中小・中堅企業のIT化が進んだ結果、セキュリティやBCP、働き方改革など、従来より大企業が抱えていたものと同様の課題に取り組む必要性が高まっている。例えばサイバー攻撃にしても、いまや大企業同様にビジネスに致命的な影響を及ぼすリスクも増大しており、経済産業省も2017年11月に「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」のVer 2.0を公開するなど、中小・中堅企業のセキュリティ対策は、ますます大きなテーマとなってきている。

こうした背景を受けてデルは、中小・中堅企業におけるIT活用とその課題を考える「中小・中堅企業向けセミナー」を2月21日に札幌で開催した。

今回のセミナーでは、デルが新たに設立した、中堅企業ITシンクタンクの研究員らが講師を務めた。大阪に拠点を置く同シンクタンクでは、中小企業診断士の資格を持つ5人の研究員が、セキュリティ、BCP、働き方改革、労務管理、事業承継をテーマに、全国各地でのセミナー開催や調査レポートなどを通して積極的な情報発信を行っている。

デル 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水 博氏は、シンクタンク設立と札幌でのセミナー開催の意図について、次のように語った。

  • デル株式会社 上席執行役員 広域営業統括本部 本部長 清水 博氏

    デル株式会社 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水 博氏

「大阪でシンクタンクを設立したことによって、全国で共通する課題に応えることができるはずです。大阪では昨年、地震や台風の被害が相次いだこともあり、BCPへの関心度が高く、そのプランを策定している企業も増えています。我々の調査によると、北海道もBCPに積極的な企業が全国で3番目に多く、BCPやセキュリティをテーマにした話をぜひ聞きたい、という声が多く寄せられていたため、ぜひこの地でセミナーを開催したかったのです」

人材不足の時代に勝ち残る企業とは

「中小・中堅企業のための働き方改革」と題した講演に登壇したのは、ティーエスアイ 中小企業診断士の川尾 梢氏だ。

  • ティーエスアイ株式会社 インキュベーションプロデューサー 中小企業診断士 川尾 梢氏

    ティーエスアイ株式会社 インキュベーションプロデューサー 中小企業診断士 川尾 梢氏

「一億総活躍社会」の実現のため、2018年に働き方改革関連法案が成立。2019年4月から順次施行される。少子高齢化が進む現在、企業としても人材の確保はもちろん、1人当たりの生産性向上を目指す必要に迫られており、そのための働き方を模索する日々が続いている。

「働き方改革を進めているのに効果が出ないという企業は、"働き方改革"をすることが目的となっており、その先の"生産性向上"を見ていない可能性があります」と川尾氏は警鐘を鳴らす。

働き方改革は働きやすい職場環境を整え、社員のスキルアップとモチベーションを向上させて、労働生産性を向上、企業の業績を上げ、社会から選ばれる会社になることが目的とされる。

働き方改革関連法案が施行されるなか、実際に企業は何をすべきなのだろう。「まずは『労働参加率を向上させる必要』があります」と川尾氏は述べる。育児中の女性や介護に関わる人、外国人労働者、パラレルワーカーなど、さまざまな人材を活用することで労働力の不足を解消し、テレワークの導入で働く場所を選ばず仕事ができる環境を構築する。これにより、人材は少ない時間でも労働に参加できるようになるというわけだ。

2つめは「長時間労働の改善」だ。残業時間の上限規制や有休取得などが義務付けられるので、まずは労務時間の現状を把握し、管理職はマネジメントを行う必要がある。また主たる業務ではない時間の削減や、不要な業務を見極めて効果的な人員配置を行うことで、長時間労働を改善していくことも大切だ。

3つめは、「正社員と非正規雇用労働者の格差是正」。待遇差を排除する法整備が整った現在、同一労働、同一賃金を達成するための人事制度の整備や改革が求められているのだ。

こうした働き方改革を進めるうえで、企業が取り組むべきポイントを解説した川尾氏は、すでに取り組みを始め、成果を上げている企業の事例を紹介。多くのヒントがちりばめられた内容に、来場者は真剣に聞き入っていた。

「働き方改革を実践するうえで、さまざまな助成金もあります。企業の持続的な成長や労働生産性向上を目的とした取り組みの一つです。人材不足が深刻化するなかでも、発展を続け成長できる企業になれることを期待しています」と川尾氏は講演を締めくくった。

中小・中堅企業に求められるサイバーセキュリティ経営

次のセッションに登壇したのは、本シンクタンクの主任研究員である、一般財団法人 関西情報センター 中小企業診断士 原 一矢氏だ。同氏は、「中小・中堅企業のためのセキュリティ対策 今何が起きているのか? 選ばれる企業のサイバーセキュリティ経営」と題した講演を行った。

  • 一般財団法人 関西情報センター 情報化推進グループ 主任研究員 中小企業診断士 原 一矢氏

    一般財団法人 関西情報センター 情報化推進グループ 主任研究員 中小企業診断士 原 一矢氏

冒頭で原氏は、2018年6月18日に発生した大阪府北部地震における自身の経験や、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震を振り返り、企業におけるBCPの重要性を強調した。

続いて中小・中堅企業のセキュリティの現実について原氏は、「狙われるのは大企業ばかりで中小・中堅企業へのサイバー攻撃などほとんど存在しないと思われがちですが、実際にはほぼ100%の企業がなんらかの攻撃を受けています。さらに、そのなかには内部の情報が流出した可能性のある企業も一定の割合で存在するようです」と語った。

IPAが公表する「情報セキュリティ10大脅威 2019」では、サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃が、組織における脅威の4位にランクインしているが、「だからこそ、自社のためだけではなく、取引先のためにも、セキュリティ対策を考えなければなりません」という。

また、十分な情報セキュリティ対策を実践していれば顧客から信頼され、そうでなければ顧客から失望されるというように、セキュリティ対策はレピュテーションリスクとも密接な関係を持つようになってきている。

「企業の情報セキュリティに対する世間の目は、どんどん厳しくなっています。レピュテーションのマネジメントを含め、素早く適切な対策を行わなければなりません」(原氏)

こうした動向からも、今や情報セキュリティは中小・中堅企業にとっても重要な経営課題だ。そのため経営理念/事業目的と一致したセキュリティポリシーを作成し、現場へと落とし込むことが強く求められている。

「情報セキュリティの3要素とは、機密性と完全性そして可用性です。どのようなサイバー攻撃が行われ、どういったセキュリティ事件が発生しているかなどの情報を共有することで、セキュリティ意識が高まり、少しずつ行動につながっていきます。そこが“サイバーセキュリティ経営”を実践するポイントではないでしょうか」と、原氏は訴えて講演を締めくくった。

思い込みを排除するコミュニケーションとは

「中小・中堅企業のためのコミュニケーション改革」と題した講演に登壇したのは、ことば経営 中小企業診断士の中村 かおり氏だ。

  • ことば経営 代表 中小企業診断士 中村 かおり氏

    ことば経営 代表 中小企業診断士 中村 かおり氏

デジタル化がいかに進んでも、企業は組織でありコミュニケーションが欠かせないという事実は変えられない。円滑に運べばいいが、どうしても印象が悪い相手が出てしまう経験は誰もが持っているものだろう。

中村氏の講演のサブタイトルは「『使えない』部下・同僚が『頼れる』『可愛い』相手に変わるコミュニケーション」となっている。自分が理解できない言動をする相手がいた場合、それは少なからず自分がその人に影響を与えている可能性があるのだという。

「自分と未来は変えられるけど、他人と過去は変えられないのです。それよりもその人との良い環境が得られるように自分からアクションを起こすことが必要です」と中村氏は語る。

来場者は2人1組となってお互いを見つめ合う時間を設け、相手を「評価しない」難しさを体感した。

「人は無意識に相手を評価します。このことを自覚し、客観的に見ていないことに気が付いてください。自分が見ているものがすべてではなく、なんらかの判断基準を持って相手を見ているのです」(中村氏)

また、現実と非現実の判断がつかない、五感で認識する、肯定的な表現でしか理解できないといった脳の特性を解説。脳をコントロールできれば、「苦手だな」と思う相手に対して、今までと違った対応ができるのだという。

続いて、相手に対する苦手という思い込みを排除するためのスキルを紹介。「メタモデル(※)違反は質問で解消できます」という中村氏は、そのロジックを説明。来場者も一緒になって、メタモデル違反をしているネガティブな表現を解消する「質問」を発表し合った。

その後も「ネガティブに見える行動をする人は、その人にとって肯定的な意図がある」「すべてをポジティブに言い換えてみる」といったスキルについて解説。来場者とともに考え発表し合うという実践的なセミナーで、思い込みを排除するためのノウハウを学んだ。

「苦手だと思っている人、あるいは自分自身の短所でもいいです。思い込みを解きほぐして見方を広げてみてください」と最後に語り、一体感を共有した来場者の拍手とともに中村氏の講演は終了した。

※メタモデル:人は何かを伝えるとき、一般的に情報を完璧な形で伝えることはない。ある部分を省略したり、相手ももちろん知っているだろうという前提で話をしたり、またいつの間にか違う形で記憶した情報を話したりする。このようなことを、詳細に系統化したものがメタモデルだ。メタモデルの種類を理解することで、欠落した情報を明確にし、言葉によるコミュニケーションを完全なものにすることができる。

事業継続と持続的な成長のためにも必要となる新規事業の創出

続いて、ティーエスアイ 中小企業診断士 島吉 正人氏が、「中小・中堅企業のための新規事業立案 新規事業は体制づくりで9割決まる! うまくいく新規事業立ち上げ」というテーマで講演を行った。

  • ティーエスアイ株式会社 インキュベーションプロデューサー 中小企業診断士 島吉 正人氏

    ティーエスアイ株式会社 インキュベーションプロデューサー 中小企業診断士 島吉 正人氏

「新事業を立ち上げて軌道に乗せたい、でも何から手をつけていいのかわからない」といった声が、島吉氏のもとに多く寄せられているという。企業の成長のために新たな事業展開が必要となる理由について、島吉氏はこう持論を述べた。

「顧客ニーズの変化や技術革新によって、従来通りのビジネスのままでは売上維持が困難になっています。加えて少子高齢化や今後の労働人口の減少、個人消費の低迷による市場規模の縮小、さらには災害が発生するリスクなどを踏まえたとき、新規事業の必要性は明白です」

そうしたなか、全国的にも行政などによるスタートアップ支援の動きが拡大しており、スタートアップ企業の数や資金調達額も順調に増えている。新規事業を立ち上げる背景の一つは、事業を継続し、持続的に成長すること。そのための施策が、「本業に代わり得る事業を創り利益を確保すること」と「将来の経営人材を育成すること、つまり管理者人材の確保」だ。

新事業を立ち上げるタイミングについて島吉氏は、iPhoneのプロダクトライフサイクルを例に、財務的にも余裕のある成熟期に手がけることの重要性を説いた。

ただし新事業立ち上げの課題となるのが、中小・中堅企業では約半数が挙げている人材不足だ。またコスト負担の大きさも障壁となるうえ、マーケティングや組織体制の面での課題もある。では、こうした課題を解決するにはどうしたらいいのだろうか。

まず人材については外部リソースの活用、クラウドやITの活用による業務の効率化が有効。マーケティングに関しては、営業部門だけに頼るのではなく組織全般でマーケティングを実施し、さらに外部リソースを活用するのも効果が見込める。組織体制では、専任の担当を任命して組織として人材教育を行うとともに、社長や取締役などの経営層をチームに入れて全社的に実施していく。そしてコスト負担についても、産学連携やベンチャー企業活用、補助金・助成金の活用といったアプローチがある。

「新事業立ち上げの課題解決の、一番のカギとなるのが、事業を引っ張る責任者の存在です。そして自社の強みを確認してマーケティングを実施します。その過程では、組織としての支援も必要です。IT・クラウドや各種専門家・資金調達など、外部リソースの活用もポイントになります」(島吉氏)

最後に島吉氏は、新事業立ち上げの成功事例(東大阪市の製造業2社)と失敗事例を取り上げながら、その違いについて解説した。

「2社の共通の成功要因は、やはり事業を牽引する中心人物が存在したことや、経営層の理解があったこと、そして外部リソースを活用するとともに、クラウドシステムなどのIT技術活用も積極的に行い、戦略的にマーケティングを実施できた点です。内部にないものは外部からとってくる、というのが今の主流になっています」と、島吉氏はこの講演を締めくくった。

中小・中堅企業におけるITインフラの現状と課題とは

「中小・中堅企業向けクラウドサービス」と題した講演に登壇したのは、デル 広域営業統括本部 デジタルセールス&広域営業本部長 木村佳博氏だ。同氏はまず、IT市場動向を紹介。

「オンプレミス市場が縮小する一方で、IaaSやSaaSといったクラウド市場は60%増と非常に伸びています。そしてオンプレミスでも、ハイパーコンバージドインフラの伸びが著しいです」(木村氏)

  • デル株式会社 広域営業統括本部 デジタルセールス&広域営業本部長 木村 佳博氏

    デル株式会社 広域営業統括本部 デジタルセールス&広域営業本部長 木村 佳博氏

木村氏は、企業の情報システムのインフラについて、過去から現在、そして未来への移り変わりを整理した。そのうえで、中小・中堅企業市場におけるITトレンドについて、次のように言及した。

「時代の流れはクラウド、オープンソースに向かっており、そこへの投資も積極的で、技術者の確保も容易です。しかし一方で、オンプレミス、エンタープライズ系のシステムなども継続して存在しており、安定稼働・現行踏襲、システムダウン不可などの理由から、大がかりな技術変更が難しい状況となっています」

クラウド活用を検討するうえでポイントとなるのが、基本的にベストエフォート型のサービスであることと、初期投資が安価といわれている従量課金でも使えば使うほど費用がかさむという点だ。

「これらの点についてよしとするのであれば、クラウドは良い選択肢になりますし、逆にそうでない場合は、使ってみて後悔することになるでしょう」(木村氏)

このような状況下で、パブリッククラウドではなく、あえてオンプレミス環境を選択するケースも増えている。その典型的な例が、HCIでクラウド的なインフラを社内に設置し、構築や運用の手間を抑えるというケースだ。HCIの認知度は中小・中堅企業で46%と高く、比較的急速に市場に浸透している。

デルが実施した調査の結果から、中小・中堅企業のクラウド利用動向を見ると、100%クラウドに移行したのはわずか2%であり、一部で利用している割合は18%だ。注目するITキーワードについての回答では、クラウドへの注目度は確実に高まっている一方で、オンプレミスを見直す傾向もあり、クラウドからオンプレミスへの回帰が年々増加している。

続いて木村氏は、中小・中堅企業におけるサーバー仮想化の活用の実態や課題などについて解説した。

興味深いのは、サーバー仮想化を実施している企業と実施していない企業では、実施企業のほうが28%も業績が良かったことだ。さらに実施企業のほうが、IT予算は17%、働き方改革への取り組みは4%高くなっている。

木村氏は「サーバー仮想化によって、さまざまな変化を柔軟に受け入れる体制が整っていることが大きく影響しているのではないでしょうか」と分析した。

最後に、デルが提供する中小・中堅企業向けクラウドサービスについて、「人事系と労務系でさまざまなサービスを提供していますが、いずれもその裏側では当社の機器が稼働していますので、技術的にも安心して利用できるのがポイントだと自負しています。こうしたサービスを活用することで、上手に負荷を減らしながらリソースの最適化が可能です。クラウドを活用するには、どういったところにどう使えばいいのかわからないという相談も増えています。そこで2019年2月19日に無料で利用できるクラウド利用診断サービス・サイトを立ち上げましたので、ぜひ利用していただきたい」と力説して、本講演の幕を閉じた。

  • 展示ブースの様子

    展示ブースの様子

  • パフォーマンスに優れ、密度が最適化された1U、2ソケット・ラック・サーバー。スケールアウトコンピューティング向けにパフォーマンスと密度の最適なバランスを実現します

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