AIが見守る大人気イベント ── 映像解析で混雑管理や施設防犯を実現

商業施設やイベントにおいて、効果的なマーケティング戦略を立てるために、これまで多くの企業がさまざまな手法で来場者の分析に取り組んできた。昨今では新型コロナの流行を受けて三密対策が求められ、施設内や場内の混雑状況の把握がより重要視されている。

そうした中で、横浜赤レンガ倉庫ではAIを活用した映像解析技術を導入し、リアルな混雑状況に応じた柔軟な入場制限を行い、”安全なクリスマスマーケット”を実現したという。本稿では、横浜赤レンガ倉庫の担当者と、「映像解析エッジAIプラットフォーム」を提供するEDGEMATRIXの担当者に、実証実験の様子についてお話を伺った。

歴史ある横浜赤レンガ倉庫。春夏秋冬、楽しいイベントを開催

横浜赤レンガ倉庫は、明治政府が横浜税関新港埠頭倉庫として明治末期から大正初頭にかけて建設した横浜市認定歴史的建造物である。1989年に保税倉庫としての役割を終えたが、2002年に付近一帯を含めて商業・文化施設および公園として修復・整備され、横浜市を代表する人気の観光地として復興を遂げた。1913年に竣工した1号館には土産店のほか、展示スペースやホールが整備され、ギャラリーやイベントスペースとして活用されている。1911年に竣工した2号館は飲食店やファッション雑貨など60を超えるショップが軒を連ねている。

1号館、2号館に挟まれた広場はイベントスペースとして活用されており、さまざまなドイツビールを楽しめる「横浜オクトーバーフェスト」やドイツ式のクリスマスを体感できる「クリスマスマーケット in 横浜赤レンガ倉庫」など年8回予定されている人気イベントのほか、多様なイベントも不定期に開催されており、年間を通して多くの観光客が訪れる。

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株式会社横浜赤レンガ
取締役副社長兼イベント事業部長
小山周二氏

「2021年には横浜赤レンガ倉庫イベント公式アプリをリリースしました。最新のイベント情報や会員限定の特典・クーポンをお届けしています。昨今ではIT活用に注力しており、たとえば混雑状況などのリアルタイムなイベント情報を来場者に提供したり、効果的なマーケティング施策を実践したりと、さまざまな活用方法を考えています」と、横浜赤レンガ取締役副社長兼イベント事業部長の小山周二氏は述べる。

新型コロナでも安心して楽しめる。映像解析で混雑管理

2020年以降に蔓延した新型コロナウイルス感染症は、横浜赤レンガにとっても大きな影響を及ぼした。人気のスポットゆえに感染症対策が欠かせず、横浜市からも厳格な対応を求められるようになった。食事や飲酒を提供するイベントも多いため、来場客が安心して楽しめる会場作りに取り組む必要があった。

もともと横浜赤レンガでは、コロナ前から来場者数や混雑状況、来場客の属性などの情報を収集する手法を模索していた。従来のような手作業のカウントはもちろん、最近ではモバイルキャリアのユーザーデータやBluetoothビーコンなどを活用した分析を試していたが、より正確かつリアルタイムな情報を得たいと考えていたという。

株式会社横浜赤レンガ
イベント事業部リーダー
小林康一郎氏

そこで注目したのがAIを活用した映像解析技術だ。会場内に設置したカメラで来場者を撮影すると、その映像をAIで分析して来場者数や混雑状況、来場者の属性などを分析してくれる。この技術を活用すれば、より効果的なコロナ対策を実現しつつ、イベントをさらに盛り上げることができるかもしれないと考え、導入が進められたのが、EDGEMATRIXが提供する「映像解析エッジAIプラットフォーム」だ。

「映像解析エッジAIプラットフォームは、いち早く実証実験を開始してノウハウを蓄積し、映像解析技術を洗練させていました。さらにEDGEMATRIXは現場工事を担当する組織を持ち、立案・準備・解析までワンストップでサービスと提供している点も魅力でした。また会場側の機材で分析処理を行うため、来場者の顔映像などプライバシーに関わるデータがクラウド側にアップロードされないという点も、私たちの方針にマッチしていました」と、横浜赤レンガイベント事業部リーダー兼横浜赤レンガ倉庫共同事業体小林康一郎氏は述べる。

現場工事から分析システムまで、映像解析AIをワンストップでサービス

横浜赤レンガでは、まず2021年10月に開催されたドッグマルシェ「イヌイチ」でカメラの設置方法や分析精度などを事前検証したのち、2021年12月の大イベント「クリスマスマーケット in 横浜赤レンガ倉庫」で本格的な活用方法を試験した。

映像解析は、カメラの画角や明かり（日光）など、さまざまな要素で分析精度が大きく異なってしまう。また、両イベントは開催直前まで会場設営工事が続いていたため、機材を設置できるタイミングは1日しかなかったという。

「EDGEMATRIXは工事専門の組織を持ち、他の設営事業者とも連携してスムーズに機材を設置してくれました。ドッグマルシェで確認した課題をすみやかに修正し、クリスマスマーケットでは高い精度で分析できるようにカメラの角度や高さを細かに調整していたことが印象的です。特に混雑分析は、手作業でカウントした来場者数と比較してみたところ、その高い精度に驚きました。EDGEMATRIXのサポートはスピーディかつ的確で、私たちのやりたいことをしっかり受け止めてサービスの提案や提供に努めてくれたと感じています」（小林氏）

クリスマスマーケットの様子
環境に応じて高さや角度など細かく調整されているカメラ

EDGEMATRIX株式会社
エンジニアリング本部フィールド技術統括部
FE&CS部シニアマネージャー
長谷川直之氏

クリスマスマーケットでは、入口で指定したラインをまたいだ人を数える「ラインクロスカウント」のほか、カメラに収められた来場者を数え、その情報をWebサイトなどで公開できる「混雑案内パッケージ」、クリスマスツリーなど夜間に閉鎖する領域への侵入者を検知する「施設防犯パッケージ」を採用した。

正確に来場者数や混雑状況をリモートで把握できるようになり、リアルタイムにイベント施策を見直せるようになったという。たとえば、休日の有料チケットの発券制限を緩和したり、混雑緩和の打ち手を検討したりといった具合だ。

「防犯パッケージは警備会社と連携し、夜間に侵入があると警備員のスマートフォンへアラートが発せられる試験を行いました。明かりの少ない夜間は映像解析の難易度が増すため、将来の参考になるデータが取れたことは大きな収穫といえます」と、EDGEMATRIX エンジニアリング本部フィールド技術統括部 FE&CS部シニアマネージャーの長谷川直之氏は述べる。

大人気イベントを見守るAIに横浜市も太鼓判

横浜赤レンガでは、2022年以降も冬の「YOKOHAMA STRAWBERRY FESTIVAL」、春の「FLOWER GARDEN」、夏の「RED BRICK BEACH」、秋の「横浜オクトーバーフェスト」など、さまざまな来場客に楽しんでもらえる催しを計画している。また広場やイベントスペースを貸し出しており、年間を通じてさまざまなイベントが開催される。

2022年1月に開催された「鍋小屋2022」の様子

コロナ禍はイベント主催者にとって強い逆風であったが、安全かつ安心して楽しむことができ、「また来たい」「ほかのイベントにも参加したい」と思ってもらえるように、できうるかぎりの対策を講じたいとしている。EDGEMATRIXの映像解析エッジAIプラットフォームがその一助となると、実証実験を通じて確認できた。

「映像解析は、私たちイベント主催者にとって重要な技術だと捉えています。これまで混雑を管理する手法が確立していなかったため、感染症対策には特に有用です。2022年1月に開催された『鍋小屋2022』の混雑管理に映像解析を導入したところ、神奈川県らマスク飲食実施店と同等の感染症対策を行っていることを認められ、酒類を提供することができました。『YOKOHAMA STRAWBERRY FESTIVAL 2022』でも混雑管理にEDGEMATRIXを採用し、円滑なイベント運営に役立てたいと思っています。飲食イベントでは、会場内のサイネージで空席案内などができるとよいですね」（小山氏）