東京工業大学(以下、東工大)がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのシステム基盤の構築に取り組んでいる。IR(Institutional Research)の取り組みを推進する過程で、学内情報一元化は避けて通れない。それを実現するため、株式会社ユニリタの「Ranabase」と、住友電工情報システム株式会社の「楽々WorkflowII」を採用。この取り組みで得た業務可視化のノウハウや業務改善の方法論を全学へ展開中だ。それぞれの製品を導入した狙いと効果について、戦略的経営オフィス・情報活用IR室に話を聞いた。

日本最高の理工系総合大学が抱えたIRとDXの課題とは

東京工業大学がデータ活用に向けたIRの取り組みを加速している。IRとは、大学内外のさまざまな情報の収集・分析を行い、執行部の意思決定を支援する取り組みのことだ。企業におけるデータドリブン経営やDXの取り組みに近い役割を担う。東工大は、創立から140年を越える歴史をもつ国立大学であり、日本最高の理工系総合大学として知られる。大岡山、すずかけ台、田町の3つのキャンパスに学士課程約5,000人、大学院課程約5,500人の計約1万500人の学生が学び、約1,100人の教員と約600人の職員が在職する。

  • 東京工業大学 戦略的経営オフィス・情報活用IR室教授 森雅生氏

    東京工業大学 戦略的経営オフィス・情報活用IR室 教授 森雅生氏

IRを管掌する戦略的経営オフィス・情報活用IR室教授の森雅生氏はこう話す。

「国立大学の法人化にともない、規制が緩和され活動の自由が広がりました。一方で、国民から高等教育と科学および学術研究を付託されており、一定の運営交付金と補助金のもと、計画性を持って運営することが求められています。そこで重要になるのが、自大学の教育研究活動を客観的にモニタリングし、効果的な資源配分と投資を行なうことです。IRの役割の1つはそうした活動をデータ分析から支援することです」(森氏)

  • 東京工業大学 戦略的経営オフィス・情報活用IR室特任講師 今井匠太朗氏

    東京工業大学 戦略的経営オフィス・情報活用IR室 特任講師 今井匠太朗氏

IRでは学内の情報を網羅的に収集して分析することが大前提だ。しかし、東工大ではさまざまなデータが各所に分散し、情報の収集が難しい状況だったという。戦略的経営オフィス特任講師の今井匠太朗氏はこう説明する。

「一部の情報はデータベース化こそされていましたが、多くは電子ファイル、印刷物など形式が定まっておらず、フォーマットもバラバラでした。そのため、データ収集やデータ分析のためのクレンジングに大きな負荷がかかっていました。また、システム化に際しても現行業務をそのまま電子化するため、個別の事情を強く反映してシステムはフルカスタマイズまたはスクラッチ開発されていました。そのため、独立したシステムが乱立していました」(今井氏)

そこで取り組んだのが、電子承認・決裁システムの導入と情報の一元化だ。ユニリタの業務改善・BPM(Business Process Management)ツール「Ranabase」と、住友電工情報システムのワークフロー基盤「楽々WorkflowII」を組み合わせ、業務の見直しと業務フローの標準化と電子化を推進、学内で統一したシステムを利用するための基盤を構築した。

「Ranabase」と「楽々WorkflowII」を組み合わせて業務改善

Ranabaseは、業務プロセスの可視化やデータの可視化、課題分析、施策立案支援などの機能を提供する業務改善・BPMツールだ。クラウドベースであるため、運用設計不要で利用でき、関係者を招待して協同作業やレビューを行ないながら、課題の解消を図っていける。学内外との連携もコラボレーション機能で容易に実施することが可能だ。

一方、楽々WorkflowIIは、本格的なワークフローを簡単・スピーディに実現し、グローバルにも対応した電子承認・電子決裁システムだ。マウス操作でワークフローを構築し、スマートフォンやタブレットからも利用できる。承認フローの柔軟な制御や人事組織変更への対応、他システムとの連携など、大規模で複雑な運用を実現するための拡張性も兼ね備えている。森氏は2つの製品を選定した背景をこう説明する。

「今回のプロジェクトが文科省の補助金事業『国立大学経営改革促進事業』に採択されたことを受け、全学で統一した方法で取り組むことを目指しました。楽々WorkflowIIは、事業採択前から全学統一の基盤として採用したいと検討していた製品です。また、IR室ではユニリタが提供するETLツールを利用していた経緯があり、コンサルティングを依頼する過程で、Ranabaseの紹介を受けました。ワークフローの構築とそれに向けた業務の可視化を2つの製品で分けて行なうことで、それぞれの強みをいいとこ取りできると考えました」(森氏)

今井氏は、導入の決め手となったポイントについて、こう説明する。

「Ranabaseは、GUI操作で簡単に業務フローを書くことができることがメリットです。あらかじめ用意されている部品を画面上に配置するだけなので、学習コストを低く抑えられます。また、As-is(現状)とTo-be(あるべき姿)の両方を記述し、作業の所要時間を記載できることにも注目しました。効率化の効果を数値化できるうえ、可視化により業務の問題点に気付けるため、ユーザーが効果を実感しやすいのです。一方、楽々WorkflowIIは、複雑な承認経路に対応できることに加え、ツリー状の組織図や代理人などの日本の組織習慣に合っていることがポイントでした。デフォルトで用意されている機能だけで多くの業務に対応でき、個別事情にも対応できる柔軟なシステム設計であることを評価しました」(今井氏)

業務プロセスの可視化や実装を自分たちで行なうことを重視

スケジュールとしては、2020年3月に楽々WorkflowIIを、続いて4月からユニリタの業務見直しコンサルティングとともにRanabaseを導入し、学内の11部署で業務の可視化と電子化に取り組んでいる。森氏は、導入にあたって苦労した点として「業務の可視化や見直しのノウハウがなく、やり方がわからなかったこと」を挙げる。

「具体的な進め方が明確になっていなかったことに加え、対象となる学内業務が数百あり、システム担当者だけですべての実装は困難でした。そこで、ユニリタのコンサルティングでは、小規模な業務プロセスの可視化や、自分たちだけで実装可能な業務から取り組みを進め、まず知識や技術、スキルの継承を目指しました。その方法論をベースに学内での普及を推進していったのです」(森氏)

また、今井氏は、システム担当者だけでなく、業務担当者を巻き込んでいくことが必要だったと話す。

「全学での取り組みとなるため、システム担当者ではなく、現場の業務担当職員が参加して、可視化から実装までを自分たちで行っていくことが重要でした。Ranabaseを使った業務の改善作業も業務担当者と協働で行い、自分たちで電子化の設計まで実装できるようにしました。また、楽々WorkflowIIは業務ごとに管理権限を付与できる設計で、国内の組織文化に合うシステムだったため、そうした取り組みを推進しやすかったです」(今井氏)

導入を支援したユニリタのクラウドサービス事業本部ビジネスイノベーション部 部長の冨樫勝彦氏はこう話す。

  • 株式会社ユニリタ クラウドサービス事業本部ビジネスイノベーション部部長 冨樫勝彦氏

    株式会社ユニリタ クラウドサービス事業本部ビジネスイノベーション部 部長 冨樫勝彦氏

「Ranabaseは、ツール内でメールアドレスを指定するだけで、簡単に関係者を業務改善活動の輪に呼び込むことができます。導入から1年余りで累計約80名の職員の皆様が業務プロセスのレビューに参加されましたが、特段の教育も必要なく、すぐに業務プロセスの中身の議論に参加いただくことができました。コロナ禍の中でも100%オンラインで業務改善の検討を進められたことは、このツールがあってこそだと言え、当社としても想定を超える嬉しい成果となりました」(冨樫氏)

  • Ranabaseによる業務フローのサンプル。直感的なUIとガイド機能、また充実したテンプレートにより誰でも業務フローを書くことが可能

    Ranabaseによる業務フローのサンプル。直感的なUIとガイド機能、また充実したテンプレートにより誰でも業務フローを書くことが可能

また、住友電工情報システム ビジネスソリューション事業本部の牛島猛氏はこう話す。

  • 住友電工情報システム株式会社 ビジネスソリューション事業本部 第一システム開発部 東京フレームワーク技術グループ アシスタントマネージャー テクニカル・コンサルタント 牛島猛氏

    住友電工情報システム株式会社 ビジネスソリューション事業本部 第一システム開発部 東京フレームワーク技術グループ アシスタントマネージャー テクニカル・コンサルタント 牛島猛氏

「As-isの分析やTo-beの定義に苦労されているプロジェクトは多いのですが、今回のプロジェクトはあらかじめTo-beを明確に定義し、現場の担当者と協同する体制を築かれたことが成功のポイントだと思います。ワークフローへの実装も非常にスムーズに進みました」(牛島氏)

  • 楽々WorkflowIIのTop画面 。申請業務をスムーズに進めるわかりやすいメイン画面で自分のToDoを「見える化」

    楽々WorkflowIIのTop画面。申請業務をスムーズに進めるわかりやすいメイン画面で自分のToDoを「見える化」

BPMの方法論を構築し、職員の意識改革と改善の文化を醸成

東工大は、この導入プロジェクトを進行するなかで大きく3つの導入効果を確認しているという。1つめは、作業時間の短縮と業務の効率化だ。効率化した業務フローをシステムに乗せることで、作業時間を4割も削減するといった効果を確認している。電子化まで完了している業務は現在2件だが、数百件の業務が電子化されるなかで、全学での効果はより高まる見込みだ。

2つめは、BPMの方法論と具体的な手法を構築できたことだ。職員が自分達で手を動かしながら、見直しから電子化までを行うため、業務への理解が深まり、自ら改善するという姿勢が生まれるようになった。「Ranabaseと楽々WorkflowIIという2つの企業が提供している製品が予想以上に相性が良く、可視化から電子化までがスムーズに流れることを知り驚いています。手法が標準化されたことで部署を越えた業務改善のコミュニティもできはじめています」(今井氏)

3つめは、職員の意識改革と文化の醸成だ。「これまで業務の可視化という文化はほぼありませんでしたが、その価値が実感され、根付きはじめています。大学のDXは教育や研究に注目が集まることが多いですが、業務改革は大学だけでなくどの企業でも取り組む基本のDXだと思います。この取り組みに関わった職員の業務への理解や姿勢が変化したことが、最も大きなトランスフォーメーションだと感じています。全学的にも新しいシステムを導入する前に、業務の見直しを行うことが推奨されるようになっています」(森氏)

今回のプロジェクトは、当初こそ学内情報の一元化を目指した取り組みだったが、業務改善としての効果が大きいことや、COVID-19の流行と重なったこともあり、東工大のDXの主要な取り組みの1つに位置付けられるようになった。今後は、全学普及を目指した体制の充実が検討されており、さらに、業務の見直しや効率化が学内の文化として定着できるよう、BPMからワークフローを活用した電子化までの教育プログラムの開発も進めていく方針だ。ユニリタと住友電工情報システムは、今後も東工大のIRおよびDXの推進を支えていく。

関連情報

・ユニリタ公式サイト
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・Ranabase
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・住友電工情報システム公式サイト
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・楽々WorkflowII
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