かねてから推進されていた働き方改革に加え、2020年は感染症拡大防止の目的から、テレワークをはじめとする「新しい働き方のスタイル」が求められる年となった。働き方の多様化が進む今、企業が競争力を維持・強化していくには、「社内」「社外」をどうつなぐかが、大きな課題となっている。

マイナビニュースでは2020年11月17日"社内ネットワークの重要さ"と"業務用Wi-Fiをどう活用すべきか"をテーマにオンラインセミナー「WIRELESS NAVI2020 快適なテレワークに必要なのは業務用Wi-Fi!~withコロナ時代に実践企業から学ぶ~」を開催した。

本稿では、各セッションの概要について簡単に紹介する。

【基調講演】総務省が示すテレワーク / Wi-Fi活用におけるセキュリティ要件

総務省 サイバーセキュリティ統括官室 参事官補佐 梅城 崇師氏は、いくつかの実態調査結果を示しながら、これからのビジネスに求められる要件について語った。梅城氏はまず、我々が直面している危険性について説明した。

  • 総務省
    サイバーセキュリティ統括官室 参事官補佐
    梅城 崇師 氏

  • IoT機器を狙った攻撃はこの3年間で2.6倍にも増えている。その理由としては、IoT機器をハッキングすれば、ネットワークを介してシステム全体へ影響を与えられること、機器のライフサイクルが長いため、セキュリティ対策が古い状態のものがあり狙いやすいこと、ハッキングされても運用側でそれがわかりにくいことなどが挙げられる。

    またコロナ禍におけるテレワークの増加も攻撃を誘発させる要因となっており、5~8月には顧客情報の流出疑惑や、自動車工場が停止に追い込まれるなどの被害が発生している。 狙われているのは大企業だけではない。大阪商工会議所の調査によれば、中小企業の18%が標的型攻撃メールを受信し、7%が実際にランサムウェアの被害にあっている。また同商工会議所の別の調査では「取引先がサイバー攻撃を受け、その被害が自社に及んだ場合」には、47%が損害賠償請求を、29%が取引停止を考えているとの結果が出た(※)。
    企業規模を問わずセキュリティ対策は重要なわけだが、具体的にどんな対策をとればいいのかがわからないために、コロナ禍にあってもテレワークの導入に踏み切れていない企業もあるという。 こうした企業の助けとして、総務省では「テレワークセキュリティガイドライン」や、より実践的でわかりやすい「テレワークセキュリティに関する手引き」を策定・公表するほか、専門家による相談対応も行っているので、それらを利用して欲しいと梅城氏は言う。 当日のセッションでは、無線LANのセキュリティ対策や、IoT機器を利用する際に注意すべきポイントなどについても語られており、テレワーク体制の構築や拡充を考えている方々、既存のIoT環境の安全性を見直したいという方々には、参考になる内容だった。

    ※大阪商工会議所「中小企業におけるサイバー攻撃対策に関するアンケート調査」および「サプライチェーンにおける取引先のサイバーセキュリティ対策等に関する調査」

    【事例セッション1】これからの柔軟な働き方と働く場

    近年、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)が注目され始めていると、三井デザインテック株式会社 企画・マーケティング室長 ワークスタイル戦略室 チーフコンサルタント 大川 貴史 氏はいう。

    • 三井デザインテック株式会社
      画・マーケティング室長
      ワークスタイル戦略室 チーフコンサルタント
      大川 貴史 氏

    • ABWとは、業務の内容や参加メンバーに合わせて、ワーカー自らが最適な仕事場所を選ぶ働き方を指す。社内にオープンタイプの会議コーナーや個室、テレビ会議用ブース、カフェテリアなど、さまざまな用途に合わせた設備を揃え、ABWを実践できるようにした事例もある。こうした環境では、ワーカーが仕事場所を変えるために社内を移動する中で、同僚や顧客と顔を合わせたり、ほかのプロジェクトに関する話が耳に入ってきたりすることが増える。そしてこの「偶発的な出会い」が、新しいアイディアの創出、新たな発想を生む可能性を高めるという。 実際、ABWをとり入れることで、ワーカーにどのような影響が現れるのだろうか。大川氏はワークプレイスを「固定席」「単純フリーアドレス」「ABW(自席はない)」「固定席ABW(自席もある)」の4つにわけて行った比較調査(※)の結果を示した。そのうちの一つ、ワーク・エンゲイジメント(仕事に対する熱意・活力・没頭の状態)との関係性を示したのが下図だ。

      • これを見ると「ABW」「固定席ABW」が高いことがわかる。講演ではほかにも個人のパフォーマンスとの関係や、ストレスとの関係などを比較した結果が語られたが、どれもABWにメリットがあることを示している。

        ※東京大学 大学院 経済学研究科 准教授 稲水伸行氏と三井デザインテックによる産学協同研究でのインターネットアンケート調査

        三井デザインテックのオフィスもABWを実践したものになっているが「withコロナ」に対応した仕組みも導入されている。たとえばビーコンセンサーを利用して、誰がどこにいるのか、どのエリアが密なのかが簡単にわかる「Beacapp HERE」というソリューションもその一つだ。仮に感染者が出た場合、濃厚接触者をトレースするといった活用法もあるという。
        大川氏はアフターコロナ時、ワークスペースは4つの型(従来型、リモートワーク主体型、リモートワーク併用型、リモートワークを活用しながらコミュニケーションに特化した共創スペース中心型)になると予測しつつ「企業としてどのようなアイデンティティを目指すのか、そのためにはどんな働き方が必要かを考え、それを実現する手段としてオフィスを捉えることが重要になってくるでしょう」と、講演をまとめた。

        【事例セッション2】強固な認証環境を簡単につくるには?

        ソリトンシステムズでは、独自に開発した「Soliton CSA (Cyber-Space Analytics:サイバー空間アナリティクス)」基盤を用いて、世界中で起きているハッキング事件と盗まれた情報を調査分析、国内企業の被害を特定するサービスを提供している。その調査によれば、昨年、闇サイトで流通しているのを発見された27億のメールアドレスとパスワードの組み合わせのうち、約2,000万件がjpドメインのものだったと株式会社ソリトンシステムズ プロダクト&サービス統括本部 部長 佐野 誠治 氏はいう。

        • 株式会社ソリトンシステムズ
          プロダクト&サービス統括本部
          部長
          佐野 誠治 氏

        • また同社では、企業や団体、各種機関の職員のアカウントがサイバー空間にどれくらい漏洩しているか、流出元サイトはどこかなどをレポーティングするサービスも提供しているが、実に99.1%の組織で、現役職員のアカウント漏洩が確認されたとのことだ。不正に入手したID・パスワードを使えば、高度なハッカーでなくとも、正規の入り口から通常のログインと同様に侵入できてしまう。

          ではパスワードに頼らない認証方法とは? 2要素認証、2段階認証がデファクト化されており、最近ではワンタイムパスワードや確認コードのSMS配信といった手法もあるが、フィッシング詐欺のリスクがあることには注意しなければならない。

          また私物のデバイスで、組織の情報資産にアクセスしていると、そのデバイスが穴となって漏洩の危険を生む。これを防ぐためには端末を特定し、企業側が許可していない端末からのアクセスを遮断する必要がある。端末特定の手段としては現在、MACアドレスやIMEI(識別番号)を利用するのが一般的だが、これらはプライバシーへの配慮から利用できなくなる流れにあり、今後は端末にインストールするタイプのデジタル証明書を利用するのが有効だという。

          証明書の入っていない端末では情報資産にアクセスできないようにするのだ。 証明書を閉じた秘密鍵はフィッシングで盗むことができず、正規の証明書がなければ暗号化通信が確立されないので、ハッカーはログイン画面にすら辿り着けず、侵入予防にも効果を発揮するというメリットもある。

          最後に佐野氏はこれまでデジタル証明書の導入は、技術的にも手間やコストの面でも課題が多く、ハードルが高かったが、それらの課題を解消したソリューションとして佐野氏は「Soliton OneGate」を紹介した。簡単な利用設定で、ID・認証管理の自動化支援、複数のクラウドサービスでの多要素認証、オフィスWi-Fi / VPNの安全性強化などが可能となる語り、講演を締めた。

          • デジタル証明書導入を容易にするSoliton OneGate

          • 【事例セッション3】無線LANについて知りたい!無線LANトラブルシューティング&実践企業Wi-Fi事例

            オフィスのインフラ構築で豊富な経験を持つ株式会社フルノシステムズ 技術主任 中山 裕隆 氏は、無線LANの導入時に注意すべきこと、解決策などについて具体的な事例を交えて語った。

            • 株式会社フルノシステムズ
              技術主任
              中山 裕隆 氏

            • タブレットやノートPCが突然つながらなくなったという場合、その原因として多いのが「アクセスポイント(AP)への電源供給」だという。APにつなげる有線ケーブルを、カーペットの下にじかに敷いているような環境だと、人がその上を歩いているうちに劣化が進み、APへの電源供給ができなくなることもある。また中山氏の経験では、スイッチポートの1ポートだけが故障して、電源供給の役割を果たせていなかった例もあったそうだ。接続にトラブルがあった場合は、まずAPの電源ランプが正常かを確認するのが、解決の近道になるかもしれない。

              また通信が安定しない原因は「電波の強さ」ではなく、建物内部での干渉波や電波の乱反射にあると、中山氏は説明する。たとえば2.4GHz帯 802.11b / gは多くの無線機器で利用されており、1~14までのチャンネル選択が可能となっているが、隣同士のチャンネルを選んでいると電波干渉が起こりやすい。離れたチャンネルを選択することで解消できるが、そのためには実質3チャンネルしか利用できないということに注意すべきだという。

              • また壁の素材や室内に置いてある物にも、電波は影響される。たとえば木材やガラスは電波を透過させるが、コンクリートや金属は遮蔽あるいは吸収しやすい。水分を多く含んだ物体は電波を吸収しやすいため、オフィスの観葉植物が電波に影響を与えることもあるそうだ。

                Wi-Fi環境を整える際に押さえるべきポイントを、中山氏は5つ挙げる。第一には機種選定。端末が多いのであれば、それに対応できる機種を選ぶこと。第二にセキュリティ。Wi-Fi機器は家庭用につくられた物も多いので、企業での利用に問題がないかを確認すること。第三に監視機能。多拠点に複数設置するのであれば、保守メンテナンスには監視機能が重要となる。第四に将来の増設を見据えた拡張性。最後にサポートの充実性。家電店で家庭用機器を買い揃えるより、ベンダーが提供する業務用機器を選べば、手厚いサポートも付属する。

                Wi-Fi環境整備や導入で得られる効果を知るうえで、参考になる講演だった。

                【パネルディスカッション】

                最後は大川氏、中山氏をパネリストに招いてパネルディスカッションが行われた。快適なワークスペースづくりをテーマに、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)や、それを支えるWi-Fi技術が主な話題となった。

                • 大川氏は、オフィス内のアクティビティを「集中」「交流」「協働」「学習」の4つに分類し、そうした行動を支える機能を持っていることが、ABWに適しているオフィスの特徴だと語る。

                  「海外のミレニアル世代は、大学のキャンパスのようなところで働きたいという人が多いですね。大学では教室のほか、学食や図書館など、自分で場所を選んで勉強していたのに、企業に入ったら決まった自席があって、そこだけで仕事をすることなる。それに抵抗を持つ若手も多い。そうしたミレニアル世代に向けて、アメリカやオーストラリアでは、はやくからABW環境へのシフトに取り組んでいたと言えます」(大川氏)

                  三井デザインテックがオフィスをABW環境に切り替えた際、一番課題になったのはマネジメントだったという。管理職からは部下が見えにくくなるため、仕事をしているのかどうかの判断がつかないからだ。同社ではコミュニケーションの取りやすいABW環境の中で、部下との信頼関係を固めてもらいながら、シフトを進めていったという。

                  ABW環境ではWi-Fiが必須となるが、有線LANだけだったオフィスに無線LANを追加するにあたっては、苦労することも多いと中山氏はいう。

                  「有線ケーブルを何度も継ぎ足して使っているケースが多く、その把握から行わなければならないこともあります。無線LANの導入にあたっては、できればネットワーク図を用意しておいていただけるといいですね。ある意味、今回のようにオフィスを移転・縮小しようという機会に無線化するのがいいのではないでしょうか」(中山氏)

                  ―― その他、両氏の経験・知見に基づく話がいろいろと聞けるパネルディスカッションは、今後のワークプレイス・デザインについての示唆に富んだものとなった。

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