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株式会社マイナビ TECH+セミナー運営事務局が主催のWebセミナー【JumpOver(ジャンプオーバー)】第三弾のスペシャルスピーカーは、野球日本代表トップチーム「侍ジャパン」監督、北海道日本ハムファイターズ前監督の栗山 英樹氏。

ゴールデングラブ賞を受賞した高い守備力とシェアなバッティングを武器に、ヤクルトスワローズで活躍した栗山 英樹氏。ヤクルトスワローズ退団後は、野球解説者・スポーツジャーナリストとして野球界での活動を続け、2012年に北海道日本ハムファイターズの監督に就任。1年目からチームを優勝に導くなど指導者としての能力を開花させ、2016年にはチームを日本一へと導いている。 本稿では、モデレーター役の株式会社マイナビ TECH+編集長 星原 康一との対談形式で行われた、7/26(火)配信のセミナーについてレポートする。


―― プロ野球の監督というと、コーチや二軍監督などを経て就任するイメージがありましたが、栗山氏は解説者・スポーツジャーナリストからいきなり監督に抜擢されたイメージがあります。どのような経緯で北海道日本ハムファイターズの監督に就任されたのでしょうか。

栗山氏
『現役選手としてのキャリアを終えたときには、「たいした実績もなく、一人前になれなかった」という悔しさがあり、「もっと野球を勉強したい、人並みになりたい」という思いでスポーツメディアの世界に足を踏み入れました。その当時は監督をやりたいという気持ちはまったくありませんでしたが、将来的に監督になってもおかしくない自分になりたいという思いで20年間を過ごしてきました。とはいえ、まさか本当に自分がプロ野球チームの監督になるとは思っていなかったので、北海道日本ハムファイターズから話をいただいたときには本当にビックリしました。僕のことをよく知っている人たちからは「まさか、それはないだろう」と驚かれましたが、一番驚いていたのは自分だったと思います(笑)』

―― 一般企業でもそうですが、外部からいきなり管理職として組織に参加するのは非常に難しいミッションだと思います。周囲の反発などはありましたか?

栗山氏
『これまで60年間生きてきて、一番しんどかったのは監督1年目の2012年で、これは一生変わらないと思っています(笑)。監督としては相手チームと勝負することになるのですが、それ以前に、自分のチームの選手・コーチ・フロント、さらにファンの方たちからの「お手並み拝見」どころではなく「さあ、あんたは何をするんだ?」的なプレッシャーに対処する必要がありました。自分の何百倍の年俸をもらっている選手に対し、チームのために力を尽くしてもらうよう働きかけなくてはならず、「心を動かすこと、本当に一生懸命にやってもらうこと」の難しさを実感しました。サイン1つ出しても「ここでエンドランですか?」と全員から問われているような雰囲気の中で、まずは結果を出していかないと信頼してもらえない。もしかしたら、自分が勝手にプレッシャーを感じていただけかもしれませんが、そういう毎日でした。あの1年だけは10年くらいに感じましたね(笑)』

―― 監督に就任して最初に行ったことは何でしょうか。

栗山氏
『全選手を集めて話をするところからスタートしました。結局のところ話した内容はたった1つ、「人に迷惑だけはかけないでくれ」ということだけ。当たり前のことですが、責任を持って野球をやってくださいということです。その後は、全選手と個別面談をその日のうちに行いました。3時間以上かかりましたが、本当に実績のある選手が僕の話を一生懸命に聞こうとしてくれましたし、自分自身の思いも一生懸命話してくれました。そのときは緊張しすぎて感じませんでしたが、あとから振り返ってみると「真心を持ってぶつかっていけば、その内容が相手に刺さらなくても、その真剣さに関しては受け止めてくれる」ということを実感しました。ちなみに、翌年から大リーグに行くことがほぼ決定していたダルビッシュ有選手も最後まで残ってくれて、チームに必要なことなど、いろいろなことを話しました』

―― どんな試合展開だとしてもベンチ内では表情を変えていなかったのが印象的でした。

栗山氏
『監督になって、表情の練習はたくさんしました(笑)。たとえば、9回1点リードでツーアウト満塁、カウントスリーツーでフォアボールになれば同点、そんなときも「全然大丈夫」という表情で見ている。そこで押し出しになった瞬間、テレビカメラがこちらを向くわけです。投げているピッチャーの家族が見ているかもしれない映像で「あちゃー」という顔をするわけにはいかないですよね。そういった部分は常に気を付けていました。監督時代の最後の3年間はなかなか勝てなくて「暗い」とか「元気がない」とかいろいろ言われましたが、たとえばチームが負けているのに僕が笑ってしまうと、チーム全体が緩んでしまうかもしれない。僕がどう言われようと、チームのほうが大切なので、個人的な思いで笑うことはできなかったです。どんな企業でも、部下を持つ方はある程度同じような思いを持っておられるのではないでしょうか』

育成と勝利は共存できる、それが10年間監督をやってきて得られた“解”

―― 監督未経験者が1年目にチームを優勝に導いた例は少ないと思います。成功の秘訣はどこにあったのでしょう。

栗山氏
『どんな仕事でも同じだと思いますが、たとえば上司が替わると、メンバーの評価が一度真っ白になるじゃないですか。これまで違った側面を見てもらえるとメンバーも頑張れる。監督は選手のことを探り、選手も監督のことを探る、その緊張感が集中力を高めていったことがリーグ優勝の原動力になったのではと考えています』

―― 2年目には、現在は米国で活躍する大谷翔平選手が入団しています。

栗山氏
『チームとして、いろいろな条件を提示していくなかで、僕も何度か話をさせてもらいました。ジャーナリスト時代に接点があったこともあり、「メジャーリーグに行きたい」ではなく「米国で活躍したい」と表明した彼ならば、僕らの思いをちゃんと聞いてくれるのではないかと思っていました。メジャーで活躍したいのならば、まずは日本でこういうことをやって、メジャー契約して行くべきという道筋をチームとして説明し、理解してもらえたと思います。僕自身は「北海道日本ハムファイターズに来てください」とは一度も言いませんでした』

―― 監督として、二刀流にはどのような思いを持っていましたのでしょうか。

栗山氏
『よく仕事でも「現場にしか答えはない」と言われますが、彼の高校時代のバッティングとピッチングを現場で目の当たりにしていたので、僕の中でどちらかに絞るという選択肢はゼロでした。前例がないため周りはいろいろと言いますが、これだけすごいバッターにバッティングをやめろ、これだけすごいピッチャーにピッチングをやめろと誰が言えるんですかと(笑)。そう言える人を逆に見てみたいという感じでした。実際、入団してからの5年間、彼が二刀流をできないと感じたことは一度もありませんでした』

―― 大谷選手をはじめ、現在も野球界で活躍する選手を育てられていますが、どういった考えで選手を指導されてきたのでしょうか。

栗山氏
『「この選手は将来チームの中心となる力を発揮できる」と感じたら、育てるという選択肢しかありません。目の前の勝利も、もちろん重要なので、そことのバランスを取りながら育成に対する投資を考えていきました。企業でいえば、赤字にすることなく、数年後に若手社員がビジネスの中核を担える環境を整えるという感じでしょうか。育成に関しても正解というものはないので、「その選手のためになるかならないか」だけを判断基準にしました。こういう話をすると「選手個人が育てばチームが勝たなくてもいいんですか」という声も出ると思いますが、関係者全員が選手のためになることを考えていれば、それは必ずチームの勝利にもつながる。育成と勝利は共存できるというのが、僕が10年間監督をやってきて得られた答えです』

苦しい状況をチャンスと捉え、失敗や悩みから重要な“気づき”を得て成長していく

―― 2022年からは侍ジャパントップチーム監督として活動されておられます。試合は中止になってしまいましたが、今年3月には大学生を代表メンバーに選出するなど、若手中心のチーム作りを進めています。その意図はどこにあるのでしょうか。

栗山氏
『さまざまな組織がある野球界は、なかなか1つにまとまりにくい印象がありますが、野球に携わるすべての人の思いが1つになって、侍ジャパンとして戦わなければ、今のレベルの米国代表との勝負は難しい。プロ・アマ関係なく、「野球人の夢を果たす」という責任が侍ジャパンにはあるので、そういったところも踏まえて選手を選びました。正直なところ、2020年はコロナ禍や東京五輪の影響もあってプロ野球のシーズンが長くなり、その当時、監督として見ていて選手たちが疲れ切っていることを感じていました。そこから翌年3月の試合に合わせてコンディションを整えるのは大変なので、この2試合を将来の日本のためにと考えて若手中心のメンバーを先取したという経緯もあります』

―― プロ野球チーム、代表チームの監督を務められた経験を踏まえ、一般企業も含めた「組織」の方向性についての考えをお聞かせください。

栗山氏
『当然ながら、絶対に勝つという大前提のもとに全員で進んでいくことが重要で、他の要因は省いていくべきだと思います。監督の立場としては、結果的に勝てなかったときでも選手が人として成長していることに喜びを感じていましたが、それは表に出さない僕だけのテーマです。それと、同じで組織内でも価値観の時間軸は異なります。プロ野球チームでいうと、フロントは10年単位で見ていますが、選手やコーチは基本的に今年しか見ていない。僕は監督として3年先を見据えた時間軸で考えており、選手やフロントとは価値観と判断基準が違うため、意見が合わないのは当たり前でした。これは一般企業における、上司と部下の意見が違う要因でもあると考えています』

―― 最後に、指導者として悩んでいる方、夢を追う方へ向けてアドバイスをお願いします。

栗山氏
『僕自身も、監督、指導者としてすごく迷って、悩み続けてきました。10年間やらせてもらっても本当の答えは出ませんでしたが、結局は「人を育てる」のではなく、「人が育つのを手伝う」しかないと実感しています。なので、部下の育成も悩み過ぎずに取り組んでいただければと(笑)。また、全部がうまくいってたら、何となくそれでいいと思ってしまいがちですが、失敗したり、悩んだりするところから知恵や気づきが生まれると捉えれば、苦しい状況は成長するためのチャンスになります。そういう考え方でいれば、嫌なことや苦しいことがあっても頑張れるのではないでしょうか』

  • 栗山氏と星原

    右:野球日本代表トップチーム「侍ジャパン」監督 栗山 英樹 氏
    左:モデレーター役 株式会社マイナビ TECH+編集長 星原 康一

栗山氏のセミナーを受け、新しくリーダーに抜擢された方、指導者として悩んでいる方など、自分が抱えている課題を解決するためのヒントが得られたのではないだろうか。

JumpOverは、各界で活躍してきた方々に、どのようにしてご自身の壁を乗り越えてきたか、考え方やメンタルの保ち方、これから先を見据えたビジョンなどについて、ご自身の経験をもとにお話しいただくことで「さまざまな業界や立場の方の話を聞きたい」「自分にない考え方や知識を身につけたい」「もっと成長したい」と思っている方へ、これまでの自分を「飛び越えて」大きく成長できるような、気付きや学びが得られるきっかけの場となることを願い、開催している。開催第四回目のスペシャルスピーカーにも期待したい。

[PR]提供:株式会社マイナビ TECH+セミナー運営事務局