2024年7月9〜12日、オンラインイベント「キヤノンITソリューションズ共想共創フォーラム2024 共に想い、共に創るビジネスイノベーション ~これまでのDXを総括し未来を拓く~」が開催された。主催のキヤノンITソリューションズは2021年から年に1回、全社的イベントとしてフォーラムを開催しており、今回が4回目となる。
4日間にわたり、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する各界の有識者や企業のキーパーソン、そしてキヤノンITソリューションズからも前線で活躍する担当者が登場し、日本企業が取り組んできたDXの総括と、その先のビジネスイノベーション実現に向けた道筋が多彩な視点から語られた。本稿では初日に行われたキヤノンITソリューションズ社長・金澤明氏による基調講演「共に想い、共に創るビジネスイノベーション」の模様をお届けする。

デジタル化は進んだが、はたして真のDXは……

基調講演は、金澤氏とマイナビTECH+編集長の小林行雄が対談する形で進められた。
キヤノンITソリューションズは、経営ビジョン「VISION2025」で「先進ICTと元気な社員で未来を拓く“共想共創カンパニー”」を掲げている。この“共想共創”は、フォーラム名に加えて本講演のタイトルにも冠されているように、同社が顧客と社会に価値をもたらしていくうえで最も重視するコアメッセージだといえるだろう。

(写真)金澤明氏

キヤノンITソリューションズ株式会社
代表取締役社長 金澤 明 氏

小林はまず日本の現状について、DXが業務効率化・生産性向上を目的とした“デジタル化”の意味合いで語られるケースが多かったことを指摘した。金澤氏はそれを肯定したうえで、「DXという言葉に刺激されてデジタル化を進めた企業では、ある程度その成果を実感できるようになり、各企業が意識するDXの目的にも変化が現れてきました」と現状を解説した。

実際に同社が実施した調査結果にも、競争優位のためのビジネス変革や新たな製品・サービス・ビジネス創出に軸足が移り始めた傾向が表れている。金澤氏は「本来の意味でのDX」が意識される状況に入ってきたとの認識を示し、「トランスフォーメーションを意識するのであれば、DXによって何を変革し、何を見出したいのか、“何を”を強く考えなければなりません。そこで今回のフォーラムのテーマでは、DXではなくビジネスイノベーションという言葉を使いました」と語った。

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DX実現に求められる要素と、日本ならではの阻害要因

「日本企業は長い間、各現場の個別最適化を進めてきましたが、消費者や顧客企業の多様な要望に応えるためシステムが複雑化し、いわゆるブラックボックス化してしまいました。それが、経済産業省が2018年のDXレポートで示した“2025年の崖”問題につながっています。日本は1990年代後半から働く人より支えられる人のほうが多くなり、人口構造が経済の重荷になる人口オーナス期に入っています。この状況では従来のビジネスモデルは通用せず、イノベーションを起こすことが必須です」と金澤氏は話す。

激しい環境変化の中、生産性向上と競争力維持、そして持続可能な成長を実現していかなければ企業は生き残れない状況だ。実際に生産性はOECD加盟38カ国中30位で1970年以降最低、デジタル競争力は主要64カ国・地域中32位で過去最低といわれている。
企業のITを支援する立場から、国内企業のDXの取り組み状況をどう見ているかとの小林の問いに対し、金澤氏はこう答えた。
「“2025年の崖”問題以降、デジタル化で業務効率化は一定程度進み、物流や建設業、医療業界などのいわゆる“2024年問題”への対応策としてもIT活用は進行しています。すでにITシステムの整理と運用コスト効率化の段階を終えた企業は多く、デジタル化で成果を上げた企業も多いのですが、顧客価値の創出、ビジネスモデルの変革についてはまだ不十分で、本来のDXに向けさらなる取り組みの深化が必要だと認識しています。実際、当社の独自調査では、企業規模を問わず、真のDXを実践できているとの回答は少数にとどまりました」

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では、なぜ日本企業の多くで真のDX、ビジネスイノベーションを実現できていないのか。金澤氏は、人材や技術の不足という状況はもちろんあるものの、前述した“何を”、つまりDXによって何を実現したいのかを、企業のトップが明確に語り切れていないことが最大の理由だと指摘した。

そのうえで、日本の文化や国民性も背景にあるとして、IPA「DX白書2023」の調査結果を引き合いに出し、こう語った。
「DXの成果が出ていると評価している企業は、日本が58%に対して、米国は89%と大きな開きがあります。こうした調査を踏まえつつ率直に言うと、保守的な文化や同調意識、既存プロセスへの執着といった日本人の気質が、変革の妨げになっていると考えられます。DXは競争優位性を求めるものですから、他社に抜きん出た何かを始める、前例のない新しいことに挑戦するといった姿勢が必要です」

そして陣頭に立つ経営者には、明確なビジョンを示すこと、変革に向けた覚悟を持つことが必要だとし、DXで実現したいことを徹底的に考え抜いたうえで、達成すべきKGIを明確にしなければならないと指摘。「達成すべきKGIが明確になれば、おのずと行うべきアクションや、アクションに紐づくKPIも明確になってきます。経営者が改革の先頭に立って描いたビジョンを社内に発信し、浸透させていくことで、変わることを恐れたり、嫌がったりする社員の意識や、組織に存在する保守的な文化を徐々に変えていくことができます」と話した。

変革に伴走するキヤノンITソリューションズの取り組み

小林は、金澤氏が話した日本企業のDXにまつわる課題の解決と真の変革について、伴走してサポートするキヤノンITソリューションズの取り組みに話を移した。金澤氏が答える。
「2020年に『VISION2025』を掲げた際、お客様の課題を共に解決し、お客様のビジネスゴールを目指す“共想共創カンパニー”という考え方を打ち出しました。ビジネス共創モデル、システムインテグレーションモデル、サービス提供モデルの3つの事業モデルを定め、その到達点を示すKGI、到達点に至るプロセスのKPIを共有しながら、各種の変革活動を進めています。変革に関するメッセージを私からことあるごとに社内発信し、従来ウイークポイントと感じていたマーケティング活動の変革に取り組んでいるほか、新サービス創出に向けた施策や、R&D部門の研究成果を新たなソリューションにつなげるルートの活性化にも力を入れています」

3つの事業モデルのうち、顧客企業のDX伴走者の立場としては、ビジネス共創モデルの取り組みを中心に推進。顧客のビジネスや経営への思いを深く理解して、DXビジョンの立案や、データ起点で意思決定できるDX実践企業への変革を支えている。「データドリブン経営を後押しするため、ビジネスデザインとビジネスサイエンスのチームを同組織に配置し、“攻めのDXへの支援”を進めています」と金澤氏は強調した。

こうした施策の背景として、金澤氏は独自調査を引き合いに出した。その結果には、DXに関してITベンダーに期待することとして、DX施策の実装・展開といった技術面の支援だけでなく、全社のDX戦略策定も上位に挙がっていた。また、ITベンダーの顧客ビジネスに対する理解不足やDX戦略に関する提言力不足が不満として挙げられており、「DXを支援する立場として、IT技術者としての高い能力があればいいわけではないことがわかりました」と金澤氏。「ビジネスに関する知見と、DX戦略・戦術に関する提言力を組み合わせ、お客様のDX、そしてビジネスイノベーションをサポートしていきます」と語った。

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ビジネスイノベーションの未来に向け、まず現在を切り拓く

実際に顧客の期待に応え、“共想共創”を実践できたサポート事例として、金澤氏は大手飲料メーカーと大手自動車部品メーカーの施策を紹介した。
前者は、経営環境の急速な変化と2024年問題に備えてロジスティクスの業務改革に取り組む中で、10年後のあるべき姿を描くところから参画し、高い評価を得た。現在も継続して持続可能な社会の実現に向けた活動に伴走している。そして後者は、大規模システム刷新プロジェクトのスタートにあたって顧客先に複数メンバーが3カ月常駐し、業務や既存の問題点を徹底的に理解して、提言につなげた。こちらもその姿勢が評価され、現在もDXパートナーとして支援している。
両社に共通するDX成功のポイントとして、金澤氏は、経営トップが何を目指すかを明確に方針付けしたことと、それを社内に浸透させてプロジェクト推進体制を構築したことを挙げた。

今回のフォーラムのテーマは、DXの総括と、その先のビジネスイノベーションだ。金澤氏はまとめとして次のように語った。
「現在進めるDXの“2周目”として本質的なビジネスイノベーションを実現するため、今一度自社のあるべき姿や目指すゴールを明確にし、そこに至る道筋でなすべきことを描いていただきたいと思います。その中で、時代に即した形で、あるいは先取りしながら、AIなどの先進技術を活用し、外部の知見を取り入れることも視野に入れていただければ。当社はゴールや“なすべきこと”を描くところからお客様に寄り添い、“共想共創”を実現していきます」

フォーラムではDX総括とビジネスイノベーションをテーマに、最新の技術トレンドや市場動向に踏み込む29のセッションが展開された。配信期間内(〜7月31日予定)はいつでも視聴できるので、DXの次なるアクションのヒントを得るため、ぜひ視聴してみてはいかがだろうか。

アーカイブ配信はこちら(2024/7/16~7/31)

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