日本の高齢化率は年々上昇を続け、総人口における高齢者の割合は2023年で29.1%。25年には30%以上、40 年には35%以上を越えると予想されている。一方で、高齢者の健康を管理する医療・介護の現場では、人材が不足し、十分な対応ができないなど深刻な問題が発生しているという。こうした社会課題を解決するためテクノロジーを活用するにあたり、ここではセンサーに着目してみたい。

その一例として、インフィニオンテクノロジーズの60GHzミリ波レーダーセンサーを搭載した見守りシステム「ミリ波レーダー生体情報検出システム」をフィンガルリンクが開発した。同製品の開発の経緯や狙いについて、フィンガルリンク株式会社の田村 泰弘 氏とインフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の浦川 辰也 氏に話を伺った。

  • (左)フィンガルリンク株式会社 第二開発事業部 部長 田村 泰弘 氏
    (右)インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワー&センサーシステムズ事業本部 センサーシステムズ & IoT 部長 浦川 辰也 氏

高齢化が進み、人材不足が課題となる介護の現場からの声が、製品開発のきっかけに

―― 製品開発のきっかけを教えてください。

田村氏: フィンガルリンクは南部医理科の子会社で、医療機器の開発製造を行っていますが、ある介護施設から、入居する高齢者の見守りを非接触でできないかという問い合わせがありました。というのも、少し認知症が進んだ入居者は体に着けた機器を外してしまうため、入居者の血圧や脈拍などの生体情報を非接触でモニターできないかというご相談でした。

非接触のセンシング技術はマイクロ波とミリ波のレーダー技術がありますが、マイクロ波は人が動くと検出が難しいため、人が動いても高い精度で検出できるミリ波レーダーを採用し、周波数帯については欧米で60GHzが推奨されていることから、60GHzを選択しました。

―― ミリ波レーダー生体情報検出システムはどのような製品ですか。

田村氏: 介護施設や住居の居室に設置して、対象者の血圧や心拍数、睡眠の質などを非接触で24時間計測します。計測した情報はクラウドで管理し、センサーにはインフィニオンの60GHzレーダーICを採用しています。

―― システムに搭載されているミリ波レーダーはどのようなセンサーですか。

浦川氏: レーダーは電波を出し、対象物から跳ね返ってきた反射を受けて、その差分でいろいろな情報を取ります。周波数はマイクロ波が30GHz以下で、ミリ波は30GHz以上になりますが、インフィニオンではマイクロ波で24GHzレーダー、ミリ波で60GHzレーダーの製品をラインアップしています。

当社の製品は、電波を送受信するアンテナまで内蔵しているため、IC1つで電波の差分を出力することができ、この差分信号からさらに信号処理をして必要な情報を抽出しますが、この部分でフィンガルリンクは独自のアルゴリズムを開発していて、呼吸、心拍数、睡眠の度合い、最新の筐体ではさらに水の反射量から排泄の状態まで把握できるようになっています。ただ体温は測れないため、フィンガルリンクのシステムは温度センサーを組み合わせています。

また、60GHzミリ波レーダーは周波数を広く振ることができるため、検出精度が高いことが特徴です。金属や水以外は透過するため、例えば布団に覆われている人の肌の動きもセンシングできます。さらにカメラとの比較では、カメラは画像を撮るため24時間計測するとなるとプライバシーが問題になり、扱うデータも大きくなってしまいます。一方、ミリ波レーダーは対象者の日常生活を変えることなく、服を透過して体表面の動きから生体情報を取ることができ、データ量も少なくすむため、非接触のセンシング技術として今、非常に注目されていると考えています。

―― システムの運用状況について教えてください。

田村氏: すでに北九州の施設で大規模導入が開始されています。1人1台ずつ各部屋に設置されており、24時間休まず6.4秒ごとにまとめて生体情報をサーバーに送ることができる仕組みです。

浦川氏: 通常の施設では検査のために、介護士が高齢者を1人ずつまわって回収する情報を、システムから自動で回収できるのです。

田村氏: これによって、介護士が24時間、特に夜間の見守りをする必要がなくなります。例えば介護士の数が7人だったところを5人に減らすことができますし、見守りがなくなると残業もゼロになります。施設側も大幅に人件費削減とコストダウンが可能になるのです。

自動車市場を牽引してきたインフィニオンが、量産品で培ったノウハウを医療・介護市場にも還元

―― フィンガルリンクがインフィニオンのセンサーを採用した決め手は。

田村氏: システムの開発は2019年から始めましたが、インフィニオンを含めて3社の製品を比較しました。そのなかでインフィニオンの製品を採用したのは、サイズが小さく性能が良かったためです。また、消費電力が低い点は特に大きなポイントで、消費電力が低いと発熱を抑えられます。発熱すると他の部品にも悪影響を及ぼすため、そこは重視しました。

浦川氏: インフィニオンは自動車用の半導体で非常に強く、自動車の領域でもレーダーセンサーが多く活用されています。過去10年以上、量産している実績があるため、性能を上げたり、安定して生産したりするノウハウは優れていると自負しています。自動車用のノウハウを民生用や産業用に展開できることがインフィニオンの強みのうちの1つであり、その点をフィンガルリンクにも評価していただいたと考えています。

田村氏: 今回はインフィニオンの製品のなかから自動車用の品質の高い 「BGT60ATR24C」を採用しています。

―― システムの製品化にあたってインフィニオンの既存の製品をそのまま使っていますか。

浦川氏: フィンガルリンク向けに特別に仕様を変えることはしていません。半導体は大量に作ることで製品の値段を安くできますが、カスタマイズすると大量に売ることは難しいため、コストメリットを考えて標準品を提供しています。そのうえで、フィンガルリンクが独自のアルゴリズムでシステムを作り上げているという形です。

豊富なレーダー製品群で社会貢献を続ける

―― 今回の製品はテクノロジーで社会課題を解決する一例だと思いますが、今後テクノロジーは社会にどのように貢献していくのでしょうか。

浦川氏: 高齢化がどんどん進んでいくなかで、テクノロジーを駆使して、高齢者向けのシステムを作っていく「エイジテック」や、介護向けのシステムを作る「ケアテック」の動きはこれからどんどん広がっていくと思います。

田村氏: 今回の見守りシステムは一部家電量販店でも一般向けに販売が始まりましたし 、エイジテック、ケアテックの動きは、高齢者向けの介護・医療分野にとどまらず、若年層向けのシステムにも広がっていくと思います。

浦川氏: そうしたなかで、われわれのテクノロジーを活用したシステムで、介護士の負担を減らし、その負担が減った分、より質の高い介護サービスを提供できる流れに貢献できると考えています。

田村氏: 高齢化社会、過疎社会に向けて、IoT技術を採用した、こうしたシステムが普及すれば、地方にいる高齢者の見守りも遠隔で可能になり、テクノロジーで高齢者を見守る社会をつくることができると考えています。

浦川氏: インフィニオンは自動車業界や民生分野など、いろいろな領域に半導体を供給してきましたが、そうした業界は半導体を使ったテクノロジーの進化をうまく活用し発展してきました。それらと比べると、医療・介護業界はまだテクノロジーをフル活用している状態にはなっていないと思います。

今回の製品開発では、自動車グレードの60GHzのミリ波レーダーをご採用いただきましたが、当社の他の製品群においても、まだまだ医療・介護業界に貢献できる領域はあると考えています。この領域は日本も含めた世界共通の社会課題だと捉えていますので、今回のセンサーソリューションを皮切りに積極的に貢献していければと考えています。

浦川氏: 今回のミリ波レーダーは呼吸数や心拍数が測れますが、音を取りたい場合はMEMSマイクがありますし、部屋のなかの CO2濃度を測るならCO2センサーで高い競争力を有する製品があります。こうした製品を有効的にご活用いただくことで、より良い介護現場をつくるお手伝いができると自負しています。

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ミリ波レーダー生体情報検出システム

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