魔法を使った冒険ファンタジーとは一味違う、世界最初期のスペースオペラ

ウェルズの小説は文明批評の色合いが濃いが、エドガー・ライス・バローズの作風はまったく異なっていた。ジョン・カーターは肉体派で、映画では家族との過去を背負っているものの、基本的には前向きな性格でヒーロー役にふさわしい。ウェルズの作品が科学的な正確さをドラマの骨組みにするハードSFとすれば、バローズの作品はフロンティアの舞台を宇宙に移した活劇、最初期のスペースオペラといえる。「ジョン・カーター」は科学的な正しさは二の次にして、正義感あふれる主人公が怪物と戦い、美女を救って活躍する姿を心躍らせ楽しむことの出来る作品なのだ。

また、この映画には子どもの頃思い描いたような「今このままの姿、能力の自分」が「火星に行くこと」でヒーローになれるというロマンがある。地球にいたジョン・カーターは重力の軽い火星へ行くことで何十メートルもジャンプしたり、鎖をちぎったりすることができるようになる。周りは火星の重力に慣れてしまっているために、そのままのジョン・カーターが、火星ではヒーロー級なのだ。実際には火星は地球の三分の一程度の重力なので、何十メートルはさすがに無理かもしれないが、100年前のこの物語を読んだ人々はまだ人類が到達していない異世界での人類の可能性に言い知れぬロマンを感じていたのかもしれない。そして映像技術の発達により“想像”が“映像”となり、100年経った今も老若男女問わずロマンを感じさせ続けてくれる作品である。

重力が地球より少ない火星では、人間は高くジャンプできる。

さまざまなクリーチャーが登場する「ジョン・カーター」の中で抜群にかわいいのが、緑色人に飼われている番犬ウーラである。顔はいかついが地球の犬と同じように愛きょうがあり、物語の中でジョン・カーターの忠実な愛犬となる。主人を慕いついてくる様子はほほえみを誘い、主人を守って果敢に戦う見せ場もある。陰謀が渦巻くバルスームにおける息抜きとして、すばらしい働きを見せてくれる。

火星の番犬ウーラ。地球の犬と同様、主人に忠実で動きがかわいい

原作から100年たった今、火星への探索は大躍進を遂げている。この8月6日にはNASAの火星探査車「マーズ・サイエンス・ラボラトリー(キュリオシティ)」が火星に降り立った。さっそく火星から画像を送ってきており、今後の成果が期待される。

火星探査車「キュリオシティ」は全長3メートル、総重量900キロと軽自動車ほどの大きさ。多数の分析装置を積んでおり、火星についての新たな知見をもたらすだろう(提供:NASA/JPL-カリフォルニア工科大学)

火星人との交流という夢は100年前の空想で終わってしまったが、火星探査は続けられる。ジョン・カーターのような軽装ではなく宇宙服が必要で、高い崖もひとっ飛びというわけにはいかないだろうが、人類が赤い大地の上に立つ日がいつか必ず来るだろう。 そんな未来に思いを馳せつつ、この記念的作品を鑑賞してみてはいかがだろうか。

2012年8月22日(水)ブルーレイ/DVD/オンデマンド 新登場!!


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© 2012 Disney Trademarks “JOHN CARTER,” JCM Design and “PRINCESS OF MARS”owned by Edgar Rice Burroughs, Inc. and used by permission.

近年の火星探索史


現在の地球人は火星についてどのくらいのことを知っているだろうか。 地球人による火星探査の最初の成果は冒頭にも述べたとおり、今から約50年前に初めて得られた。アメリカのマリナー4号が1965年に火星から1万キロほどの距離を通過し、22枚の写真を撮影した。送られてきた写真を見た当時の人々は、大いに落胆したことだろう。火星人の文明を発見できないどころか、水路や生命の痕跡すら見当たらなかったのである。 続く火星探査では文明探しから一歩後退して生命探査が行われた。1976年に火星に降り立ったバイキング1号と2号は、持ち込んだ実験装置に火星の土を入れて生命活動の痕跡を探 した。この実験の結果もかんばしいものではなく、現在の火星表面に生命体は存在しないという見方が広がった。


マリナー4号が撮影した火星の表面。運河はなくクレーターが広がっていた(提供:NASA/JPL)


バイキング2号が撮影した火星の大地。荒れ地が広がり、生命の気配はない(提供:NASA/JPL)


その後、地球に落ちてきた隕石から、昔の火星には水が豊富に存在したとわかっている。 火星の岩石が地球上で隕石として見つかることがある。隕石の内部に封じ込められていた気泡の成分が、バイキング探査機によって観測された火星の大気と一致したのである。そうした火星起源の隕石のひとつが1984年に南極で回収された隕石「ALH84001」である。この隕石に含水鉱物が含まれていたことから、火星に水があった証拠とされた。 さらに1996年、このALH84001からバクテリアによく似た微生物らしき化石も見つかっている。分析を行ったNASAのデビッド・マッケイを中心とする研究グループは、これがかつて火星に存在した生命体の痕跡であるとしている。 2004年に火星に着陸した火星探査車「オポチュニティ」は火星のクレーター「エンデュランス」の壁に堆積岩を見つけた。これは液体の水がある環境下で作られたものと考えられている。


ALH84001の中に、バクテリアの化石にも見える物体があった(提供:NASA)


2台の火星探査車「スピリット」と「オポチュニティ」は全長1.6メートル、重量180キロで電動カートほどの大きさ。火星での90日間の活動目標を大幅に越えてさまざまな探査を行った。「スピリット」は2011年に7年間のミッションを終了、「オポチュニティ」は現在も火星で活動中である(提供:NASA/JPL-カリフォルニア工科大学)(提供:NASA)


「オポチュニティ」が撮影したエンデュランス・クレーターの崖。堆積岩は水が豊富に存在する環境で作られる(提供:NASA/JPL/コーネル大学)

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