互換CADとは、AutoCADのファイル形式であるDWGファイルの読み込みやDWG形式での作成・保存に対応したCADソフトだ。AutoCADに比べて安価であるため設計ワークフローの一部を互換CADに入れ替えることで、コストを下げられるというメリットがある。
しかし、DWGは非公開のファイル形式であり、AutoCADとの互換性が保証されているわけではない。操作性や機能もAutoCADと同等ではなく、AutoCADのアップデートにともなって互換性が損なわれるというリスクもある。では実際に互換CADはどこまで業務で使えるものなのか。そんな懸念や疑問を徹底的に検証したのが、CADコンサルタントの井上竜夫氏だ。
井上氏は、株式会社大塚商会とオートデスク株式会社が開催したイベント「Otsuka & AUTODESK Collaboration DAY 2021」に登壇。「なぜ、やっぱりAutoCADなのか?〜互換CADとの信頼性の違いとは〜」と題して、自ら行った検証結果をレポートした。井上氏の講演から、CADソフトを活用して本当の意味で生産性を向上させるためのポイントを探っていこう。
「ARES」「IJCAD」「BricsCAD」を徹底比較!
井上氏が検証したCAD互換ソフトは、独Graebert社が開発する「ARES」、インテリジャパンが開発する「IJCAD」、ベルギーBRICSYS社が開発する「BricsCAD」の3製品だ。いずれもラインアップや機能がAutoCADに似ていることが大きなポイントとなる。一方で価格は永久ライセンスが9〜10万円、ネットワークライセンスが10〜20万円と低く抑えられており、AutoCADからリプレースすることでコストの削減が期待できる。とはいえ実際には、細やかなところで操作感や機能が変わってくるという。
井上氏は、AutoCADのサイトで提供されている「建築平面図の作成チュートリアル」と同じ操作をAutoCADと3つの互換CADにて実施し、操作を終えるまでにかかった時間を計測した。3つのCAD互換ソフトについては、2021年3月末時点でダウンロード可能であった最上位グレードの体験版を使用し、AutoCADについては同様のタイミングで提供されていた「AutoCAD 2022」を使用した。井上氏がAutoCAD の操作に慣れている点は留意する必要があるものの、AutoCADが1時間28分のところ、ARESは3時間15分、BricsCADは2時間32分、IJCADは1時間51分という結果となった。なぜここまで操作時間に差が付いたのだろうか?
生産性やトレーニングを含めた全体コストの把握が重要
CADソフトは、右クリックメニューやリボン、ブロックパレットなどのインタフェースの違いによって操作感が変わってくる。
「AutoCADと同様の操作を行う場合、機能の実行方法などに戸惑う面があるほど操作に時間がかかります。細かい操作感の違いが積み重なることで全体の生産性に大きく影響します」(井上氏)
生産性の落ち込みは、CADソフト乗り換え時に必ず発生する問題だ。CADソフトの操作に慣れることでこの落ち込みは次第に回復していくが、問題は回復後さらに生産性を上げられるかどうかにある。というのも、設計現場は2Dから3Dへの移行が進んでおり、3D設計によって生産性はさらに向上することがあらかじめ見込まれているからだ。
井上氏は、互換CADはライセンスのコストを見れば安価ではあるものの、「導入における生産性の一時的な落ち込み」と「落ち込みを解消するためのトレーニングの実施」などをふまえて全体でコストを考える必要があると注意を促した。
レイアウトや異尺度対応における細かな操作での違い
さらに井上氏は、互換CADで提供される機能の比較も詳細に行っている。そもそも互換CADは「アクションマクロ」をはじめサポートしていない機能が多いのだが、今回は3つの互換CADに共通で用意されている「レイアウト」「異尺度対応」「ブロックの使用」「ダイナミックブロック」「データ書き出し」という機能をピックアップし、実際に比べてみた。
「レイアウト機能は、ページ設定で用紙を決めて図枠を配置しビューポートを作成するという操作性において、AutoCADと大きな違いはありませんでした。しかしARESではビューポート内のオブジェクトが正しく表示されず、BricsCADではビューポート尺度と注釈尺度の設定がわかりづらく感じられるなど、操作感で差が出てしまいました」(井上氏)
また異尺度対応の場合、AutoCAD では数値を入力するだけの作業も互換CAD では縮尺倍した値を入力する必要があるなど、操作しづらい面があったという。
ダイナミックブロック対応やデータ書き出しに課題
ブロック機能においても、特に大きな違いを感じたのが「ダイナミックブロック」だ。拘束パラメータを用いたダイナミックブロックやブロックパレットなどは利用できず、作成できるダイナミックブロックも機能が制限されることが多かった。こうした「機能がないこと」や「制限されること」によって、データの書き出しも不完全なものになる。たとえば「ダイナミックブロックが名前のないブロックになる」など、うまくデータが変換できないケースがあったのだ。
「今回はスクラッチで作成した比較的綺麗なデータを使いましたが、実際の図面にはさまざまな要素が含まれており、それが繰り返し使用されます。大事な知的財産である図面を安全安心なAutoCADネイティブのDWGで保管することが重要だと考えます」(井上氏)
バージョンアップによって提供される新機能も重要となる。近年、特に注目されているのがクラウド活用によるデータ共有やコラボレーションだ。AutoCADは、Webアプリやモバイルアプリ、Autodesk Docsなどでクラウド活用が可能。互換CADにも類似した機能はあるが、「共有ビュー」「図面の共有」「トレース」などで欠けている面があると井上氏は指摘した。
既存機能を最大限使うことで、生産性を向上させる
このように互換CADは操作性や機能に違いが多く、井上氏は互換CADをAutoCADの代わりではなく、DWGファイル形式が扱える全く別のCADソフトと考えるべきと指摘。特に問題になるのが、図面データのやり取りにおける損失だという。
「データそのものが欠落する場合や、そのままでは使えずあらためてCADデータとしてトレースする必要があるなど、情報や時間を含めたコストが発生し、データの価値が損なわれてしまいます。確かにDWGデータのやり取りができることは大きな魅力です。しかし、導入における生産性の一時的な落ち込みや教育面でのコストなども考慮すると、単に安価なツールとして受け入れていいものでしょうか」(井上氏)
さらにAutoCADは最新のテクノロジーを採用しながら生産性向上を目指してバージョンアップが続けられており、40年近くにもわたる更新の歴史がある。井上氏は次のように述べ、講演を締めくくった。
「最新の機能は必要ないから安い方がよい、という安易な考えで互換CADを検討するのは、コスト、リスク、生産性の面からお勧めできません。むしろ、既存のAutoCADの機能を最大限活用することにより、生産性を向上させることに目を向けてほしいと思います」(井上氏)
オートデスクは、2021年5月7日に「AutoCAD」の新ラインアップをリリース。同社 技術営業本部 大浦誠氏はこう述べる。
「これまでの『AutoCAD LT』の機能に『3Dの機能』や『カスタマイズのためのAPI』などの機能を備えた新『AutoCAD』を、『AutoCAD LT』と同等の価格でご提供させていただきます。AutoCAD LT は新規の販売を終了しますが、製品の開発を終了したわけではありません。現在 AutoCAD LTのサブスクリプションにご加入いただいているユーザー様は、今後も引き続きAutoCAD LTをお使いいただけますし、サブスクリプション契約を更新していただくこともできます。ただ、同等の価格で AutoCADをお使いいただけますので、例えば次の契約更新を迎える際に、AutoCADを検討してみてはいかがでしょうか。」(大浦氏)
AutoCAD を使用したことがない場合でも30 日間の無償体験版があるため、強力な2D図面の作成編集機能に加えてAutoCAD LT にはなかった3D モデリング機能やプログラミングカスタマイズ、CAD標準仕様などを試すことも可能だという。また、7つの業種別ツールセットを含めたソフトは従来通り「AutoCAD including specialized toolsets」(通称 AutoCAD Plus)として変わらず販売。機械設計やプラント設計、電気制御設計など、業種に特化した便利な機能が含まれており、さらに効率化を図ることが可能だ。AutoCADは機能面、価格面ともに既存ユーザー、新規ユーザー双方にとって魅力的なラインアップとなって生まれ変わった。
常に生産性の向上を目指し進化し続けるAutoCAD。互換CADのライセンスコストの低さに目を向けるのか、事業全体のトータル的なコスト、リスク、生産性へ目を向けるのか。事業拡大を目指すのであれば、後者がより重要だと感じる方も多いのではないだろうか。いずれにせよどちらかの選択を迫られたとき、AutoCADと互換CADのメリット・デメリットを今一度見直し、慎重に検討していきたいものだ。
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※配信期間:2021年6月30日(水)まで
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