オートキャンプ製品を中心にハイエンドなアウトドア製品の開発・製造・販売を展開するスノーピークが、社会的使命として掲げている「自然と人、人と人をつなぎ、人間性を回復する」を実現するため、デジタルを活用した「ユーザーとのつながりの強化」に取り組んでいます。Microsoft Azure を活用してデジタルデータを収集・活用するためのデータプラットフォームを構築し、基幹システムやコミュニティアプリを連携させて、ユーザーの体験価値の向上を図っています。顧客ロイヤリティを高めることで、購買単価が 10 倍になったケースもあります。デジタル戦略の狙いと、Azure が果たした役割、将来の展望を聞きました。

創業 60 年、使いやすくクオリティの高いアウトドア用品で、キャンパーや山好きの心を掴む

「自然と人、人と人をつなぎ、人間性を回復する」を CSV ・社会価値創造に掲げ、オートキャンプ製品を中心にハイエンドなアウトドア製品の開発・製造・販売を展開するスノーピーク。1958 年に新潟県燕三条で創業し、使いやすくクオリティの高い登山用品でキャンパーや山好きの心を掴むと、1980 年代以降は、アウトドアをライフスタイルととらえ直し、家族の絆を深めるための豊かな時間としてのキャンプを提唱し、日本中に巻き起こったオートキャンプブームを牽引する存在となりました。

2018 年に創業 60 周年を迎えた同社は、企業理念 The Snow Peak Way のなかで「地球上の全てのものに良い影響を与えます。」を掲げ、「人生に、野遊びを。」をコーポレートメッセージに、社会の進化が加速化や複雑化するにともなって失われてゆく人々の人間性を回復することを目指して、事業に取り組んでいます。

スノーピークの専務取締役で、同社の IT システムの構築・運営を担うスノーピークビジネスソリューションズの代表取締役 村瀬 亮 氏は、同社のミッションについて、こう話します。

  • 株式会社スノーピーク 専務取締役・株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役 村瀬 亮 氏

    株式会社スノーピーク 専務取締役・株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役 村瀬 亮 氏

「つくっているのはキャンプ用品ですが、キャンプを通じて実現したい大きな目的は、自然と人をつなぐこと、そして、人と人とをつなぐことです。文明が発達すればするほど人間関係は希薄になっていきます。便利であればいい、効率的で楽であればいいとなりがちだからこそ、自然と調和した生き方を通じて人間関係を再構築し、人間性そのものを回復させていくことを目指しています」(村瀬 氏)。

自然や人をつなぐ、人と人をつなぐという流れは、キャンプ用品に加え、ファニチャー、アパレル、食、企業向け研修などの事業に派生します。現在は、衣・食・住・働・遊という「人が生きるすべての時間で自然を感じる幸せ」を提供するビジネスモデルを展開しています。

「製品としては、一見過剰とも思われがちな頑丈なペグ『ソリッドステーク』はそれが安心安全な最低限のスペックであるという信念のもとつくられています。それに代表されるように、燕三条の伝統的な金属加工技術の価値をブランドに変え、世界中に発信していることが特徴です。製品を使い続けるための永久保証サービスもサステナブルという言葉が広まる以前から提供してきました。また、ユーザーイベントなどのコミュニティ活動にも地道に取り組み、顧客との間に密接で良好な関係性を築いています」(村瀬 氏)。

こうした企業理念やミッション、コミュニティ活動は、IT システムの運営にも大きな影響を与えています。そんなスノーピークが「人間性の回復」や「ユーザーとのつながりの強化」を実現するために、全社的に活用しているのが Microsoft 365 や Microsoft Azure(以下、Azure)です。

システムを現場に定着させるためには、システムの質以上にコミュニケーションが大切

社長の山井 太 氏が IT 基盤を整えるためにスノーピークビジネスソリューションズをグループとして迎え入れたころから IT 活用は本格化しました。スノーピークビジネスソリューションズはもともと、製造現場や物流現場で用いる在庫管理システムやハンディターミナル向けの組み込みソフトを手がけていた独立系企業でした。スノーピークとの出会いについて、スノーピークビジネスソリューションズ 執行役員 社長室 室長 兼 DX戦略本部 本部長 坂田 真也 氏はこう振り返ります。

  • 株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 執行役員 社長室 室長 兼 DX戦略本部 本部長 坂田 真也 氏

    株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 執行役員 社長室 室長 兼 DX戦略本部 本部長 坂田 真也 氏

「システムを現場に定着させるためには、システムの質以上にチームメンバーやユーザーとのコミュニケーションが大切です。コミュニケーションの大切さを理解するためにも、まずは自分たちがチームメンバー同士のエンゲージメント強化に注力してきました。その取り組みの 1 つとしてキャンプという方法を思いつき、テントの設営や焚火を囲んで語り合うという実践を通じて、世の中で働く企業の方にこそキャンプの力が必要だと確信しました。そこでスノーピークと出会い、ビジネスに対する思いや顧客エンゲージメントのあり方に共感しました。その流れでアウトドアと企業向けの研修やオフィス空間設計を組み合わせた合弁会社をつくります。3 年ほどで事業が順調に成長し、スノーピークと法人も統合することになります。それから IT を活用しながら『人間性の回復』をテーマにしたさまざまなサービスを展開するようになったのです」(坂田 氏)。

現在、スノーピークビジネスソリューションズでは、スノーピークの社内 IT 部門としての機能を果たすほか、従来からの現場改善ソリューション、およびアウトドア研修やオフィス空間提案などのキャンピングオフィス事業を展開しています。さらに、テクノロジー事業として、アウトドアやオフィスとコミュニケーションを組み合わせたクラウドサービスやセキュリティサービスの提供を開始します。そこで採用されたのが Microsoft 365 や Azure でした。

興味深いことに、マイクロソフト製品を採用した背景にも「自然と人、人と人とのつながり」があります。スノーピークの IT 戦略や IT 活用をパートナーとして共同展開するネクストリード 代表取締役 小国 幸司 氏は、こう振り返ります。

  • ネクストリード株式会社 代表取締役 小国 幸司 氏

    ネクストリード株式会社 代表取締役 小国 幸司 氏

「個人的にキャンプが好きで、スノーピーク製品のヘビーユーザーでもありました。ご縁をいただいて、合弁会社立ち上げのときからデジタル戦略の策定と実行を支援するパートナーの 1 社として参画させていただきましたが、製品を通じてビジョンに共感していたのもあってすんなり受け入れていただけた気がします。その後、新しい事業をどのように展開していくか、スノーピークさんと一緒に悩みながら歩みを進めてきました」(小国 氏)。

クラウドネイティブ技術を活用し、企業のデジタル戦略を支援するネクストリード

ネクストリードの強みは、マイクロソフトのクラウドネイティブ技術をフル活用してトライ&エラーを繰り返し、戦略の策定と実行のサイクルを少ないリソースで高速に回すアプローチにあります。デジタル推進基盤の開発、クラウドセキュリティ実装など、最先端のクラウド基盤を活用するための戦略をきちんと組織に定着させ、顧客に伴走しながら成長を支えていきます。村瀬 氏は、ネクストリードとマイクロソフト製品を採用した理由をこう説明します。

「マイクロソフトの製品はさまざまな機能やサービスがシームレスにつながることが最大の魅力です。機能単体で見れば、ほかのクラウドサービスのほうが良い場合もあるでしょう。しかし、クラウドが今後大きく発展していくなかで、SaaS や PaaS を中心にしたプラットフォームとしての価値はますます高まっていきます。われわれにとって、デジタル戦略のあるべき姿は、あくまで人間が主体で、人間性を回復させることです。効率化を目指すだけのテクノロジーに振り回されず、全体を見ながら、IT が本来的に人間に提供することを見据えていく。マイクロソフトがそれに相応しい考え方や将来のビジョンを持っていることは、サティア・ナデラ 氏の講演を聞いていても分かりました。また、ネクストリードもそうしたマイクロソフトのクウラド技術をほかの IT ベンダーや IT コンサル会社とは異なるアプローチで提案してくれました。これは、われわれユーザーにとっても、われわれが提供するサービスを利用するお客様にとっても重要なことです。マイクロソフト製品とネクストリードを採用した理由を一言で言えば、デジタル戦略を推進するためのプラットフォームを提供する企業としての信頼感です」(村瀬 氏)。

実際、スノーピークの IT システム基盤は、Microsoft 365 と Azure といったクラウドサービスをフル活用したプラットフォームとして構成されています。小国 氏はプラットフォームの概要をこう説明します。

「中核にあるのは、スノーピーク全体のデータプラットフォームとなる『Datadam』というコンセプトです。このダムのなかにスノーピークが製品の販売やコミュニティ活動などから得られるさまざまなデータを蓄積しています。蓄積したデータは EC 基盤などのマーケティングエンジンとして活用したり、スノーピークの会員制度や顧客管理・施策に活用したりあらゆる活動の基盤となります。また、社員の働き方のモダン化を進めることや、高度なデータ分析や AI の活用を進めることにも活用します。既に活用が進んでいた Microsoft 365 で最大限の効果を得るために、最重要の取り組みとして Azure のストレージを使った Datadam の整備を進めました。直近の取り組みとしては、顧客への新しいサービスであるスノーピーク公式のコミュニティアプリにも活かされています」(小国 氏)。

  • 「Datadam」概念図

    「Datadam」概念図

新しくコミュニティアプリをリリース、ユーザーの体験価値の向上を図る

スノーピークのスマートフォン向け公式アプリでは、イベントや新商品の案内、店舗へのチェックイン、商品検索とオンラインストアでの購入、「スノーピークポイント」の蓄積などができます。これに対し、新たにリリースしたコミュニティアプリ「Snow Peak コミュニティ」は「キャンプの楽しさを知るユーザー同士が『野遊び』を共有し、つながることができるアプリです」と坂田 氏は説明します。

「スノーピークポイントの展開など、企業としての思いを実現するためにさまざまなデータ活用のチャレンジを行ってきました。ただ、それらデータは分散していて、素晴らしい会員制度がありながらも、そこから得られるデータは十分に活用できていませんでした。そこで、Datadam としてデータを一箇所に集約するとともに、会員制度を拡充して商品の購入だけでなく『ユーザーの体験価値』を加味した新しいポイント制度『ライフバリューポイント』をつくりました。コミュニティアプリでは、これら Datadam やライフバリューポイントを活用しています」(坂田 氏)。

  • 「Snow Peak コミュニティ」の画面

    「Snow Peak コミュニティ」の画面

ユーザーの体験価値とは、キャンプ場での宿泊や自然を感じながら食事を取るといった体験のことです。キャンプ用品の購入だけでなく、提携しているキャンプ場に宿泊したり、スノーピークのレストランやカフェで食事をしたりすることでポイントが貯まります。ポイントと連動してユーザーの体験価値が向上すれば、積極的にキャンプに行くことにもつながり、ユーザーの人生はさらに豊かになります。もちろん、キャンプ場で必要だと感じたキャンプ用品を購入したり、不満に感じたキャンプ用品の改善要望を出したりすることで、キャンプ用品の売上や品質改善というビジネス面での直接的なメリットも得られます。

Datadam の本格運用は、新しい会員制度が始まった 2022 年 1 月からスタートしました。Datadam は、販売情報や購買情報などを管理している SAP システムや 70 万人以上の会員データなどと連携するほか、さまざまなデータソースと連携するハブとして機能する仕組みです。また、コミュニティアプリなど新しい体験価値を提供するためのサービスや、AI や IoT などから得られるデータとも連携しながら、将来的にさまざまなデータ活用を行っていく基盤にもなります。現在は、「点」として分散しているデータを、Datadam を起点に線でつなぐようにプラットフォームを拡張しているところです。

Azure は将来を見据えたプラットフォームの拡張や機能の追加・改善が行いやすい

現在、Datadam の構築で利用しているサービスは、フロントサービスやデータの蓄積・連携、データベース、API 管理のための Azure App Service、Azure Storage、Azure SQL Database、Azure Cosmos DB、Azure Functions、Azure API Managementなどです。また、データ活用の際に求められるセキュリティ要件を満たすために、Azure Monitor や Azure Sentinel を活用した監視や分析、アラートの通知を行っています。また、Azure Active Directory(AD)による認証基盤で Microsoft 365 とも安全に連携できるようにしています。ネクストリードデジタルソリューション事業本部 執行役 湯浅 健司 氏は、技術面で見たときの Azure のメリットについて、こう説明します。

  • ネクストリード株式会社 デジタルソリューション事業本部 執行役 湯浅 健司 氏

    ネクストリード株式会社 デジタルソリューション事業本部 執行役 湯浅 健司 氏

「Azure には、将来を見据えたプラットフォームの拡張や機能の追加・改善が行いやすいという大きなメリットがあります。IaaS 上で動いている SAP などの既存システムと連携しやすく、AI や IoT などの PaaS サービスとの連携も基盤上で簡単に行うことができます。また、Azure DevOps を活用することで、小規模なチームがユーザーのニーズを捉えながら高速にアジャイル開発を実践することができます。PaaS を中心に利用することで、運用やメンテナンスの負担を最小限にして、サービス開発に集中できることもメリットです」(湯浅 氏)。

  • 「Datadam」では Azure PaaS 機能がフル活用されている

    「Datadam」では Azure PaaS 機能がフル活用されている

Azure を活用したプラットフォームの構築による効果は、すぐに現れたといいます。新しい会員制度やコミュニティアプリのリリース後、ユーザーイベントに参加する顧客ロイヤリティが大きく向上したのです。

「ユーザーの購買単価が 10 倍になったケースもあります。キャンプ用品をただ買ってもらうのではなく、ユーザーイベントに参加したり、コミュニティに触れ合ったりすることで、もっとキャンプをしてみたい、そのために良いキャンプ用品を購入したいと感じるようになったことがデータからも分かります。お客様の要望を反映してサービスをつくることで、お客様はメーカーと一緒にものをつくっているという気持ちを持つことができる。それがさらに体験価値を高めるのです」(坂田 氏)。

メーカーと一緒にものをつくるという視点は、スノーピーク、ネクストリード、マイクロソフトの関係においても当てはまります。小国 氏は「デジタルの活用は、技術論よりも技術を活用する戦略が重要です。これからも、3 社が密接に連携してプロジェクトを進めることで、デジタル戦略の実行を加速させていきます」と将来を展望します。

一方、村瀬 氏は、スノーピークの今後のデジタル戦略の 1 つにグローバル展開を挙げながら、こう訴えます。

「キャンプを通して、世界中の人をつなげていきたい。海外の方に日本に来てもらい、日本でキャンプをすることで、日本のマインドに触れてもらいたい。われわれのアウトドア研修に参加してもらっていい。地球上のすべての人をキャンプでつなぎ、人生を豊かにし、人間性を回復してもらいたい、そう思っています」(村瀬 氏)。

マイクロソフトは、スノーピークとネクストリードが描く未来の実現をクラウドサービスで支援していきます。

  • 集合写真

[PR]提供:日本マイクロソフト