)のエンジニアリング部門が分社独立して誕生した、新日鉄住金エンジニアリング株式会社。東南アジアを中心に21の海外拠点を有する同社は、「製鉄プラント/環境ソリューション/エネルギーソリューション/海洋鋼構造/建築・鋼構造/パイプライン」という6つの事業領域で、ワールドワイドなビジネスを展開しています。
導入の背景とねらい
各国の拠点間で差異がある通信インフラ。それを踏まえた情報プラットフォームの標準化には、クラウドが最適だった
国や地域の経済発展やエネルギー問題、環境負荷の低減、暮らしの安心安全など国際的な課題に対して、プラント・インフラづくりで解決を図る、エンジニアリング業。海外の企業とのプロジェクト獲得競争が年々厳しさを増す中、エンジニアリング業界はいま、ビジネスモデルの変革を迫られています。これまで主としてきた「プラントやインフラの建設」だけでなく、完成後の保守管理、操業にいたる領域までソリューションビジネスの範囲を広げなければ、競争の激しい市場では生き残れなくなってきているのです。
日本最大手の鉄鋼メーカーである新日鐵住金グループにおいて社会インフラ、産業プラントの建設を担う、新日鉄住金エンジニアリング株式会社(以下、新日鉄住金エンジニアリング)では、国際的な環境の変化を見定めて『2020戦略目標』を策定。旧来の「EPC(Engineering:設計、Procurement:調達、Construction:建設)」で培った技術や知見に加え、操業や保守で蓄積した経験とノウハウをソリューションとして提供。長期間にわたり顧客の事業を支える高付加価値なビジネスの提供を目指しています。同社は「EPC×Solution」「Global×Local」「External×Internal Networking」の3つのビジョンを掲げ、『2020戦略目標』の実現に取り組んでいます。
エンジニアリング ソリューションの深化には、IoTによるデータ収集と、膨大なデータを処理する環境の整備が不可欠です。また、そこでは顧客環境とのネットワーク接続も求められ、海外拠点とより密に連携して総合的にソリューション展開するための体制整備も必要となるでしょう。同社のICTを担う ICT 企画推進部は 3 つのビジョンに関連したこれらのICT課題を解消することが求められています。
新日鉄住金エンジニアリング株式会社 ICT 企画推進部 ICT ソリューション室長 林 幹洋 氏 |
新日鉄住金エンジニアリング株式会社 ICT 企画推進部 ICT ソリューション室長 林 幹洋氏は、ICT課題の解消に向けてはまず、各国にある拠点の情報プラットフォームを標準化する必要があったと語ります。
「当社では東アジア圏を中心に21の海外拠点を構えていますが、拠点ごとで通信インフラに差異があります。これまでは各拠点の通信事情を鑑みて、地域最適化のもとICT環境を整備してきました。こうしたアプローチを取ってきた背景から、全社共通の情報プラットフォームに拠点のICTを載せることができない状況でした。しかし近年、海外拠点間の情報連携が喫緊の課題となり、基幹システムを含む、業務基盤とコミュニケーション基盤の標準化が必要となったのです」(林氏)。
業務基盤が個別に存在することのリスクを考えた場合、まずセキュリティが挙げられます。全社共通の情報プラットフォームに載せられない以上、セキュリティ対策や運用については各拠点の担当者へ依存することになります。しかし、地域によりICTを管理する人員スキルや業務リテラシーは異なります。セキュリティに対する責任が高まる中、グループ企業としての対応と海外事業の強化とを両立するには、業務に関する情報基盤の標準化によってセキュリティ水準を高いレベルで均等化することが求められたのです。
新日鉄住金エンジニアリング株式会社 シニアマネジャー ICT 企画推進部 ICT 統括室 野田 義隆氏 |
また、拠点間のコミュニケーションロスも課題となっていました。新日鉄住金エンジニアリングでは、海外売上比率が高まる中、日常業務において多くの情報、大量のデータのやり取りが拠点間で発生します。同社ではICT基盤の差異を原因に発生するコミュニケーションのロスが無視できないレベルと認識して、拠点間の密な情報連携を「早急に実現しなければならない課題」と判断しました。
これら情報プラットフォームの標準化に向けて同社が注目したのが、クラウドの活用です。新日鉄住金エンジニアリング シニアマネジャー ICT 企画推進部 ICT 統括室 野田 義隆氏は、クラウドに注目した理由について、各拠点のIT管理要員へ実施したアンケートを交えて説明します。
「2013年に、各拠点のIT管理要員を対象にセキュリティを主題としたアンケートを実施しました。そこではほとんどの管理要員が『セキュリティの強化が必要』と回答したものの、その多くが『専任のICT人員の確保が困難で、技術的な対応が難しい』という意見を持っていました。ITは最適に運用されてこそ効果を生みます。現地で難しいのであれば、本社側で各拠点のIT環境を統合管理せねばなりません。しかし、当社独自で海外全拠点のICT基盤を開発、運用、保守管理するのは、コストや人員の観点から非現実的と考えました。そこで着目したのが、グローバルでサービス展開するクラウドを活用することでした。自社リソースを最小限にしつつ、実現できると考えました」(野田氏)。
各国のデータセンターからサービスを提供することができれば、物理的な距離を背景とするネットワークのボトルネックは解消できます。また、ハードウェアの管理を不要とするクラウドならば、定常運用の工数負荷も最小化して管理することが可能です。
さらに林氏は、グローバルビジネスに求められるスピード感にITが追従していく意味でも、「容易にスクラップアンドビルドできる」というクラウドの利点は有効だったと語ります。
「海外拠点は市況に応じて随時、開設と改廃が行われます。これまでは、都度拠点ごとにICT基盤を構築していた背景から、どうしても拠点開設までに一定の期間が必要でした。また、改廃の判断の場合でも、ITへの初期投資が発生していることでその判断が遅れることがあり、地域最適化によって整備してきたICT環境は会社にとって負の影響が大きかったのです。即座に環境を構築し利用開始できるクラウドは、海外で事業展開をするためには大きなメリットがありました」(林氏)。
システム概要と導入の経緯、構築
高いセキュリティ水準とPaaSによる拡張性を期待し、Azureを採用
海外拠点の情報プラットフォームを標準化すべく、クラウドの活用を検討した新日鉄住金エンジニアリング。同社はまずコミュニケーション基盤について、Office 365の採用を早期に決定します。「グローバルビジネスを展開する多くの企業実績を持ち、信頼性には疑問を持ちませんでした。また、本社でExchange Serverを利用しているため、本部との統合を見据えて標準化していくうえで、Office 365の採用は最良の判断でした」と野田氏が語るとおり、すでにExchange Serverを利用する同社がOffice 365を導入したのは、必然ともいえる選択でしょう。
一方で業務基盤に関しては、ゼロベースでの構築ということもあり、ニュートラルな視点で検討が進められました。そこで重視されたのは、機密性の高い情報を取り扱うための「セキュリティ」、そして「EPC×Solution」の実現に貢献していくための「拡張性」です。
グローバルでサービス提供するクラウド事業者は限られています。また、そのほとんどは世界的にも評価の高い事業者です。慎重に検討を重ねた結果、新日鉄住金エンジニアリングでは、マイクロソフトの提供するAzureの採用を決定。この理由について、林氏と野田氏は、次のように説明します。
「セキュリティの観点でいえば、Azureは国内では初めて『クラウドセキュリティ(CS)ゴールドマーク』を取得したサービスであり、安心感がありました。また、当社ではオンプレミスにある既存システムの多くでWindows Serverをはじめとするマイクロソフト製品を利用しています。これらのシステムとの連携を見据えた場合、マイクロソフトのプラットフォームであることは、親和性、信頼性の面で期待がありました。アプリケーションとインフラの両側面で優れた総合力を持つことは、マイクロソフトの大きな強みといえるでしょう」(林氏)。
「将来的に『EPC×Solution』を推進するうえでは、IoTやAIといった先進ITの活用が必要になります。AzureはAzure IoT HubやAzure Machine Learningなどに有効なPaaSも豊富に備えており、標準化の先にある『ソリューションビジネスの深化』においても有益になるだろうと考えました」(野田氏)。
写真:株式会社ワイズ・コンピュータ・クリエイツ 事業推進部 部長 山下 泰英氏 |
Azureの採用を決定後、新日鉄住金エンジニアリングでは、同社のIT構築を支援する株式会社ワイズ・コンピュータ・クリエイツ(以下、ワイズ・コンピュータ・クリエイツ)と協働して環境構築を開始。「海外支援用クラウド」と称した同プロジェクトは、Azureが有する拡張性を最大限に活かすことで、短期間でのサービスインを実現しています。
すでにあるオンプレミスのシステムを移行するのではなく、海外の拠点に合わせた新たなシステムを構築した同プロジェクト。それでも短期に作業を進めることができた理由として、株式会社ワイズ・コンピュータ・クリエイツ 事業推進部 部長 山下 泰英氏は、次のように説明します。
「即座にスモールスタートし、あとから接続数を柔軟に拡張できる点は、クラウドの大きな利点といえるでしょう。特にAzureの場合、Webアプリケーション機能を持つAzure Web Apps、DB機能を持つAzure SQL DatabaseといったPaaSを豊富に備えているため、これらを利用すれば、さらに構築期間を短期化することが可能です。とはいえ、細かい作り込みを行う場合にはどうしても不明点が出てしまい、それがプロジェクトの進行を遅らせる原因になることがあります。マイクロソフトのサポートは非常に明瞭かつ迅速であり、そのお陰で先の遅延を生じさせずにプロジェクトを進行することができます。クラウドの利点、そしてAzureとしての利点をお客様に安心して提供できるという意味で、充実したサポートを持つマイクロソフトのサービスは、我々パートナーにとって非常に心強い存在だと考えています」(山下氏)。
AzureとOffice 365を用いた「海外支援用クラウド」のシステム構成。Azure上ではクライアント環境をはじめとするセキュリティを提供する「管理系サーバー」と、業務アプリケーション群となる「機能系サーバー」を運用 |
導入の効果
各国の「ITを活用したい」という意識を醸成することで、本当に効果のある標準化を推し進める
2016年10月より海外支援用クラウドの提供を開始することで、情報プラットフォームの標準化に向けた大きな一歩を踏み出した新日鉄住金エンジニアリング。同社では海外支援用クラウドの利用を「各拠点の実情に応じて任意」としていますが、2017年6月の時点で、すでに全体のおよそ半数の拠点が同環境を利用しています。
これまで各拠点で管理されてきた情報プラットフォームを本社側で統合したことは、セキュリティ リスクの軽減という効果を生み出しています。野田氏はこの点について、次のように説明します。
「セキュリティの最新パッチが適用されているかを確認する場合、従来の環境ではそれを現地のIT担当者へ問い合わせるしかありませんでした。これは作業が煩雑になり、もし適用していない場合、対応までのリード タイムも長期化してしまいます。今回導入したシステムであれば、問い合わせる必要もなく直接状況が確認できます。なにかトラブルが発生した場合にも、本社側で状況を確認して具体的な指示を出すことが可能です。潜在的なセキュリティ リスクを発見し、その対応ができるようになったことは、当プロジェクトの大きな効果といえるでしょう」(野田氏)。
さらに林 氏は、AzureとOffice 365によって実施した情報プラットフォームの標準化が、当初予想していなかった「IT管理要員の意識醸成」という有効かつユニークな効果も生み出していると語ります。
「これまで各拠点でITが十分に活用されてこなかった理由は、『しなかった』からではなく『技術的、リソース的に対応できなかった』からだといえます。AzureとOffice 365を活用し、本社からの管理のもとでITが最大限活用できる環境を用意したことによって、拠点からITについてのリクエストを多く寄せられるようになりました。こうした要望は、IT を積極的に活用したいという意識の表れであり、今後『Internal×Internal Networking』の実現に向けて全世界が一丸となってICTを活用していくうえで非常によいムードを生み出します。従来1年に1度ほどだったITに関する報告会も、拠点からのリクエストを背景に2か月周期に変化しています。無理やり環境を利用させるのではなく、各拠点の前向きな意思によって環境が利用されることで、本当に機能する標準化を進めていきます」(林氏)。
今後の展望
海外支援用クラウドを活用して「ソリューションの深化」にもアプローチしていく
現在、AzureとOffice 365上で運用しているシステムは、各拠点が利用するITの中でも一部分となります。今後、同環境を活用してグローバルの情報プラットフォームを標準化していくには、Azure上でのシステムのさらなる構築、そして本部にあるオンプレミス環境との連携を進めていく必要があります。
標準化へ向けたロードマップについて、林氏は次のように説明します。
「まずは管理系サーバーを全拠点に利用してもらい、そこから機能系サーバーを拡充していく予定です。3~5年後には、経費処理や勤務処理といった基幹業務も含む全システムを機能系サーバーとして構築することで、『海外支援用クラウドを利用するだけで業務が遂行できる環境』を整備していきたいですね。これはビジネス スピードをグローバル水準にしていくうえでも有効に機能するでしょう。また、現在、Office 365と本部のExchange Serverを連携すべく、検証作業を進めています。こうしたハイブリッドクラウドについても、検討、検証の後に展開していく予定です」(林氏)。
新日鉄住金エンジニアリングが標準化の先に見据えるのは、ソリューションビジネスの深化に向けたIT活用です。山下氏はシステムの開発支援という立場から、そこに向けた構想について語ります。
「今後はPaaS環境の活用を積極的に提案していく予定です。その一環として、現在試験的に、PaaSでいくつかのWebシステムを開発、運用しています。たとえばインシデントを管理するシステムでは、AzureのApp ServiceとSQL Databaseを使用しています。PaaSは、今後需要が拡大するIoTおよび、そこで得られるデータの分析を早期に行ううえで有効です。いまのうちに知見を深めることで、実展開時にスピーディに対応するとともに、その先のお客様でのデジタル トランスフォーメーションを、エコシステムの観点から支援できるよう、努めてまいります」(山下氏)。
海外拠点のICT基盤標準化に向けた大きな一歩を踏み出した新日鉄住金エンジニアリング。新たに構築した海外支援用クラウドは、同社のグローバル ビジネスを加速する大きな原動力となるはずです。同環境場Azureが有する拡張性を活かすことで、さらなる発展を遂げていくことでしょう。
「これまで各拠点でITが十分に活用されてこなかった理由は、『しなかった』からではなく『技術的、リソース的に対応できなかった』からだといえます。AzureとOffice 365を活用し、本社からの管理のもとでITが最大限活用できる環境を用意したことによって、拠点からITについてのリクエストを多く寄せられるようになりました。こうした要望は、ITを積極的に活用したいという意識の表れであり、今後『Internal×External Networking』の実現に向けて全世界が一丸となってITを活用していくうえで非常によいムードを生み出します。従来1年に1度ほどだったITに関する報告会も、拠点からのリクエストを背景に2か月周期に変化しています。無理やり環境を利用させるのではなく、各拠点の前向きな意思によって環境が利用されることで、本当に機能する標準化を進めていきます」
新日鉄住金エンジニアリング株式会社
ICT 企画推進部
ICT ソリューション室長
林 幹洋氏
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