• 写真①社会保険労務士法人スマイング 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

    社会保険労務士法人スマイング 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

あらゆる業種でデジタルトランスフォーメーション(DX)や働き方改革が推進され、多様性のあるワークスタイル・ライフスタイルが模索されるなか、企業の人事・労務業務は複雑化を続けています。リモートワークの浸透によるコミュニケーション不全や副業の可否、産後パパ育休制度への対応など、労務担当が抱える悩みは深く、業務負荷の増大にストレスを感じている管理職、担当者も少なくありません。

そこで本稿では、IT業界を中心に企業が抱える人事・労務の課題解決を支援している社会保険労務士法人スマイング 代表の成澤紀美氏に話を伺い、昨今の労務管理で顕在化している4つの悩みに対してアドバイスをいただきました。

社会保険労務士法人スマイング
代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏
SE(システムエンジニア)として業務系システムの構築に携わった際、労務業務に触れたことをきっかけに社会保険労務士としてのキャリアをスタート。1999年に社会保険労務士事務所を設立し、2010年には社会保険労務士法人スマイングとして法人化。主にIT業界の企業向けに人事・労務業務のワンストップサービスを展開し、労務担当の課題解決を支援している。

お悩み相談1:リモートワークに関するお悩み

《質問者:Aさん》
「リモートワークでも周りの動きが見えやすい環境を作るにはどうすればよいでしょうか? 従業員からは『コミュニケーションが取りづらくなったり周りの様子や感情が見えなかったりして孤立感を感じる』、管理職からは『部下の仕事ぶりが見えづらい・評価しづらい』といった声が挙がっています」

《Answer》「リアル」と「リモート」を分けて考えないことが大切

  • 写真②社会保険労務士法人スマイング 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

私たちが主に支援しているIT業界では、もともとリモートワークの導入が進んでいましたが、昨今のコロナ禍や働き方改革の推進による影響もあり、現在はあらゆる業種でリモートワークの導入が進んでいます。そのなかで労務業務の課題として表面化してきたのが、「コミュニケーションの問題」と「評価がしづらい」といった問題です。

「コミュニケーション面」では、新入社員や中途採用で入社して日の浅い社員が、リアルのコミュニケーションなしで業務に携わるようになり、それが原因でメンタル不調を起こしているという相談が増えてきていました。ビジネスチャットなどITツールの活用に比較的慣れているIT企業の社員でも、リアルなコミュニケーションは必要不可欠なのだと感じています。

昨今ではコロナ禍による制限も緩和される傾向にあり、フルリモートではなく週に数日のリアル出社を設ける会社も増えてきましたが、フルリモートのままコミュニケーション面の改善を図ることも可能です。たとえばVRオフィスの環境を構築したり、オンラインで朝礼・終礼を行ったりと、リアルなコミュニケーションに近づけるというアプローチがあります。

また、定期的に社員の悩みを聞いたり意見を交換し合う、座談会のような場を設けるといったやり方で、コミュニケーション不足や社員同士、上司と部下のすれ違いをある程度解消することができると思います。

一方、「社員の仕事ぶりが見えないため評価がしづらい」という悩みに関しては、評価の仕方を見直すことが必要です。私見になりますが、リアルの職場でも社員の仕事を四六時中見ている管理職はいないはずで、リモートだから仕事が見えないというのは違うと考えています。そのため、リアル・リモートに関係なく、どのような評価の仕方をすればよいのかを会社として詰めていくことが大事でしょう。

■テレワークに関するホワイトペーパー
「テレワークのコミュニケーション不全問題、どう解決する?」

お悩み相談2:社員の副業に関するお悩み

《質問者:Bさん》
「ここ最近、社員から副業を認めてほしいという声が増えてきました。ただ会社として副業を認めるかどうか迷っています」

《Answer》優秀な人材を採用するには副業の許可が効果的

  • 写真③社会保険労務士法人スマイング 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

副業を「認める」「認めない」の判断は会社の方針によって異なりますが、副業を認めたくない理由としては、情報漏えいやノウハウの流出、さらに労務管理の観点では、労働時間の管理が煩雑化するといったことが共通項になると思います。

個人的には、副業を認めるのであれば業務委託で認めるのが良いかと考えています。まったく異なる業種で副業を行うケースは少ないと思いますので、委任契約や準委任といった形で認め、そこで得たノウハウを会社に還元してもらうと考えればメリットも感じられるはずです。

ただし、労務担当の負荷が増えるのは確かで、労働時間の管理やワークフローについては考えなくてはなりません。また、業務委託にしない場合は労働時間の問題も出てくるため、気づかないまま労働基準法に違反している可能性もゼロではありません。そのため副業を許可する場合、人事労務担当はこうした法律面での対応もしっかりと考慮する必要があります。

また近年では、ITエンジニアの不足が深刻な課題になっていますが、採用の条件として、フルリモート勤務と副業の許可を求めるエンジニアが増えてきています。1つ目の質問で話したフルリモートを継続する企業が多いことにもつながりますが、優秀な人材を確保したいのならば、リモートワークと副業の仕組みを整備することが有効な一手となるのではないでしょうか。

お悩み相談3:産後パパ育休制度(出生児育児休業制度)に関するお悩み

《質問者:Cさん》
「産後パパ育休制度の創設で、男性の育休取得を認める必要がありますが、私の会社は中小企業ということもあり『人手が足りなくなる』『業務に支障が出るから取ってほしくない』といったマイナスな声も聞こえています。会社の文化や業務状況を考慮しながら取得できる環境を作るにはどうすればいいでしょうか?」

《Answer》不安を解消して育休制度を利用しやすい環境を構築

  • 写真④社会保険労務士法人スマイング 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

現代のパパ・ママ世代は考え方も進歩的で、家庭を大切にされている傾向が見てとれます。その意味では産後パパ育休制度は非常に有効なものといえますが、それでも男性社員からは「長期間休んでしまうと、その後が心配」といった声は寄せられます。

こうした不安に対しては、会社側が男性社員に対して安心感を与えるような対応をきちんとする必要があるでしょう。「制度をしっかり利用して、育児を楽しんで、会社に戻ってきてください」というメッセージを明確に打ち出し、そのための環境を整備することが、これからの時代には必須になってくると思っています。

たとえば、ある会社では、育休を取った男性社員が在籍している部署の社員に対して、“育休をサポートしている手当”を支給するという制度を設けています。こうした仕組みを導入すれば、育休を取る側のストレスを軽減すると同時に、同じ部署の社員にかかる業務負荷増大のストレスも減らすことができると思います。また長期休暇でなく1週間や数日単位の休みを複数回に分けて取得するのも、業務とのバランスも取れるので有効です。

■産後パパ育休制度に関するホワイトペーパー
「妊娠・産休・育休の給付金/制度の申請がよくわかるガイド」

お悩み相談4:労務担当者の評価に関するお悩み

《質問者:Dさん》
「労務の仕事は、給与計算や勤怠管理といった定例業務を、ミスなく行うことはまず大前提にあります。しかしここ最近は、働き方改革やリモートワークなどに対応するための業務が増えて、以前と比べて業務の負荷が大きくなった気がします。果たして自分の仕事が適正に評価されているのか不安です」

《Answer》新たな評価軸を設定して労務の仕事を能動的なものに変えていく

  • 写真⑤社会保険労務士法人スマイング 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

スマイングでは人事評価制度の支援もしていますが、労務担当の評価は非常に難しい領域です。評価軸がしっかりしている現業に携わる方と比べて、労務担当者は定量評価が難しい側面があります。定性評価でも漠然とした評価項目になっているケースが多く、評価されるにはどうすればよいのか悩む労務担当者も少なくありません。

給与計算や勤怠管理といった定例業務は“ミスがあってはいけないもの”で、間違いがなくて当たり前。このため、ミスなく仕事をすることだけに注力する労務担当も多いかと思います。本来、人事労務の仕事は“会社をよくしていきたい”、“社員が働きやすいようにしていきたい”といったモチベーションを持つことが重要と考えているのですが、現状としては「定例業務を行っていればいい」という受動的な担当者も少なくありません。

そのなかで人事・労務担当をどう評価していくか。もちろん会社の考え方にもよると思いますが、個人的には人事・労務の業務は「会社全体を底上げするもの」と捉えており、たとえば「会社の利益がこれだけ上がった」「離職率が下がっている」「女性社員の活躍が増えている」など、会社にどれだけ貢献できているかを、評価軸に含めるようなアドバイスをしています。

労務の仕事は法制度から社員一人ひとりの人生まで、幅広い領域に及んでおり、複雑である一方で、非常にやりがいのある仕事だと思っています。その意味でも、労務担当者には、自身の業務を受動的なものと捉えるのではなく、いろいろなことに興味を持って、能動的に業務を推進していく姿勢を持っていただきたいと考えています。

新しい働き方に合わせた労務管理の在り方とは

現代の労務担当者が抱える4つの悩みに対する成澤氏のアドバイスからは、これからの人事・労務のあり方が垣間見えました。

「私たちが支援しているお客様の多くは、自分自身で“答え”を持っていて、それが正しいのか不安に感じて相談をいただくケースがほとんどです。それに対して背中を押したり、もしくは明らかに間違っていれば指摘したりと、企業の労務担当と目線を合わせた支援をしていきたいと考えています」と成澤氏。

社会保険労務士である自身を「法律家」ではなく「実務家」であると語り、これからも労務の仕事に寄り添っていきたいと力を込めています。

「労務管理は、社員一人ひとりに寄り添う必要があり、同じ事象でも回答は社員ごとで変わってきます。ある意味、唯一無二の回答がない世界で、法律の変更などにも対処する必要があり、継続的な知識のブラッシュアップが不可欠です。昨今では、ChatGPTをはじめAIサービスの活用が加速していますが、これからの労務管理には、こうした技術を上手に使っていくことが必要になるのではと考えています」

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