近年、圧倒的なスピードで技術進化と新規プレーヤーの参入が進み、市場が大きく変化しているキャッシュレス決済サービス。日本でサービスを開始してから60年以上となる「クレジットカード」は、その変化の渦中にあっても、ポピュラーな決済手段として存在感を保ち続けている。日本発の国際カードブランドであるジェーシービー(以下JCB)は、システム本部内のSalesforce専任チームが利用するリリース管理ツールとして、テラスカイが国内で提供する「Flosum」を採用。Salesforce標準の変更セットと比較して、リリース作業にかかる時間を削減すると共に、作業品質の担保を実現している。
全社標準のルールを整え、ガバナンスの利いたSalesforce活用を推進
JCBでは、2011年頃から徐々に業務改善を目的とした「Salesforce」利用ニーズが増加してきた。
「当初は、SaaSであるSalesforceの導入に慎重になるべきだという意見も社内にありました」そう話すのは、同社システム本部インフラ開発部でOAインフラグループの次長を務める安富善彦氏だ。「慎重」であるべき理由としては、決済情報を取り扱うクレジットカード会社として、SaaSであるSalesforceのリスクを十分に評価すべきだというものと、システム運用において守るべき同社の基準やルールをSalesforceに適用できるかどうかを検討すべきだというものが大きかったという。
そうした「慎重論」の中、業務部門からは次々とSaaSクラウドサービスであるSalesforceを活用した業務システムの導入要望やユーザー部門での導入実績が発生し、その存在は無視できないものとなっていった。
「中規模、小規模のシステムは、システム本部が従来から行ってきたような、システムごとにサーバを立て、厳格なプロセスに従って開発運用するやり方では業務部門のニーズに応えるのが難しくなっていきました。そこで、立ち上げまでの開発スピードや柔軟性といったSaaSとしてのSalesforceのメリットは生かしつつ、業務適合性、セキュリティ、継続性といった点で必要な品質を担保できるようなルールを整備。システム本部で一元的に運用を手がけることで、全社的なガバナンスを確保しようという方向性が定まりました」(安富氏)
チームによるリリース作業の効率向上を目的に「Flosum」を導入
2018年にはSalesforceの統制方針を具体化。Salesforce専任のチームを発足し、各部からの相談対応や、開発、改善、運用を手がけるようになった。2024年現在、Salesforce専任チームでは全体で10以上のSalesforceシステムの開発・運用を手がけている。
「2018年の発足時は、社内でSalesforceの得意とする活用領域の定義や、開発・運用をする際のコスト・リスク低減に必要となるルールやドキュメントを整備することに時間をかけました。Salesforceの活用法が明確になる事で、新たに業務をシステム化したいとか、一度作ったシステムを拡張、改善したいというニーズが増えてきました。そうした中、Salesforceの活用に伴い、リリースの頻度を上げていく必要性が出てきました」(安富氏)
Salesforce専任チームでは、より迅速な開発と改善のサイクルを実現できるよう、ウォーターフォールではなく、アジャイル的要素を取入れた開発プロセスも行ってきた。しかし、そこで問題になったのが、最後の移行工程、Salesforceのアプリケーションを開発環境から本番環境へと移行する「リリース作業」の煩雑さだったという。
JCBでは従来、リリース作業にあたってSalesforce標準の変更セットを利用しており、実施の際は手順書に従い、リハーサルやダブルチェックを行うといった厳格なルールを定めていた。しかし、その回数が増えたことで、リリース作業にかかる時間とコストが増大し、人為的なミスも発生しやすい状況が生まれていたのだ。
「開発は正しく行えていても、最後のリリース作業にミスがあれば、システム障害が起きて業務に支障が出てしまいます。それを避けながら、作業を確実かつ効率的に行えるようにするためにも、何らかのツールを利用すべきだと考えました」(安富氏)
同社では、Salesforce標準の変更セットや、コマンドを入力して更新を行うCLI環境に替わるリリース管理ツールについて情報収集を行い「Flosum」の導入を決定した。
作業品質を担保しつつ、リリース作業時間を10~30%削減
Flosumは、2020年8月に導入された。導入時には、テラスカイの支援を受けながら、Flosumの利用を前提として、リリース作業の手順書を効率的なものに改善するといった下準備も行っている。Flosumの導入直後は、UIが英語のみであることなどから敷居を高く感じたエンジニアもいたが、基本的な作業手順はシンプルで、利用開始後にはすぐに受け入れられたという。
「Salesforce標準の変更セットでは、細かい操作を一つずつ確認しながらリリースする必要がありましたが、Flosumによって多くの部分が自動化されました。作業時間が削減されたと同時に、ケアレスミスが発生する余地も減り、移行作業の品質確保につながっています」(安富氏)
Flosumによるリリース作業の時間は案件によるものの、変更セットで行っていた場合との大まかな比較で「10~30%」程度短縮されているという。また、変更セットだけでは十分にカバーできていなかったリリース資材の自動取得、デプロイ・ロールバックなどのリリース作業を自動化するパイプライン機能、ソースの差分比較、バージョン管理など、さまざまな機能がパートナーのエンジニアにも支持されているそうだ。
「JCB側のメンバーは、常駐のエンジニアが行う仕事を管理する立場で、作業手順のレビューなども行います。その際、以前であれば、手作業の手順を一つ一つ確認する必要がありましたが、現在ではFlosumで大部分が自動化されていますので、その手間が減少しています。Flosumの適応部分については、人為的なミスを心配する必要がないので安心感もあります」(安富氏)
システム本部では、Flosumの導入により、業務部門からリクエストされるSalesforceアプリケーションの機能拡張や改善のサイクルの迅速化を進めている。
「例えば、2~3カ月単位でリリースサイクルを回すことを目標にした場合、“リリース作業”に時間が掛かり開発量・時間の減少に影響します。ユーザーが望む機能の実装が後回しになってしまうといったこともあり得ます。Flosumを活用することで、エンジニアが、システムの価値向上に貢献できるような機能開発に、より多くの時間を割ける環境を実現できると考えています」(安富氏)
ツールを活用して、エンジニアがより価値の高い仕事に携われる環境を作る
JCBでは引き続き、Salesforceを用いた業務システムを継続していく意向だという。Salesforceという、ローコードのSaaSクラウドサービスであることを活用し、業務の変更や改善・進化に対し、柔軟に追従できるSalesforce開発・保守体制を維持していく。ユーザー要望に、効率的かつ安定的なシステム対応の価値を提供できるようにしていくうえで、Flosumのようなツールの意義は大きいと、安富氏は評価する。
「日本の労働人口が減っていく中で、システムの開発や保守を担えるエンジニアの総数は減少し、価値も高まっていきます。そうした状況において、エンジニアには、本来の知恵やスキルを発揮できる労働価値の高い仕事に多くの時間を使ってもらうことが重要です。われわれの場合は、パートナーに委託してシステム開発・保守をしてもらっていますが、クリエイティブな要素が大きい工程に注力してもらいたいと考えています。そして、開発したシステムの速やかなリリースによって、ユーザー要望に応える経験・手応えを増やしもらいたいと考えています。 だからこそ、Flosumのようなツールを使って、リリース環境を整えることは、エンジニアのモチベーション維持や定着といった観点からも大切になっていくと考えます」(安富氏)
JCBのパートナーエンジニアに対する考えとツールの活用は、今後一層厳しさを増すエンジニア獲得を有利に進めていくうえで、大きなヒントとなるだろう。
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