日本でも国内有数の総合商社、伊藤忠商事株式会社では、ビジネスモデルの進化を推進しています。そして、これらのビジネスを支える情報活用の領域においては、2016 年から国内用基幹システムの整備に着手、2018 年にはインメモリープラットフォーム SAP HANA と ERP システム SAP S/4HANA を利用した新システムを本格稼働させました。さらに全社統合データ分析システム HANABI の構築により、現場のニーズに応じた各種レポートやビジネスデータを、円滑に提供できる体制も整えています。
一方で、海外事業向けのシステム改革にも取り組み、2020 年から段階的に刷新を図っていく計画です。そのクラウド基盤として Microsoft Azure が採用されています。
現代のビジネス・ニーズに応えられるデジタルプラットフォームを
伊藤忠商事の海外事業を支える海外基幹システムは、東京の情報システム部門で構築/統括しており、約 50 の海外現地法人・事業会社へ展開しています。この海外基幹システムには SAP 製品(現在は SAP ERP ECC6.0 )を使用していますが、北米での初期導入から 24 年、アジア・ヨーロッパでは 16 年と、それぞれ長い年月が経ちました。
「現行システムでは、今のビジネスおよびマネジメントに求められる多様な役割をスピーディに実現することやイノベーションを支えることが難しくなってきています。また本来、契約や物流などの全プロセスの情報を蓄積すべきものですが、そうした作業には Excel などが使われ、ERP は会計システムとして利用される色合いが強くない、データ活用のプラットフォームとしての利用も難しくなっています。この二つが今回、新たなデジタルプラットフォームの構築に踏み切った大きな理由です」と、刷新プロジェクトのリーダーを務める伊藤忠商事株式会社 IT 企画部 全社システム室の原田 修作氏は言います。
ビジネスの発展に貢献する、真のデジタルプラットフォームを構築するために、IT 企画部では 3 つのコンセプトを打ち出しました。まずは Digitalization of entire process 。全プロセスをデジタル化することで、データ分析が容易になり、意思決定の精度向上にもつながります。次に Expandability for innovation 。ビジネスの変化が速い現代、さまざまな機能を網羅するような大きなシステムをつくっても、次々と生まれる新たな要求に対応していくことはできません。システムそのものを大きく改修しなくても、そうした要求に応えられるような拡張性や、外部システムとのシームレスな連携を容易に行えるプラットフォームにすることが重要となります。そして Stable Platform & Support 。安定稼動と、それを確実なものにするサポートを十分に行き届かせられるものであること。これらのコンセプトを実現するためのソリューションとして、パブリッククラウドの Microsoft Azure (以下、Azure )の上に構築された S/4HANA Cloud でした。Azure の選定理由を、原田 氏は次のように説明します。
「この新たなデジタルプラットフォームのコンセプトを実現できる基盤であること、そして海外拠点では Microsoft 365 や Azure を利用しているため、信頼性の高いネットワーク構築や Azure AD を使った SSO の実現等、親和性が高いことも選定のポイントとなりました。」(原田 氏)。
また、伊藤忠商事株式会社 IT 企画部 全社システム室長 浦上 善一郎 氏は、マイクロソフトと SAP 社の関係性も重視したと言います。
「マイクロソフト自身が SAP を 20 年以上使い込んでいる、つまり SAP 製品に関しての経験が豊富で、深い知見を持っているというのも選定理由です。そして何かトラブルがあったときには、SAP 社との強いパイプを活用して対応してくれるだろうという期待もあります」(浦上 氏)。
常に最新の状態を保つために、Fit to Standardを目指す
国内システムは、SAP 社が BrownField と呼ぶ手法(従来の SAP ERP のプログラム資産を活かしながら、データを移行させる方法)で SAP S/4HANA への切り替えが行われましたが、海外拠点ではGreenfieldという新規に構築した SAP S/4HANA に刷新するという方法がとられました。
「コンセプトを実現し、現代の早い変化やビジネスイノベーションに継続的に対応するには、Fit to Standardしかないと考えました。今のシステムは、長年の間に 3,000 箇所以上のモディフィケーションや多数のアドオン機能を開発しているため、今後、新機能対応やバージョンアップの度に、これらの影響調査をする必要があり、これではスピーディに要件を実現することができません。将来を見据え、徹底したFit to StandardのもとGreenfield 手法を採用しました。」(原田 氏)。
Fit to Standardは SAP 社が提唱するコンセプトの一つで、導入するソリューションをカスタマイズせず、標準機能だけを組み合わせて使っていくことを意味します。そこでIT企画部では、現行システムに施されているすべての改修について、一つ一つ要件レベルでの整理を行いました。どうしてもSAP標準では実現できず、伊藤忠商事のビジネスに欠かせないもののみを残し、最終的にモディフィケーションは全撤廃、アドオン機能は90%削減を実現しました。
「日本企業は画面のレイアウトをはじめ、痒いところに手が届くようにシステムを改修するのが得意で、かつてはそれが『日本のいいところ』だったと言えるでしょう。しかし今はグローバルスタンダードに則したものを、そのまま使う方が将来的に有利だと考えました」(浦上 氏)。
システムに独自の改修を行わなければ、SAPから提供されるバッチの更新や追加機能などを、大がかりな検証なく採り入れることができ、常に最新の状態を保ち続けられます。これまでのようにバージョンアップに合わせて 100 名規模の対応チームを編成し、更新の適用や確認作業を行ったり、それによってビジネスが停滞したりすることもありません。
Fit to Standard という方向性を決めた後は、IT 企画部がこの 24 年の間に蓄積してきた保守・運用技術やサポートで得たノウハウを総動員し、モジュールの組み込みや外部との API 連携、インターフェースの構築を行ってきました。利用拠点のマネジメントやスタッフも このコンセプトおよびFit to Standard の方針に理解を示し、2020 年11月に北米の第1拠点に導入完了しました。今後は北米 10 社への導入を進め、2021 年にはアジア・ヨーロッパの各社へ展開していく計画だといいます。
SAP S/4HANA にデータが集約され、デジタルプラットフォーム上のデータを活用していくことで、同社のビジネスはより革新的かつかつ精度の高いものへと進化していくでしょう。
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