IT がビジネスや社会に浸透してきたことで企業に蓄積されるデータ量は急激に増加し、あらゆる業種でデータを有効活用するためのデジタル変革が推進されるようになりました。日本を代表する出版取次会社の日本出版販売株式会社も、データの活用を重要なミッションに掲げる企業のひとつです。出版社や書店から集められた膨大かつ重要なデータを活用して出版業界全体の活性化に取り組む同社では、これまで運用してきたデータウェアハウス(DWH)のアプライアンスのサポート終了に合わせ、データウェアハウスのクラウド移行を決定。取次業務だけに留まらず、物流・小売・コンテンツなど、多種多様な事業を展開するグループ企業を持つ「日販グループ」全体でデータを活用できる環境の構築に着手しました。そこで同社が選択したのが「Microsoft SQL Server 」と「Microsoft Azure」。この組み合わせは、従来のDWH が抱えていた課題を解決し、日販グループにおけるデータ活用の可能性を大きく広げました。
DWH のクラウド移行によって、グループ全体がデータを活用できる環境を実現
出版業界にもデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せており、データを活用した販売戦略が求められています。日本における二大出版取次会社の1つである日本出版販売(以下、日販)は、急激な変化の最中にある出版業界を活性化すべく全国の出版社や書店と連携し、様々な取り組みを行ってきました。このような状況の中、同社が運用していたDWHアプライアンス「Netezza」のサポートが終了。それを機にオンプレミスからクラウドへのDWH移行が検討されました。
本移行プロジェクトは、日販グループにおけるITを一手に担う日販テクシード株式会社が企画・提案・移行を担当しました。同社の取締役 グループ事業開発本部長 森山 光 氏は、DWHのクラウド移行を決定した経緯をこう語ります。
「日販では15年ほど前からDWHを運用しており、全国の書店や出版社から収集したデータを分析して、その結果をもとに提案を行ってきました。Netezzaは3代目となるDWHですが、長期間運用してきたことでデータ量は増加し、老朽化も相まってパフォーマンスが低下していました。また、日販グループとして事業の多角化を進めていく中で、蓄積したデータをグループ全体で活用したいというニーズも高まっていました。これまでのDWHは日販の社内で使うことを前提としており、グループ全体で共有するのは難しかったこともあり、Netezzaのサポート終了を機にクラウドへの移行を決めました」(森山 氏)
出版業界全体の活性化は喫緊のタスクで、関連するデータを分析して“売れる商品をタイムリーに店頭に並べる”ための提案を行う必要があります。日販の社内情報系システムには出版社、書店の情報からPOSデータ、在庫データまでさまざまなデータが蓄積されており、これらのデータを統合して取り扱うDWHが担う役割は重要です。そこで今回のDWH刷新では、「データ量の増加に対応できる拡張性」「適切なデータ活用が行えるパフォーマンス」「グループ全体でデータを活用できる環境」の実現が重要なテーマとなりました。プロジェクトにスタート時から携わっている日販テクシード株式会社の福田 和江 氏はこう語ります。
「これまでは日販内に限られた営業担当者がデータを分析して提案を行っていたのですが、個人ができることには限界があります。こうした課題を解決するには、日販グループの誰でもデータを分析して活用できる環境を構築する必要があり、今回の取り組みはその実現を目指したものといえます。オンプレミスで運用してきた従来のDWHは、データを活用する場面が増え、多重でアクセスされる状況になったことで処理が追いつかなくなっていました。業務に影響が出ないようにチューニングを施していましたが、特にアクセスが増える月初めは、不安を抱えながらの運用になっていました」(福田 氏)
DWHへのアクセスが増加する月初めのタイミングでは、通常の処理と比べて数時間もの遅れが発生することもあったと福田氏。システムを利用する営業担当者に対し、負荷をかけない使い方をアドバイスするなどの対応を行ったものの、抜本的な解決には繋がらなかったと語ります。同社の利用しているBIツールでは予約実行の機能があり、早朝7時に検索を自動実行して、出社時間までに処理を完了させることができるのですが、データ量と利用者数が増えたことで、出社してきても処理が終わっていないケースも増えていたといいます。こうした課題が積み重なったことで、クラウドへのDWH移行が決定されました。
導入実績の多いMicrosoft SQL ServerとMicrosoft Azure が選択される
DWHの刷新にあたっては、日販テクシードが中心となりNetezzaの後継となるDWHソリューションを選定、それに合わせてインフラを構築するという流れで行われました。DWHソリューションの選択にあたっては、DWH ソリューションの選択にあたっては、Microsoft SQL Server 検討のパートナーとして株式会社システムサポートに依頼。両社が連携してPoCを行い、実際の状況に即したチューニングを施すことで十分なパフォーマンスが得られることを実証しました。
製品の決定にあたっては、Microsoft SQL Serverが豊富な導入実績を持つソリューションであることに加え、既存のBIツールとの親和性が重視されたといいます。
それと併せて、プラットフォーム(インフラ)には、Microsoft SQL Serverと同じくマイクロソフト製品のMicrosoft Azure(IaaS)を選定。クラウドサービスで柔軟なインフラ構築が可能なMicrosoft AzureはスムーズなPoC実行にも効果を発揮しました。実際にPoCを行ったシステムサポート 東京支社クラウドコンサルティング事業部の佐藤 大夢 氏は、「ピーク時のI/O性能を担保するためディスクを何本も束ねてI/Oを分散化し、使っているテーブルに対して圧縮をかけてメモリからすべてを読み込めるようにしました」と、チューニング時の苦労を語ります。
今回のプロジェクトでは、拡張性やグループ全体での活用を見越していたこともあり、クラウドのプラットフォームを採用することは、ある種既定路線だったといいます。福田 氏は、Microsoft Azureを選択した要因についてこう話します。
「Microsoft Azureを選んだ要因としては大きく2つ。1つはMicrosoft SQL Serverとの親和性です。同じマイクロソフトの製品なのでサポートも一元化され、参考となる導入事例も多かったのがポイントです。もう1つは、NetezzaからSQL Serverに移行した事例が確認できたことです。データの移行に苦労することは想定していたので、事例があるのは大きな決め手となりました」(福田 氏)
とはいえ、日販がMicrosoft Azureを本格導入するのは初めてで、導入検討時には多くの議論が重ねられました。「重要データが入ったシステムを初めてのクラウドサービスで運用して大丈夫なのか」という不安の声もあったと森山 氏は当時を振り返ります。ただ、同社では別のクラウドサービスを一部の業務に導入しており、1つのクラウドに依存することの問題も指摘されていました。このため、選定段階に1年半という時間をかけながらも、最終的にはMicrosoft Azureの本格導入に踏み切ることになりました。その後、システムサポートも参加した実際の構築作業は、約6カ月で行われています。
オンプレからクラウドへのDWH移行はスムーズに完了、これからは本格運用へ
Microsoft AzureとMicrosoft SQL ServerでDWHを構築する際、苦労したのは従来のDBからのデータ移行だったといいます。Microsoft SQL Serverの構築を行った日販テクシードの杉本 健一 氏はこう語ります。
「今回は、Netezza以外に運用していたレガシーなDBもMicrosoft SQL Serverに統合することになりました。データ形式も異なるため、それをスムーズにMicrosoft SQL Serverに移行できるかがポイントでした。15年以上前に導入したもので、当時の導入に関わった技術者がいなかったのも問題でした。多くの導入事例があるMicrosoft SQL Serverを選んだことで、大きなトラブルなく移行することができました」(杉本 氏)
プラットフォームにMicrosoft Azureを選択したことも、スムーズな移行を後押ししました。システムサポートの伊東 克也 氏も、「オンプレからクラウドへの移行はマンパワーが必要となるケースが多いのですが、今回はMicrosoft Azureでスムーズにインフラが構築できたので、初期データの移行などに多くのリソースを割くことができました」と、シンプルかつ柔軟なインフラを構築可能なMicrosoft Azureの実力を評価します。
こうして、Microsoft AzureとMicrosoft SQL Serverを採用した日販のDWHは、2019年6月にカットオーバーされました。従来のDWHが抱えていた課題は解消され、トラブルの報告はほとんどないと福田 氏。利用者からはBIの朝の予約実行が早くなったという声も聞こえるようになったと喜びを語ります。森山 氏も、クラウド上にDWHを構築したことによるメリットを実感していると話します。
「これまでのDWHは、日販の閉じたネットワークに構築していてグループ会社が活用できませんでした。今回、DWHをMicrosoft Azure上に構築したことで、これがグループ全体で活用できる環境となり、たとえばグループ会社の書店がBIツールを使って直接分析することも可能になりました」(森山 氏)
とはいえ、今回構築したDWHの成果が本当に得られるのはこれからです。「アクセスの高速化は業務効率の向上に繋がっていますが、業務自体はDWHの刷新で変わったわけではありません」と福田 氏。今後は、快適な分析が行えるようになった環境を“どう活用するか”が大きなテーマになると語ります。
「本は季節変動が激しい商品なので、例えば蓄積したデータを機械学習などで分析して自動的に提案できるようにするのが理想です。また、現在使っている分析ツールは多少のトレーニングを必要とすることもあり、使える人と使えない人がいます。データの活用という観点では、社内向けの分析環境を整備していく必要もあると考えています」(福田 氏)
マルチクラウド環境を利用した“理想のデータ活用”を求めて
今回のDWH移行は、日販グループにおけるクラウド運用とデータ活用の第一歩といえ、今後の展開からも目が離せません。日販のクラウド戦略に携わり、今回の移行プロジェクトにも参画している日販テクシードの野上 巳知夫 氏は、今後の展望についてこう語ります。
「あらゆるビジネスにおいて、マルチクラウドの運用は避けられない流れとなっています。その意味では、今回のプロジェクトでMicrosoft Azureを採用したことで、弊社内にマルチクラウドのノウハウを蓄積できたことには大きな意味があります。日販グループはもちろんのこと、グループ外の企業に対しても複数のクラウドサービスそれぞれの“強み”を活かして、最適なIT環境を提供できるようになったと考えています」(野上 氏)
加えてシステムサポート 佐藤 氏の「Microsoft SQL Serverは利用者の声に応えた機能追加や品質向上が図られています。今後も、より様々な用途で使えるソリューションに進化してほしいと期待しています」という言葉や、杉本 氏の「日販テクシードでは、これからもMicrosoft Azureの実績を増やしていきたいと考えています。マルチクラウド環境を構築・運用する上で、マイクロソフトにも技術サポートしていただければと思います」という期待の声からもわかるように、今回構築したDWHは、これからも進化を続けていきます。福田 氏も先進技術を積極的に取り入れるマイクロソフト製品の可能性に期待しています。
「現在使っている分析ツールでは、できることも限られるので、Microsoft Azureの機能と組み合わせて今よりも高い分析環境を構築していきたいと考えています。Microsoft Azureの採用で、日販テクシードのソリューションとして最新テクノロジーの導入ハードルが下がったことを感じています」(福田 氏)
今後、日販グループ全体に展開する“理想のデータ活用”のノウハウについては、日販グループに留まらず、広く活用していくことを日販テクシードは目指しています。その実現を支援するマイクロソフトのクラウドソリューションには、今後も注視していく必要がありそうです。
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