神戸製鋼グループの株式会社コベルコ科研(本社:兵庫県神戸市)では、事業のひとつとして素材や部品の試験・研究業務をグループ内外の企業から受託している。試験・研究部門のうち腐食防食技術室は、燃料電池など水素エネルギー活用への注目が高まる中、国内最高レベルとなる水素ガス圧力140MPa、温度(低温)-80℃の高圧低温水素ガス環境中において材料試験、暴露試験を行うことが可能な設備と技術を有している。
この腐食防食技術室では2020年9月から、iPhone上で動作するClaris FileMakerのカスタム Appを使い始めた。このカスタム Appは、GMOグローバルサイン・ホールディングス(以下、GMOグローバルサイン・HD)が提供する「hakaru.ai(ハカルエーアイ)byGMO」と連携し、iPhoneで撮影した目盛の写真から自動で計測数値を保存できる。
計測数値記録における作業負荷やデータの正確性などの課題が浮き彫りに
腐食防食技術室では、腐食試験の結果を計測しているが、さまざまなメーカー・文字盤の計測器が混在していた。それでも計測結果をデジタルデータとしてPCに出力できる計測器ならよいが、PC出力機能がない場合は担当者が計測時にメモを取るか計測器からプリントアウトし、それをもとに数値をPCでスプレッドシートに入力することになる。コベルコ科研の沖伸介氏は、当時の課題を次のように説明する。「なかなか自動化できずに最後まで残っていたのが、デジタルでデータを出力できない測定器の存在だったのです」(沖氏)
業務改善と品質向上を実現するために、神戸製鋼グループ全体ではものづくりの課題を解決するプロジェクト活動(品質・ものづくりキャラバン隊)が行われている。そのプロジェクトメンバーの一人、株式会社神戸製鋼所の細川徹氏はこの活動を通して、メーターを自動で読み取りたいというニーズを持っている事業所が多いことを知ったという。当初は海外の事業所からの要望が発端でこの取り組みを始めたが、まずは計測器の台数が特に多く自動化が急がれているコベルコ科研で、最初にメーターの自動読み取りシステムを導入することにしたのだ。
海外からも利用でき柔軟性やコスト面でのメリットも大きいhakaru.aiとFileMaker
海外からの接続テストもふまえて検証した結果、メーターの写真をAIで解析するソリューションhakaru.aiの採用が決まった。GMOグローバルサイン・HD 企画開発部 AI・IoT営業グループ チーフの末舛仁史氏は導入における課題を次のように説明する。
「神戸製鋼グループさんは事業部や業務によって項目数などデータの抽出方法がさまざまでした。hakaru.aiは読み取ったデータを閲覧できるWeb台帳を提供しているものの、お客様ごとにカスタマイズできる仕様ではなかったため、hakaru.aiだけではご要望を叶えることができなかったのです」(末舛氏)
そこでhakaru.aiの点検APIを利用してFileMakerのカスタム Appを構築することにした。FileMakerを選択した理由について細川氏は次のように説明する。「FileMakerなら柔軟にシステムを構築でき、稼働後の仕様変更がしやすく、コストも安く済むのが利点です。システム構築をお願いしたパットシステムソリューションズ有限会社(以下、パットシステム)さんの拠点が神戸というのも、仕様検討から開発、テスト、導入後の問題改善などの保守対応が取りやすかったですね」(細川氏)
パットシステム 社長の中村孝仁氏は「将来的にグループ内への横展開をふまえた汎用性のあるシステムを構築するためには、メンテナンス性の高いFileMakerが最適でした」と語る。
細川氏はこのカスタム Appにかかる1年間の費用は、全ての計測器をデジタル出力対応のものに置き換え、システム構築する費用の10分の1以下だったと説明する。導入時に購入したハードウェアはiPhoneだけで、多額の初期費用がかからず、さらに計測器の交換や追加などがあってもカスタム Appの変更が不要であることから、コスト面のメリットは大きかったという。
具体的な検討開始からわずか4カ月で本番稼働! メーターを写真に撮るだけでAIが読み取るカスタム App
hakaru.aiの検証や、GMOグローバルサイン・HDおよびClaris、パットシステムとの打ち合わせを経て、コベルコ科研に導入する具体的な検討に入ったのは2020年5月のことだったが、神戸製鋼グループ内で品質管理を徹底する方針があり、同年9月までという短期間でこのカスタム Appを稼働させる必要があった。
hakaru.aiには、デジタルメーターだけでなくアナログメーターなど6種類の読み取り用AIモデルがすでに用意されているため、AIモデルに学習をさせるためのデータを用意する必要がなく、学習の作業時間を省略できたため、検討開始からわずか4カ月で稼働させられたという。
計測器に表示されたデジタルやアナログなど多種多様なメーターをiPhoneのカメラで撮影すると、写真がカスタム Appに保存されると同時にhakaru.aiのクラウドに送信され、AIで読み取られた計測数値がカスタム Appに返される。その際は、メーターの周囲に関係のない数字があっても必要な数値が認識される。担当者は自動で読み込まれた数値を確認し、誤認識されていればカスタム App上で修正すればよい。
試験担当者の作業工数は減少、手順の標準化が今後の課題
腐食防食技術室で試験を担当する三谷俊裕氏はカスタム Appの使用についてこう語る。「最初はとっつきづらいと感じた人もいたようですが、慣れてきたと思います。まだ大幅な時間短縮とまではいかないものの、着実に作業の工数は減っています」(三谷氏)
同じく腐食防食技術室室長の市川史郎氏も「以前は、計測数値を入力することが不便だと気づいていなかったので、このシステムの導入が作業フローを見直すきっかけになりました。試験担当者の作業負担は減りましたが、数値を慎重に確認しようとしているため現時点では、手順が人によってさまざまです。これから手順を標準化しようとしています」と、引き続き作業効率向上の課題に取り組む考えを語る。
データのトレーサビリティ、信頼性、価値が高まる
従来、計測結果の報告書に疑問が生じた場合は計測時に記録したメモまでさかのぼって見直す必要があるが、それには大量の書類の中から探さなくてはならないうえ、手書きの文字が読みづらいといった問題もあった。カスタム Appは写真と数値データが一緒に保存されることから、読み取りや入力のミスをすぐに発見でき、誰が試験をしたかもすぐにわかる。データにアクセスできるメンバーが限られているので、さらに信頼性は高くなる。
試験データはクラウドに長期間保存されるため、蓄積されたデータをさまざまな用途で活用することも可能だ。「カスタム Appをこの先5年、10年と使い続けていくことでデータが蓄積され、これが次世代の大きな財産になるでしょう」と沖氏は期待を込める。
気になる読み取りに関する精度は? 今後はペーパーレスや横展開を目指す
現状では測定器に表示される数字の字形やメーターの状態によってhakaru.aiによる認識の精度に差があり、これまでの実績では100%正しく読み取られている測定器もあれば30%程度のものもある。
ある月の保守レポートによると解析成功率(正誤にかかわらずAIが読み取って数値化できたもの)は95%、そのうち数値が正しく判定されたのは81%だった。この結果を受けて細川氏は、GMOグローバルサイン・HDとともに解析率、判定率をさらに高めていくという。また、細川氏によれば神戸製鋼グループ内にはビュレットに液体を入れて目盛を読むというニーズも多く、こちらも並行して相談中とのことだ。
カスタム Appの導入によるペーパーレス化について、沖氏は「現時点ではエビデンスを紙で残すという社内ルールがあるため、紙の書類を完全になくす段階にはなっていません。しかし将来的にはペーパーレスにする方向で活動しています」と語る。
前述した通り、このカスタム Appは神戸製鋼グループ全体のプロジェクトの一環であり、コベルコ科研の他部署やグループ企業への展開を見据えている。そのためには汎用性が重要で、たとえば腐食防食技術室が使用する報告書作成機能などはあえてカスタム Appに含めていない。その一方で、各社、各部署からの要望は当然あり、汎用性とのバランスを考えながら広げていきたいと細川氏は今後の展望を述べた。
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