株式会社京都セミコンダクターは2020年8月、SMT(表面実装)に対応した2波長フォトダイオードである「KPMC29」を発表。2021年4月より量産受注を開始する。本稿ではこのKPMC29の詳細を紹介しつつ、開発担当の板崎 優氏に活用シーンと設計意図を伺った。

老舗光半導体専業メーカーが発表した「KPMC29」の4つの特徴

京都セミコンダクターは、創業41年という老舗の光半導体専業メーカーである。同社は通信向けの高速フォトダイオードや、FA向けの受光系センサーなどに強みを持ち、こうした分野に特化した製品ラインナップを提供する。また、昨年末には北海道にある同社工場をシーメンスのMindConnect NanoやMindSphereを利用してIoT化するといった、先進的な取り組みを積極的に進めている。

今回紹介するKP-2 二波長フォトダイオード KPMC29もそうした一連の製品の流れの中にあり、その特徴は以下の4点だ。

  1. SiとInGaAsという2種類の受光素子を組み合わせることで、400~1,700nmという非常に広い範囲の波長の光をとらえることが可能になった

  2. SiとInGaAsの2つの受光素子を同一光軸上に積層することで、光学設計が容易になった(Si/InGaAsで別々の光学系を用意したり、1本の入射光を分配したりする必要がない)

  3. 高さ1.1mmという超薄型パッケージ(同社の従来製品と比較して体積を1/8に小型化)であり、ハンドヘルドデバイスなどにも採用可能

  4. SMTでの実装に対応することで、実装コストの低減と大量生産に対応

1台2役の新しい付加価値を持ったフォトダイオードの強みとは

1つ目の特徴である2種類の受光素子を組み合わせたことについて、京都セミコンダクターの板崎 優氏は次のように説明する。「900nmをピークに400~1,100nmあたりをカバーするSiフォトダイオードと、1,600nmあたりをピークとし、1,000~1,700nmあたりをカバーするInGaAsフォトダイオードの2つを組み合わせることで、従来のフォトダイオードでは実現できなかった、新しい付加価値を持った製品となっています」(板崎氏)。

たとえば光ファイバーのテスターであれば、これまでだとMMF向けの850nm近辺向けと、SMF(シングルモードファイバ)向けの1,310nm近辺/1,550nm近辺向けでそれぞれ異なるテスターを用意するか、プローブ部の差し替えが必要とされていた。これは受光センサーが物理的に異なるためだが、KPMC29を利用すればまとめて受光できるので、結果1台で850nm/1,310nm/1,550nmの全部をカバーできるテスターが構成できることになる。

医療機器系の活用例でいえば、SpO2(パルスオキシメーター)やPR(脈波数)などは、現状で可視光や近赤外線を利用して測定する必要があるため、KPMC29でいえば665nm(赤色光)から880nm(赤外光)までをカバーするSi側のセンサーのみを利用して構成されている。

「今後は多波長の光源を用いる傾向にあり、PVI(脈波変動指標)やSpCOカルボキシヘモグロビン濃度、SpMet(メトヘモグロビン濃度)、PI(灌流指標)などより多くの測定を行おうというニーズが高まりつつあります。こうした用途でもKPMC29を利用すれば、光源を増やすだけでハードウェアの仕様を変更せずに対応できます」(板崎氏)。

産業分野では、たとえば放射温度計を構成する場合、2つのセンサーの光電流の比を利用することで、一種類のセンサーを利用する場合に比べて、より正確な放射温度測定が可能になり、温度の測定範囲そのものも広がる。あるいは多波長光源を利用してのスペクトル分析などにも、やはりKPMC29の広いカバー範囲が効果的である。

「カバーする波長の幅だけでいうと、赤外分光法を用いたセンサーは世の中に多数存在しており、これらの方がカバー範囲ははるかに広いです。ただし可視光から近赤外線までをカバーする製品は少なく、赤外分光法を用いるセンサーは複雑な構造をとるためコストも大きく跳ね上がり、小型化は難しいのですが、 KPMC29と必要な波長のLEDを組み合わせることで対応できます」(板崎氏)

株式会社 京都セミコンダクター 開発本部 開発第3Gシニアエンジニア 板崎 優氏

株式会社 京都セミコンダクター
開発本部 開発第3Gシニアエンジニア
板崎 優氏

この2波長のセンサーという特徴と対を成す2つ目の特徴が、同一光軸という工夫であり、同社は構造面で特許を取得している。

「KPMC29ではSiセンサーの内側に窪みを作り、そこにInGaAsセンサーを配することで、2種類のセンサーに対して最適な光学設計を簡単に行えるようにしています。Siセンサーは可視光範囲のみをカバーし、InGaAsセンサーが捉える範囲の波長はほぼスルーすることになるため、InGaAsセンサーからすればカバーが二重に掛かっている程度で、測定に大きな支障はありません」(板崎氏)

その一方で、センサーの中心に入射光を当てるだけで、SiセンサーとInGaAsセンサーのどちらも最適な状況で測定ができるという設計の容易さは大きな武器である。先に述べた光ファイバーのテスターにせよ、医療機器系にせよ、2つのセンサーを並べればもちろん同じ機能を得られるが、両方のセンサーに均等に入力できるように光学系で工夫するのは大変である。そのうえ、大型化してしまい、減衰も多く、なによりコストが上がることになる。KPMC29の方式は、この問題を非常にシンプルかつエレガントに解決している。

小型化・量産化を実現し、さまざまな活用シーンに対応

そして3つ目の特徴は、超薄型パッケージであることだ。実は同社にとって2波長フォトダイオードはこれが最初の製品ではなく、すでにKPMC24Aという2波長フォトダイオード製品を出荷中である。ただしこれは金属筐体にガラス製の受光窓を組み合わせた高信頼性気密パッケージ(TO-CAN)であり、信頼性こそ高いものの、フットプリント(9.15mmφ:KPMC29は5.7×4mm)および高さ(リードを含めずに4.43mm:KPMC29は1.1mm)は共に大柄で、それこそウェアラブル機器などに採用するのはかなり無理があった。もともとは同社が光通信に関する北米のtelcordia規格に準拠した製品を多く提供しており、KPMC24Aはこの流れに沿って開発されたものである。もちろんキャリア向けの光通信機材にはこうした高い信頼性が求められるからやむを得ない部分はあるが、民生用機器を含む一般的な用途では、ここまでの高い信頼性は必ずしも必要というわけではない。

「KPMC29は基板に樹脂モールドという構成なので、通信機器向けグレードほどの信頼性はないのですが、そのぶん小型かつ背が低いパッケージにすることで、コスト低減に加えて携行機器への実装なども無理なく行えます。具体的には、リストバンド型機器に組み込むこともKPMC29ならば可能になり、もちろんもう少し大きな携行型テスターなどであってもセンサー部を小型化できれば、従来よりも筐体デザインの自由度が高めやすくなり、機器そのものの小型化にも繋がります」(板崎氏)

4つ目の特徴は、SMT対応パッケージとなったことで、実装にはリフロー槽が利用できるようになった。これが以前のKPMC24Aの場合、リードを手作業ではんだ付けする必要があり、ごく少量の生産はともかく量産コストが嵩み、大量生産には向いていない。結果、高価な機器に利用できても、ある程度コストを意識する製品では採用しづらい、という問題があった。ところがKPMC29ではリフローによる自動実装が可能で、実装面積もずっと小さいため機器の小型化(≒低コスト化)に貢献する。またパッケージそのもののコストも下がっているため、トータルとしてより低価格な製品向けに使いやすくなっており、ある程度まとまった数が予想される製品であっても製造に困難が生じることはない。

「可視光あるいは近赤外線を使った機器の企画やプロトタイプ構築などを行っている設計者の方は、一度KPMC29の採用を検討してみることをおすすめします。新たな付加価値の提供、あるいは構造の簡素化などに繋がるヒントがKPMC29から生まれてくるかもしれません」と板崎氏は製品の強みを熱く語ってくれた。

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