日本の経済成長を支え続けてきた製造業ですが、労働人口減少・人手不足の波はこの業界にも例外なく押し寄せています。とりわけ設計領域においては、長年の経験に基づいた暗黙知に頼るところが大きく、次世代への継承が難しいことからもより深刻な課題となっているのです。そうしたなか、デジタルエンジニアリングのパイオニアである SOLIZE が提供するのが、引き合い・見積り段階における RFQ ・要求文書の読解業務を支援するクラウドサービス「SpectA RFQ Guide View」です。独自開発した自然言語処理 AI エンジンをコアとする同サービスのプラットフォームには Microsoft Azure が用いられており、製造業の数々のニーズを高いレベルで満たすことに成功しています。製造業の現場の課題に精通し、その課題を解決するための経験と技術を有する SOLIZE が提供する SpectA RFQ Guide View の特長や開発経緯、そして Azure 上でのシステム構成などについて、SOLIZE の技術面とマーケティング面それぞれのリーダーに話を聞きました。

熟練暗黙知の形式知化を起点とした DX で製造業の変革を支援

30 年以上にわたり製造業を対象にデジタルエンジニアリングサービスを提供してきた SOLIZE。同社では、製品開発支援、3D プリンティング、業務変革の 3 つの領域で、デジタルエンジニアリング技術を磨き、活用し続けています。こうして技術の進化と経験の蓄積で事業を展開する同社の強みは、創業以来培ってきた「ものづくり技術」「3D ・デジタル化技術」「熟練暗黙知を紐解く技術」を掛け合わせた業務変革力にあるのです。

そんな SOLIZE の豊富な経験を活かしたコンサルティングサービスを提供するのが SOLIZE Innovations事業部です。かつて同社では、独自の徹底的なプロセス分析により熟練技術者の暗黙知を形式知化し、3D と IT で自動化と情報伝達を行うことなどにより、アルバイトの非熟練技術者を中心としながらも、自社工場における金型設計製作リードタイムを 45 日から 45 時間へと劇的に短縮することに成功。こうした経験が同社の変革エンジニアリングサービスの強みの原点であり、この 20 年間において 200 社以上に及ぶ変革実績を有しているのです。

SOLIZE Innovations事業部においてマーケティング業務を統括するとともに、全社的なマーケティング部門のリーダーも務める、事業企画開発部 Senior Managerの清水 俊充 氏はこう語ります。「製造業の設計開発工程というのは、熟練技術者のノウハウや経験に支えられているといっても過言ではありません。つまりそういった熟練者の知見は、それぞれの企業の競争力の源泉であり資産でもあるのです。しかし一方でそれらは暗黙知として属人化しがちでもあることから、新たな世代への継承が困難であるという課題もあります」(清水 氏)。

  • SOLIZE株式会社 グループマーケティング部 グループマーケティング 部署長 兼 SOLIZE Innovations事業部 事業企画開発部 Senior Manager 清水 俊充 氏

    SOLIZE株式会社 グループマーケティング部 グループマーケティング 部署長 兼 SOLIZE Innovations事業部 事業企画開発部 Senior Manager 清水 俊充 氏

そこで SOLIZE では、人の判断に着目。徹底したヒアリングやデータ活用などをベースに業務の可視化・分析を行います。競争力の源泉たる熟練者の暗黙的でコアな判断・プロセスを解明し、加えて組織の歴史や価値観、想い、技術に基づいて最適な形式知へと変換し、デジタル技術を掛け合わせ組織で活用できる仕組みへと導いていくのです。

「最大のポイントは可視化にあります。1 つ 1 つの判断粒度まで詳細に切り分けて可視化することで、熟練者がなぜその判断に至ったのか、背景・意図・根拠などの要素まで含めて体系的に可視化するのです」と、清水 氏は強調します。

「暗黙知」の形式知化アプローチと「自然言語処理 AI 技術」を掛け合せた「SpectA」

暗黙知の形式知化とデータサイエンスを組み合わせ、現場の高度な熟練業務の変革実行を支援する SOLIZE の製品・サービスの総称が「SpectA(スぺクタ)」です。SpectA には、同社が独自開発した自然言語処理 AI エンジン(Aspect Engine)が搭載されており、ユーザーからの問いやインプットに対して適切な推論を行いながら、日々組織内に大量に作成される成果物・ドキュメント群から、業務目的に沿った情報のみを抽出。それとともに、最適なナレッジとして再構築して提供することで、組織横断的な情報活用や知識獲得を容易に可能とします。

この SpectA のサービスラインアップにあって、プラント EPC(Engineering・Procurement・Construction)事業者や大規模設備メーカーにおける受注力・利益率の向上に寄与するクラウドサービスが、「SpectA RFQ Guide View」です。

SOLIZE Innovations事業部において技術面でのリーダーを務める、事業企画開発部 Senior Managerの板野 智彦 氏は言います。

  • SOLIZE株式会社 SOLIZE Innovations事業部 事業企画開発部 Senior Manager 板野 智彦 氏

    SOLIZE株式会社 SOLIZE Innovations事業部 事業企画開発部 Senior Manager 板野 智彦 氏

「プラント EPC などのお客様において、引き合い・見積りから設計、製造・組立・建設、そしてアフターサービス・保守までを一貫して支援する当社の変革エンジニアリングサービスにあって、最上流である引き合い・見積りの過程での要となる、RFQ ・要求文書読解における熟練暗黙知を AI で再現するのが、SpectA RFQ Guide View です」(板野 氏)。

引き合い・見積り段階の RFQ 読解業務を支援する「SpectA RFQ Guide View」

プラント EPC などでは、受注前の段階において発注元の製造業者等から送られてくる、数百ページから時には数千ページにも及ぶ英文の RFQ ・要求文書を、丁寧に読み解いたうえで、見積りに反映するなどの作業が発生します。もしも読み解きが不十分で見積り・提案の内容などに漏れがあれば、後で追加コストが生ずるなど、大きな損失にも繋がりかねないのです。ただ一方で、競争入札が一般的であることから、読み解きにあまり時間をかけ過ぎれば競合他社に負けてしまうといったケースも多々存在します。このため、いかに丁寧かつ効率的に RFQ の読み解きを行うかが、企業の競争力にも大きく関わってくるのです。

しかしながら、熟練者の高齢化や定年退職、技術伝承の希薄化の影響は製造業においても例外ではありません。

「若年層の就労人口は大幅に落ち込んでおり、また同時に熟練者も高齢となり退職期を迎えて減り続けています。このような背景から、いかにして熟練者の知恵を継承して知的資産を競争力や成長へとつなげていくかは、日本の産業における構造的な課題ともいえるのです。こうした課題解決を促すべく、熟練者の暗黙知の形式知化アプローチをエンジニアリングチェーンの最上流である RFQ の読解業務に特化して実装した AI ソリューションが、SpectA RFQ Guide View なのです」と清水 氏は語ります。

  • 丁寧かつ効率的な RFQ の読み解きが求められている

    丁寧かつ効率的な RFQ の読み解きが求められている

熟練観点を再現する SpectA RFQ Guide View の 3 つの特長

熟練者の読解の観点を AI で再現することで、RFQ の読み込みを支援するクラウド型サービス(SaaS)である SpectA RFQ Guide View には、大きく 3 つの特長があります。

1 つ目は、AI が重要箇所をマーキングすることで、抜け漏れを防止できることです。しかも AI は熟練者の考え方を学習するため、再現の質も向上し続けるのです。2 つ目の特長は、関連するナレッジ情報をリコメンドして判断を支援できる点です。これにより、膨大な過去の実績から参考になる情報を探し出す手間を大幅に削減でき、組織内の知的財産の有効活用も実現します。そして 3 つ目の特長となるのが、業務中にもナレッジを蓄積し、AI の自動学習が可能な点です。検討経緯はメモとして記録されており、このメモを学習データとして活用することで AI が成長するサイクルを構築しています。

板野 氏は語ります。「これらの特長を有する SpectA RFQ Guide View だからこそ、熟練者に依存しない RFQ 読解業務を可能にするのです。業務の中で使いながら検討経緯を蓄積し、これを AI が学習することで、次回以降の検討の際に知見として参照できるようにするサイクルを回していく──それを実現できるのが SpectA RFQ Guide View の最大の強みであると自負しています」(板野 氏)。

熟練者以上の情報抽出を実現したのをはじめ数々の導入効果が

他に類を見ない、SOLIZE だからこそ実現できるクラウドサービスであるだけに、SpectA RFQ Guide View は、これまでにもプラント系、建設業界・交通システムなどの社会インフラに関係した企業をはじめ、自動車業界の海外 OEM 案件対応でも導入支援の実績を有しています。

また、その導入効果についても目覚ましいものがあります。例えば、熟練者による要求検出箇所に関し、SpectA RFQ Guide View はそのすべてを検出できたことに加え、文書量や効率面で見きれないなど、これまで人では検出できなかった箇所も検出することで、熟練者と同等レベル以上の高精度での情報抽出・リコメンドを実現しています。

また、案件処理量は 4 倍に、リスク検出の対応力も 1.5 倍となる例など、人の判断の質と量の最大化を実現しているうえ、要件見落としによるロスコストの低減といった効果も表れているのです。

「こうして限られた人材が、より付加価値の高い検討業務へと時間を割けるようになり、企業競争力の強化、さらにはリソースシフトも可能になったという効果まで得られています」と、清水 氏は言います。

また板野 氏もこう続けます。「どんな大きなプラントであっても、受注した結果コストがかかり過ぎて赤字になるといったケースも多く、利益の確保が非常に難しいのがこの業界の特徴といえます。そこで、プロジェクトマネジメントをいかに改善するかが業界における最重要テーマの 1 つとなっているわけですが、そこでは RFQ 読み込みの精度と効率を向上するだけでも大きな効果が見込めるのです」(板野 氏)。

企業間での絶大な信頼感がある Azure をプラットフォームに採用

SaaS として提供されている SpectA RFQ Guide View ですが、そのプラットフォームとして用いられているのが、マイクロソフトの IaaS / PaaS である Microsoft Azure(以下、Azure)です。

SOLIZE では、5 年ほど前より IoT プラットフォームに相応しいクラウドサービスを評価しており、比較検討した結果最も適していると判断したのは、Azure だったのです。これを機に同社では、Azure のユーザーとして利用を進めていくとともに、Azure のパートナーとしても、自社でクラウドサービスを提供することとなりました。

クラウドプラットフォームに Azure を選定した理由について、板野 氏は次のように説明します。「お客様にとっても、特に機密性の高い設計開発業務にクラウドサービスを導入するとなれば、信頼性がとても重要になってきます。そこで多くの企業において、通常業務にも利用されているマイクロソフトの提供するクラウドサービスであれば、安心感が強いというのは大きいですね。これに、先の IaaS 等の評価の結果や、マイクロソフトのパートナープログラムに参加できることのメリットなども踏まえたうえで、B2B でクラウドサービスを提供するプラットフォームとして、同社の Azure が最適であると判断しました」(板野 氏)。

また、SpectA RFQ Guide View を SaaS として提供した理由について、清水 氏はこうコメントします。「これまで提供していた変革エンジニアリングサービスというのは、コンサルティングサービスが故に、単価も高く期間も数年にわたるため、どうしても提供できる企業も限られてきます。しかし日本の製造業の世界というものは、多くの中小企業まで含めた産業構造をしており、そうした産業全体に貢献しインパクトを与えるには、SaaS によるサブスクリプションモデルで提供するのが最適であると考えたのです。製造業は 99 %が中小企業なので、より多くのお客様に喜んでもらいたいというのが我々の思いです」(清水 氏)。

機密性の高さを実現する Azure 上での SaaS 基盤システム構成

SpectA RFQ Guide View では、顧客ごとにサブスクリプションを構成し、その中にシステムを構築しています。これにより、ユーザー企業ごとにシステムが完全に分離できるため、情報が社外に漏れることがありません。

「RFQ というのはお客様にとっても、そのさらにお客様から預かっている機密情報ですので、安全性に関してはとりわけ注意が必要になります。その点を解決できる構成としているのも大きなポイントとなっています」と、板野 氏は説明します。

ユーザー管理、認証、アクセス制御には Azure Active Directory を利用しており、認証後は Azure 仮想ネットワーク VNet 内の API Gateway から Azure App Service Containers にある Docker 上の Web サーバー、Web UI へとアクセスします。

また、サービスの監視には Azure Monitor を利用しており、ログやメトリックデータをリアルタイムで監視し、CPU やメモリなどのリソース負荷が極端に変動した時のアラートを設定しています。

また、AI の計算処理が重くなるのを想定し、Aspect Engine(自然言語処理 AI)でのドキュメント分析および検出ルール学習については、自動的に Docker コンテナをスケールできるようにして負荷分散を行っているのも、クラウドベースならではのポイントとなっています。

さらに、PDF ドキュメントなどは、Private エンドポイントやロールベースアクセス制御のうえ、Azure Blob Storage に格納することでセキュリティの強化を図るとともに、Azure Database for MySQL にはユーザーメモ、アノテーションデータ、検出ルールなどのデータを格納する構成となっています。

  • システム構成図

    システム構成図

マイクロソフトのパートナーシップを強化し、さらなるサービス展開へ

SpectA RFQ Guide View のサービスを、Azure プラットフォーム上に構築したことで得られたメリットについて、板野 氏はこう語ります。「クラウドサービス全般にいえることでもありますが、やはり個々のサービスを提供するためにそれぞれインフラを保有していたら、サーバーやデータセンター増設などの煩雑さに追われてしまっていたでしょう。それが Azure を採用したことで、システム面でのケーパビリティを柔軟に確保できると実感しています。また、セキュリティ機能やユーザー認証機能は、当然ながらとても重要ではありますが、SpectA RFQ Guide View のセールスポイントとはいえない、お客様からすればクリアしていて当然の部分でもあります。そこを Azure であれば、既に備わっている機能を利用することで、当社が独自に構築するよりも高度なセキュリティレベルや認証機能を実現できるというのも大きなメリットといえるでしょう」(板野 氏)。

こうした成果を受けて SOLIZE では、SpectA RFQ Guide View の 更なる拡販に注力しています。

「プラントのみならず、より広く製造業内での認知を広めていきたいです。そのためのマーケティングに関しても、マイクロソフトのパートナープログラムによる支援があるのは大きいですね」と、清水 氏は期待を示します。

さらに今後 SOLIZE では、組織内に埋もれた文書データからダイナミックな知識獲得と情報活用で人の判断を支援する「SpectA DKM(Dynamic Knowledge Management)」や、安全管理業務における危険予知の高度化と改善をサポートする「SpectA KY-Tool」といった新たなサービスの展開も視野に入れています。

最後に、そうした将来の展開に向けたマイクロソフトに対する期待を清水 氏、板野 氏の両氏は次のように語りました。

「当社が有する製造業の業務知識・ものづくり技術・変革実績、それに対してマイクロソフトの IT に関する技術面での知見が掛け合わされることで、より付加価値を高めていけるようなシナジーを発揮できるよう、パートナーとして連携を強めていきたいですね」(清水 氏)。

「マイクロソフトの開発パートナーとして、Azure 上でのシステム構築の実績のある他のパートナーとも連携していきながら、よりお客様のニーズに応えるサービスを開発していきたいと考えています」(板野 氏)。

製造業への貢献を目指す SOLIZE の取り組みを、マイクロソフトは今後も強力に支援していきます。

[PR]提供:日本マイクロソフト