日本において、外国人材の活躍が必要不可欠となっている昨今だが、その一方で、来日する外国人社員にとって、日本は言語や慣習等の障壁が高く、定着率が低いことが経営者・担当者の課題となっている企業も少なくない。エンプラス が3月17日に開催した「外国人社員が日本で定着するためのノウハウとは?~受入支援で差がつく。外資系企業が取り組む常識を紹介~ 」と題したウェビナーでは、同社代表取締役社長の雲下加奈氏がファシリテーター役を務め、お笑い芸人の古坂大魔王氏と、Wolt Japan (以下、Wolt)の人事責任者を務める民部直章氏をゲストに迎え、それぞれの経験談を交えながら、外国人社員を受け入れる際の課題や解決に向けたヒントやノウハウが語られた。
日本における外国人社員の現状について
ウェビナーを主催したエンプラスは、海外赴任や海外間異動、外国人の受け入れなど、国を超えた人材の異動に関わる複雑な手続きから滞在中の生活までをトータルにサポートする事業を展開している。2004年の創業以来、延べ8,000社を超える企業が同社を利用している。
まず雲下氏は、訪日外客数について解説。コロナ禍での約3年の間は鎖国状態となっていたものの、最近では少しずつ入国制限が解除され、速報値では今年の1月で150万人ぐらいまで回復しているとのことだ。※1また雲下氏によると、日本で働く正社員の外国人500人に実施したアンケート結果からは、多くの外国人労働者が職場で孤独感を持っている実態が示されている。※2
雲下氏は「日本に優秀な人材を呼ぼうという動きがある中で、『私のことを本当はよくわかってくれる人はいないのではないか』、『孤立しているのではないか』、『無視されているように思う』などと感じてしまっている方々が、実はこれだけ多くいるというのが実情です」と説明する。
現在、フィンランドを本社とするフードデリバリー事業を展開するWoltで日本オフィスの人事責任者を務めている民部氏。大手外資系企業の人事に携わる仕事を20年以上にわたって歴任してきた経歴を持つ。外国人の受け入れを長年行ってきた立場からアンケートの結果について次のように話した。
「コロナ禍の鎖国状態が続く中で、事業を伸ばしていくためにも人材の確保は重要です。もちろん、日本に優秀な方はいらっしゃるのですが、より即効性をもって適材適所で採用するとなると、海外に目を向ける選択肢は当然あります。当社もフィンランド発祥の会社ですので、日本での事業が次のステップに進む際は、本社勤務の社員に日本に来てほしいとお願いをする場合もあります。ただ一方で、来日してきた人材をサポートできているのかというと、 難しいと感じる状況があります。Woltはまだまだ新しい会社で、外国人社員の受け入れ態勢が万全とは言い切れず、このアンケート結果を見て心が痛みます。人事担当者としては、どうすれば本当に良いシナジーが生まれるのかを、人材の流動性含めて考えていく必要がありますね」(民部氏)
文部科学省のCCC大使、総務省の異能vation推進大使としても活動している古坂氏。プロデュースしているピコ太郎は約世界20ヶ国のテレビ局やライブ会場などから招かれ、訪問した経験から、言葉の壁や文化を乗り越え、現地の人たちに受け入れられるポイントを次のように語った。
「私が海外をまわる際に重要だと思っていることは『現状を知ること』です。事前にその国の風習やNGワードなどを調べて、まずは訪問する国のことを知ろうと心がけていました。実際に現地に赴いて感じたのは、『国対国』ではなく『人対人』の関わり合いなのだということです。やはり、一番大きな壁は『言語』にあると感じます。日本はどこにいっても日本語が使われるのが基本です。たとえば、多くの方は英語の番組を見ませんし、英字新聞も読まない。だから海外への理解も深まりにくいのではないかと思います。言語や文化の壁を乗り越えるためには、国を超えて人対人であることを実感し、敬意を表して最低限の言語や風習を知るということがとても重要だと思います」(古坂氏)
外国人社員が直面する壁と、あらゆる問題に向き合いサポートをおこなうエンプラス
世界規模で日本から海外、海外から日本へと人材を流動化させているグローバルな外資系企業は、日本企業よりクロスボーダーで運用することに慣れており、一定のサポートをすることが当たり前だと思われている現状がある。しかし、実態としては、外資系企業であってもまだまだ手探りの状態だという。民部氏は自社の実態を次のように話した。
「海外から来る、もしくは海外に向けて人を出す経験がそれなりにあり、うまく回していらっしゃる企業は一定数あると思いますが、まだまだ大部分の企業ではどうすればいいのかわからないのが実情なのではないかと思います。Woltの場合は、エンプラスとご縁があり、どのように段取りしていけば良いのかを学びながら進めていますが、外資系も日系企業も、そういったサービスプロバイダーがあること自体を知らないケースも多いのではないでしょうか。ワンストップでサポ―トをしてくれるプロの方に協力を仰ぎながら、受け入れる側の器をある程度きちんと固め、そこにうまく人を送り込み、良い体験をしてもらって、その方々が本国へ戻ってさらに活躍する、といった動きになっていくのが理想的だと思います」(民部氏)
また、民部氏はWoltがエンプラスにサポートを依頼したきっかけや理由を次のように明かす。
「エンプラスは、外国人が来日する場合に抱える問題をきちんと理解されていると思います。たとえば言語の壁、住居、銀行口座の開設など、生活基盤を整えることに対する不安を多く抱えていることを実情としてよくわかっていて、問題や解決策の具体例をたくさん知っているため、安心して任せることができました。機械的に対応するのではなく、プロアクティブに人事とやり取りをしてくださり、さらに追加の支援を提案してくれたことも信頼できるパートナーだと感じた点になります」(民部氏)
雲下氏は、来日した外国人が抱える問題について具体例として次のように説明した。
「たとえば、日本語ができないだけで家を借りられなかったり、手続きが煩雑だったりすることがあります。日本の場合は、同姓パートナーとの同棲に対する規定も厳しく、一緒に住みたいのに住めないなどの問題もありますね。言葉が話せる話せない以前に、人種のことを賃貸のオーナーさんに聞かれてしまうケースもありました」
一方、企業風土や制度面における外資系企業と日系企業の違いや自社の状況について、民部氏は次のように話す。
「サービスプロバイダーも含めて、どういうパートナーと一緒に進めていくべきかを一生懸命考えて、最終的に良いサービスを社員に対して提供できているというのが、それなりに歴史のある日系企業の状況なのかなと思います。外資系企業については、我々の会社にフォーカスしてお話しすると、まだまだ創立して時間が経ってないので手探りの部分が多く、『社員の流動性とは』というところから始まり、『どうやって人を受け入れるのか』など必要なことを一つ一つ洗い出しているところです。当社の場合は、ようやくフィンランド本社にグローバルモビリティチームという組織ができたので、次はその組織の枠の中に何を入れて行くのか、ということを順番に進めている段階です。実はエンプラスに、来日する社員10名ほどのサポートをお願いしたのですが、リロケーションのサポート範囲や金額はどれくらいが妥当なのかといった相場観やルール決めなど、サービスのパッケージを協同作業で作り上げているところです」(民部氏)
外国人社員の受け入れのために、企業が心がけるべきこと
雲下氏によると、日本で働く外国人にとって「サポートがあるかないかが内定を受けてくれるかどうかの一つの基準になっている」とのこと。「もちろん企業によっては、外国人の方が日本に来る場合のサポート内容について採用ページに記載しています。しかし、日本は英語がほとんど通じない国なので、実際に日本で働くハードルは想像以上に高いと思います。そのため、やはり企業の制度や外国人社員の受け入れ風土の醸成が重要になってくると思います」。民部氏も「やはり契約内容を明確にすることは大切ですね。日本ではどうしても曖昧になってしまう部分も、海外の方の場合は事前にどういう契約になっているかについて真剣に見られていると感じますから、それに対して我々もきちんと答えられないといけないですね」と続けた。
意識しておくべきポイントとして、オフィス環境の常識の違いも指摘された。「海外の常識のまま日本に来ると、いざ入社してみたら、『デスクが個室ではなかったことで熱が出そうになった』『人に見られて仕事できない』という声もあります。日本の企業だと当たり前のことですが、そういった些細なことが大きなバリアになってしまったこともあります」と雲下氏。
古坂氏も「もちろん、海外の常識や文化には、そうしないといけない歴史があったのだと思います。言葉も宗教も違う環境下ですから。だから私たちはそれを受けて、これまでの自分たちの文化を全部壊すというのではなく、変わらなければならないという意識が大切だと思います」と続ける。
獲得した人材を定着させるために企業が押さえるべきポイント
エンプラスでは、日ごろから外国人の社員の受け入れをする企業向けにセミナーを開催している。雲下氏は、以前講師として登場した、東京経済大学の小山健太准教授による「外国人材が定着するために受け入れ企業が準備すべき3つのポイントを紹介した。
1つ目は、外国人材の採用目的と、配属・育成を連動させること。雲下氏は「外国人だからということよりは、ダイバーシティでさまざまな方を受け入れる企業を作るということが前提ではありますが、どうしてこの方を採用したのか、どういう目的で働いてもらうのか、キャリアプランをどう育成しようと考えているのか、というところまで示す必要があります」と解説した。入社後、配属先が転々と変わる文化は日本企業特有とのことだ。
2つ目は、外国人材の個性を活かすことができ、かつ組織活性化につながる役割(アサインメント)を設定することだ。せっかくやる気があっても、自分の持つ能力を活かせないと感じてしまったり、組織における役割が曖昧になってしまったりすると、結果的に思う存分行動することができず、やがてそれが不安につながってしまう。
3つ目は、外国人材を中長期(入社後5年程度)に継続してサポートするメンターをつくること。この点に関して雲下氏は、「先ほどの孤独感の解消にもつながってくると思いますが、中長期、できれば5年程度まで見据えて、何かあった時に仕事以外のことも相談できるような方、いわゆるメンターがいることで、定着率がぐっと上がります。そうすることで、自分は孤独ではない、という安心感につながるといった研究結果があります」と語った。
以上に記載した通り、本ウェビナーは、これからさらに加速していくであろう日本での外国人社員の受け入れに対し、現実的な問題を知ることができる内容となっている。本記事では書ききれなかった少子高齢化問題に対する出演者の見解や視聴者からの質問に答えるQ&Aセッションについては、ぜひアーカイブ配信でウェビナー全貌を視聴し、確認していただきたい。
※1出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計(報道発表資料)月別推計値(参考日:2023年3月31日)
※2出典:パーソル総合研究所(2020)「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査 結果報告書」 (参考日:2023年3月31日)
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