現在、世界各国の大手自動車メーカーが自動運転の実現にしのぎを削っている。自動運転はレベル0~5の6段階に分かれているが、運行の主体がレベル2までは人、レベル3以降は部分的また完全に自動車のシステムになる。

高度に運転を支援するレベル2に対応する自動車は日本でも数多く市販されているが、レベル3やその先のレベル4では運行の一部または全部をシステムに任せるため、自動車のセンシング技術性能向上が実現のカギを握っている。

現在すでに自動車に搭載されているレーダーも周囲の物体を検知しているが、自動運転を実現するためには、より細かく物体を検知する必要があり、イメージングレーダーの需要が高まっていくと思われる。

レベル3およびレベル4の自動運転を実現するため、Infineonはイメージングレーダー向けのMMIC(マイクロ波集積回路)やマイコンを提供している。ソリューションの概要について、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の夏目雅弘氏と大橋尚美氏に話を聞いた。

周囲の物体をより詳細に検知するため、レーダーの性能を上げる

現在、自動車に搭載されているレーダーは、アンテナの数が3送信4受信(3T4R)のレーダーが主流だが、2025年頃から4送信4受信(4T4R)が主流となり、その後、6送信6受信(6T6R)へと進化していくとInfineonでは見ている。

しかし、自動車線変更や立体交差等の複雑なシナリオでは8T8R以上の4D(4次元)イメージングレーダー、遠距離での路上落下物検知等には16T16R以上のHD(高解像度)イメージングレーダーが必要となり、Infineonはそのためのソリューションを用意している。

現行のレーダーでは、たとえば、周囲にほかの自動車とバイクが並んでいた場合はそれらを一つの塊として検知してしまう、自動車が鉄道のガード下をくぐる場合は前方のガードを障害物と誤認し、システムがブレーキを踏んで自動車を止めてしまうといった可能性がある。また、道路の上をモノレールが走っている場合も同様に、上のモノレールを障害物と認識してブレーキを踏んでしまう可能性がある。

日本の複雑な道路事情では、こうした誤検知が発生し得る事例が多くあり、地図情報と併用してセンサーを一時的に停止させるなどして対応しているという。しかし自動運転の実現を見据えた場合、これでは不十分である。

そこで、周囲の物体を正しく認識するためレーダーの性能を上げていく必要がある。たとえば4T4Rのレーダーでは自動車と自転車を区別できるが縦方向の分離は難しい。6T6Rのレーダーではバイクとトラックを区別でき、かつ縦方向の分解能向上も見込める。さらに12T12Rの4Dイメージングレーダーでは自転車とトラック、16T16RのHDイメージングレーダーでは大人とトラックを区別して認識できる。

また、6T6R、8T8R、12T12Rとチャンネル数が増えていくほど、検出できる距離も伸びていく。

そのほか、自動運転で対応すべき状況としては車線変更がある。

車線変更で後ろからほかの車が迫っている場合、同じ車線を走っている車か、隣の車線を走っている車かを明確に区別しなければいけない。特にドイツの高速道路のように時速200kmで走行する場合は、より遠方から車両を検知しなければならない。バイクの場合は対象物が小さくなりレーダーとしての反射断面積も小さくなるので、より難易度が上がる。そのためには、8T8Rのレーダーもしくは複数の4T4Rレーダーが必要になる。

また、路肩に停車中の車を追い越す際に、車線をはみ出して追い越す場合は、対向車と後方から迫る車の両方を検出する必要がある。

路上落下物の検知も重要になる。タイヤなどの落下物が落ちている場合、早めに検知すると同時に、それが乗り越えられる高さなのかどうかを検知できることが望まれる。

現行のADAS(先行運転支援システム)では対応できていない路上の小さな陥没についても検知する必要がある。そうなると、もっとチャンネル数の多い16T16Rもしくはそれ以上のレーダーでなければ対応が難しい。

こうしたことから、自動運転の実現、さらには安全性能の向上のために、イメージングレーダーの需要は高まっていくとInfineonでは考えている。2025年には新車の8%に、30年には18%に4DないしはHDのイメージングレーダーが搭載されると見られている。

並列処理MMICで容易にシステム構築

イメージングレーダー向けにInfineonは、MMICの新製品「RASIC CTRX8191F」を提供する。

同製品は基本的に4T4Rに対応する。最大の特徴はカスケーディング(並列処理)が可能になっていることで、デバイス1個では4T4Rだが、2個使えば8T8R、3個使えば12T12R、4個使えば16T16Rに対応できるところだ。必要に応じてデバイスを繋げるだけで、好みのイメージングレーダーをつくれる。

また、28nmプロセスを採用しており、カスケーディングできる単品のMMICとしては最先端の製品となっている。

なお、従来のレーダーは基板上にアンテナを形成していたため高価な基板を使用する必要があった。しかし、CTRX8191Fでは導波管アンテナを採用することで、高価な基板を使用する必要がなくなりレーダー全体としてのコスト低減に貢献している。

このCTRX8191Fは同社のマイコン「AURIX」と組み合わせて使用する。AURIXシリーズの最新レーダー専用製品が「TC45xファミリー」で、1個のTC45マイコンでCTRX8191F MMICを3個まで並列運転させることができる。

最新のレーダーシグナルプロセッシングユニット「SPU3.0」を搭載しているため、従来のSPUの倍のスピードでFFT処理を実現できる。これによって、大量のデータを受信するイメージングセンサーにおいて、遅延なく高速でデータ処理がおこなえる。

また、メモリアクセスも高速になっている。さらにパラレルプロセッシングユニット(PPU)を搭載し、エッジAI(人工知能)処理も可能となっている。これにより、AIを活用した検出精度の向上や物体認識の正確性向上、さらにはデータ量の削減も見込める。

低消費電力と低コストを実現

12T12Rまでは基本的には1個のTC45で対応できるが、より多くのCTRX8191F MMICを使用する場合はFPGAを使ってシステムを構築することになる。

ただし、16T16Rまでは、専用のTC45マイコンを使用したほうが、消費電力を低く抑えることができる。TC45マイコンを使ってシステムを組んだ場合、消費電力は8T8Rが5.5W、16T16Rで13Wとなっている。

発熱の問題はレーダーでも重要である。レーダーは設置場所が車体のフロント部分やバンパーなど端部に限られるため、放熱機構を設けにくい。そのため発熱を抑えることが必要となり、TC45マイコンの低消費電力のメリットが生きる。

なお、Infineonでは、OEMやティア1向けにイメージングセンサーのデモ評価キットを用意している。まずはCTRX8191F MMICを2個搭載した8T8R向けからリリースする。現在量産中のマイコン「TC397ファミリー」を搭載したデモ機「CARKIT 2c3」を2024年中に、最新レーダー専用マイコンのTC45ファミリーを搭載したデモ機「CARKIT 2c4」を2025年にリリースする予定だ。

デモ機はハードウェアだけでなく、GUIを含めたソフトウェアもあわせて提供しており、ユーザーの開発をさらに支援するかたちとなっている。

大手自動車メーカーでは、レベル3やレベル4の自動運転の開発が加速している。Infineonは、人が自動車に身をゆだねることができる未来の実現に貢献すべく、そこで求められる高性能かつ低コストのイメージングセンサーのソリューションを提供していく。

[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン